金融庁が推進する人材マッチングのプラットフォーム「REVICareer(レビキャリ)」の認知と活用が広まっている。レビキャリは、全国の地域金融機関などを仲介役として、大企業でスキルとキャリアを積んだ人材と、地域の中堅・中小企業とをつなぐ事業で、政府系機関である地域経済活性化支援機構(REVIC(レビック))が運営している。全国的な人口減少が問題となる一方、大都市圏には人材が集中しており、地方における働き手不足が加速する中、レビキャリに寄せられる期待も膨らんでいる状況だ。

これを受け今回、金融庁 監督局長 伊藤 豊 氏にレビキャリの意義と狙い、将来の展望などをお聞きした。

また後半では、レビキャリを活用する富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement & Growth統括部 キャリアオーナーシップ支援部 部長 伊藤 正幸氏と、レビキャリの運営を担う地域経済活性化支援機構(REVIC)地域企業人材部長 和瀬 幸太郎氏との対談の内容をお伝えする。都市部の大企業がレビキャリをどのように活用し、どんな期待を抱いているのか、レビキャリが多様な働き方にどのような影響をもたらすのかを迫った。以下にインタビューの内容をレポートする。


プロフィール


  •  伊藤 豊 氏

    金融庁 監督局長
    伊藤 豊 氏

    1963年11月生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部卒業後、1989年大蔵省入省。米国コーネル大学留学。大蔵省銀行局銀行課課長補佐(長期信用銀行 信託)、金融監督庁監督部銀行監督第二課課長補佐、産業再生機構企画調整室上席企画官、東京証券取引所上席審議役、財務省主税局税制第三課長、財務省主税局税制第二課長、同大臣官房秘書課長、金融庁監督局審議官、同総合政策局総括審議官、2022年から金融庁監督局長。

  • 伊藤 正幸 氏

    富士通株式会社 Employee Success本部 Engagement & Growth統括部 キャリアオーナーシップ支援部長
    伊藤 正幸 氏

    大学卒業後、金融機関に就職。2000年に富士通ラーニングメディアに入社。経営企画業務に従事する。2019年から富士通の総務・人事本部人材開発企画室にて、グループ全体の成長支援企画を担当。現在は、Employee Success本部 Engagement & Growth統括部 キャリアオーナーシップ支援部で、キャリアオーナーシップの推進、組織変革や、社員の自律的な学びの文化の醸成に関する企画を行っている。

  • 和瀬 幸太郎(わせ こうたろう) 氏

    地域経済活性化支援機構(REVIC)経営企画本部 地域企業人材部長
    和瀬 幸太郎 氏

    1998年、日本銀行に入行。2004年の内閣官房郵政民営化準備室出向などを経て2010年から金融庁に転籍、監督局銀行第二課総括課長補佐に就任。2013年に日本貿易振興機構(JETRO)香港の経済調査・企業支援部長に就任し、2016年帰国。その後、金融庁の法務室長(兼)調査室長(兼)保険企画室長、消費者庁の企画官(公益通報担当)などを経て2023年からREVIC地域企業人材部長としてレビキャリを担当している。

金融庁伊藤氏、富士通伊藤氏・REVIC和瀬氏

金融庁 監督局長 伊藤豊氏に聞く。金融庁による人材マッチング事業の意義と狙い、将来の展望

レビキャリは、金融機関を通じ地域企業の人材ニーズに応える

金融庁 監督局長 伊藤豊氏
――金融庁が人材マッチング事業を手がけるのはなぜでしょうか。

金融庁というと、一般的には金融機関に対する検査や監督などのイメージを持たれることが多いのですが、その一方で、金融機関による取引先企業に対しての経営支援に関する業務も行っています。特に、近年では、金融機関の役割は融資などの金融面に関する支援だけにとどまらず、事業承継や事業再生に関する相談などのあらゆるニーズに応える必要が生じており、経営人材の確保もその一つです。金融庁が全国の中堅・中小企業に対して実施したアンケートでも、経営人材の紹介に対する地域の企業からの地域金融機関への期待の高さがうかがえており、金融庁としても、地域金融機関を介した人材マッチングを後押ししていくこととしました。

――そうした背景がある中で、改めてレビキャリをスタートさせた背景や狙いを教えてください。

最終的な目的は、日本全国の中堅・中小企業に元気になってもらうことです。そのためには、人材の活躍は必要不可欠です。一方で、特に地方では経営人材の不足が大きな経営課題になっています。この課題を解決する鍵となるのが、都市部の大企業人材とのマッチングを可能にする人材データベースの構築だと考えました。というのも、大手の民間人材紹介会社も様々な人材サービスを提供していますが、人材のデータベースや求人情報は都市圏に集中しており、地域企業での就業を希望する大企業人材に特化したデータベースは、現状では決して充実しているとは言えません。そのため、金融庁がこのレビキャリの事業に取り組み始めたのです。

