これは最善の選択肢と言っていい。技術の流出だとか雇用の崩壊などとたわけた議論があって、産業革新機構の支援に肩を持つ声も聞こえたが、ファイナンシャルエンジニアリングの小手先でシャープが蘇生することはありえない。それにしても後になって偶発債務のリスト(隠していた悪いニュース)を鴻海に出したシャープの経営陣の愚かさにはあきれる。
今回の事案は、実はこの四半世紀に日本の電子・電機産業で起きた、「栄光の絶頂から、転げ落ちた日の丸エレクトロニクス凋落の最終章」でもある。
1989年バブル景気の真っただ中で世界のトップ10半導体メーカーの6社は日本勢が占めていた。それが今ではどうだろう。上場基準を逸脱し監理ポスト入りしたあの瀕死のT社ぐらいしか残っていない。
あの綺羅星のような多くの会社が、没落する中で雇用を守れただろうか? 技術流失を守れただろうか? 当時の経営陣は口をつぐんでいるが答えは「否」である。今日のシャープと同じことが起こっていたのだ。いったい世界で何が起こったのか?
急速に変容する世界(市場・ニーズといってもよい)を見る目がなかったのだ。「いいものを作れば売れる」などと、世界の一部、しかも停滞・縮小する先進国市場やニーズしか見ず、将来の勝負の場所が急速に拡大する新興国に移るという認識も薄く、そこで勝てる算段など持たずに、古い考えと経営モデルにしがみついていたせいだ。
成人の識字率ゼロのアフリカのマサイ族の70%が携帯電話を持つ今の時代など、全く想定していなかったはずだ。猛烈なスピードで市場は新興国に拡大している。日本との所得格差が極めて大きいこれらの国の消費者にとっての「いいもの」への着想と、それを実現する戦略などなかったのだ。
自動車などでも同じだ。日本で走っている自動車など、中国やインドでは「買えるいい車」ではない。それに2050年には、エンジン付きの車の全廃が予定されているとなるとなおさらだ。
強烈なコモディティ化の進捗は、提供する商品の原価に占めるシリコン(半導体チップ)やクリスタル(液晶ディスプレイ)の原価率を押し下げるのは当然のことだ。それを実現してしかも利益を上げる構造を造り上げるのが経営陣の仕事のはずだが、それを怠ってきたツケが凋落の原因ではなかろうか?
鴻海は世界市場を視野に、時代の要請にいかに応えるかを必死に模索してきたグローバル企業である。その鴻海の傘下にシャープが入ることになれば、現在の状況はどうあれ、シャープの若手にとって未来の成長機会は横溢している。要はそれを生かす能力が有るか無いかだ。能力をつけるには村を出て、世界の力のあるものと他流試合をしなくてはならない。滅私奉公を美徳と社員に押し付けていたように見える社風や、技術流出を防ぐなどの意識で外の世界の変容に目を向けず守りに入っていた「たこつぼ風」生き方とはおさらばして、新しい世界に思いっきり羽ばたいてほしい。
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