――データベースを構築するために、大企業人材の情報はどのように集めているのですか。

大きく2つあります。1つは大企業の人事部等への働きかけです。近年では、キャリアオーナーシップの推進やセカンドキャリアの支援を行う大企業が増えてきました。そうした中で、人事部に自社の社員をレビキャリに登録してもらう、あるいは、社内にレビキャリを周知し、登録の希望者を募っています。もう1つは大企業人材個人への直接的な働きかけです。人事部を介することなく、個人が自身の判断でレビキャリに登録します。民間企業が手がける人材データベースと同じような仕組みと捉えてもらって構いません。また、レビキャリの中に、どのような求人情報があるかは、大企業人材側が登録するかどうかに際して大きな判断材料になります。このため、最近では、地域金融機関への働きかけを強化し、地域企業からの求人情報の登録にも注力しています。

人材への研修・ワークショップと、地域企業への給付金で充実のサポート

金融庁 監督局長 伊藤豊氏
――レビキャリの概要、マッチングのスキームをご紹介いただければと思います。

地域金融機関は、取引先企業との長期的な関係性を構築する中で、その企業のビジネスを深く理解し、経営者と近い立場で議論ができます。こうした中で、取引先企業の人材ニーズをヒアリングし、REVICに構築した大企業人材のデータベースであるレビキャリの中から最適な人材を紹介・マッチングすることができます。

――レビキャリの大きな特徴、他の政策や民間人材紹介会社のサービスとの違いは、どういったところにあるのでしょうか。

地方の中堅・中小企業に主眼を置き、大企業での勤務経験を持つ人材とのマッチングを図ることです。また、単に大企業人材と地域企業との間を仲介するだけではなく、大企業人材に対しての研修やワークショップを行っていることもこの事業の特徴の一つです。

レビキャリに登録されている人材は大企業で多様なキャリアやスキルを積まれた方たちですが、そうした方々であっても、地域の中堅・中小企業で働く時に、様々なギャップに直面しがちです。こうした課題を解決するために、この事業では、無償で研修・ワークショップを受講できる機会を提供しています。研修やワークショップのプログラムとしても、地域で働くこと、あるいは中堅・中小企業で働くことの意義や実情を知っていただくようなマインドセットに関するものや、地域企業が抱える経営課題を解決するために必要となるスキルセットに関するものなどを揃えています。

――給付金制度もあるとお聞きしました。

レビキャリを通じてマッチングが成立すると、人材を採用した地域企業側に最大500万円の給付金が給付されます。地方を強調してお伝えしてきましたが、レビキャリの対象は全国ですので、三大都市を含めた全国の中堅・中小企業に同様に給付されます。

事業はポテンシャルが大きく、急成長している

金融庁 監督局長 伊藤豊氏
――レビキャリの現在までの成果をご紹介ください。

現在までに大企業人材の登録者数1,935人、地域企業の求人票登録数1,620件、マッチング成約件数が34件(いずれも2023年9月21日現在)となっています。本格スタートしてまだ2年とはいえ、私自身はまだまだ少ない、もっと大きなポテンシャルがあると感じています。実際、これまでの大企業への訪問、セミナーや説明会の実施、メディアを通じての広報などの地道な活動が実りつつあり、いずれの数値も急カーブを描いて伸びています。好循環が生まれており、これからの成長が期待されるところです。

なお、地域金融機関の登録数は122(2023年9月21日現在)で、全国の地方銀行をはじめ、信用金庫・信用組合にも認知が広まってきました。人材紹介が取引先企業に喜ばれ感謝される、そして、事業やビジネスも成長させる、という成果や手応えが増えてきたのではないでしょうか。このように、多くの地域金融機関でレビキャリがより前向きに捉えられてきています。
――伊藤さん自身はレビキャリにどのような思いがあるでしょうか。

日本は「地域」の集合体です。都市部の大企業だけが発展すれば良いというものではありません。地域の中堅・中小企業が元気にならないことには地域、すなわち日本全体の経済の発展が望めないのです。一方で、企業の発展の原動力となる人材が不足していることが、企業に対するさまざまなアンケート調査などから明らかになっています。レビキャリは、地域企業の成長に直接的な貢献ができるし、地域経済のためにもなる事業です。今後、ますます尽力すべき取り組みだと思っています。

――最後に今後の目標を教えてください。

定量的な目標としては、大企業人材の登録者数を1万人規模にすることです。先ほどもお伝えした通り、この事業が急カーブを描いて成長していますので、そう遠くない未来に達成できるものと確信しています。一方で、私たちは、このマーケットでのメインプレイヤーで居続けるつもりはありません。人材の流動性が高まり、地方の人材マーケットが拡大され、民間人材紹介会社のプレイヤーやビジネスも増えてくると、レビキャリの必要性も薄れてきます。そうなるまでにこの事業を育てたいと考えています。

キャリアオーナーシップを推進する富士通が金融庁の人材...

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