こども基本法でまず押さえたい「事業主の努力」
こども基本法における「事業主の努力」の前に、同じく「責務等」として記載されている「国の責務」、「地方公共団体の責務」を説明します。【国の責務】
第4条 国は、前条の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、こども施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
【地方公共団体の責務】
第5条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、こども施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内におけるこどもの状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
ここではまず、「こども基本法」が「国の責務等を明らかにし、こども施策を総合的に推進することを目的とした法律」であることを押さえましょう。
国・地方公共団体の責務を前提とした上で、「こども基本法」の第6条では「事業主の努力」を次のように示しています。
【事業主の努力】
第6条 事業主は、基本理念にのっとり、その雇用する労働者の職業生活及び家庭生活の充実が図られるよう、必要な雇用環境の整備に努めるものとする。
「こども基本法」において、事業主は「労働者の職業生活及び家庭生活の充実」、「必要な雇用環境の整備」に努めるとされています。この2点については、従業員101人以上の企業に策定などの義務がある、「一般事業主行動計画」(従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備などの計画)を定めた、「次世代育成支援対策推進法(第5条)」でも、事業主の責務として同じような内容が明記されています。
ここでポイントとなるのが、「事業主の努力」だけでなく、「国の責務」、「地方公共団体の責務」でも触れられている、「こども基本法」の『基本理念』についてです。
こども基本法における「基本理念」とは?
こども基本法の「基本理念」については、第3条で触れられています。ここでは直接条文に明記されたものではなく、その内容を分かりやすく説明した「こども基本法とは?」(こども家庭庁のパンフレット)からご紹介します。1.すべてのこどもは大切にされ、基本的な人権が守られ、差別されないこと。
2.すべてのこどもは、大事に育てられ、生活が守られ、愛され、保護される権利が守られ、平等に教育を受けられること。
3.年齢や発達の程度により、自分に直接関係することに意見を言えたり、社会のさまざまな活動に参加できること。
4.すべてのこどもは年齢や発達の程度に応じて、意見が尊重され、こどもの今とこれからにとって最もよいことが優先して考えられること。
5.子育ては家庭を基本としながら、そのサポートが十分に行われ、家庭で育つことが難しいこどもも、家庭と同様の環境が確保されること。
6.家庭や子育てに夢を持ち、喜びを感じられる社会をつくること。
事業主として留意すべき、こども基本法の「3つのポイント」
ポイント(1):会社として既存の労働関係法を遵守する
基本理念の5つ目に、「子育ては家庭を基本としながら、そのサポートが十分に行われ、家庭で育つことが難しいこどもも、家庭と同様の環境が確保されること」とあります。事業主として、まず初めにできることは、『家庭(従業員の子育て)のサポート』です。そして、そのサポートの方法が「必要な雇用環境の整備」であり、その基本となるのが法令遵守です。育児・介護休業法などの労働関係法を遵守することが、「こども基本法」に定める「事業主の努力」につながっていきます。
ポイント(2):会社として「こどもを“まんなか”に考える視点」を意識する
基本理念の1~3つ目では、「こどもの権利」について触れられています。そして、日本を含めた世界196の国・地域が締結している「児童の権利に関する条約」では、『生命、生存及び発達に対する権利』、『子どもの最善の利益』、『子どもの意見の尊重』、『差別の禁止』という4つの原則があります。この条約の4原則にのっとり、基本理念として明文化したのが、「こども基本法」の大きな意義です。「こども基本法」では、「国民の努力」も定められています。
【国民の努力】
第7条 国民は、基本理念にのっとり、こども施策について関心と理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が実施するこども施策に協力するよう努めるものとする。
ぜひ会社の取り組みを通じて、従業員が「こども基本法」にある「国民の努力」を果たすことができるかを考えてみましょう。
例えば、「育児休業の制度内容を対象者に周知するだけでなく、こどもの成長にも関わる大切な制度として全従業員へ周知する」など労務管理に関わることだけでなく、「商品・サービスの開発に、こどもからの意見を聴く機会をつくる」など、事業展開に関わることも考えられます。
会社として、こどもの最善の利益を考え、「こどもを“まんなか”に考える視点」を意識することが大切です。
ポイント(3):子どもの成長過程に応じて“ワークライフバランス”を推進できる仕組みを
基本理念の4つ目に、「すべてのこどもは年齢や発達の程度に応じて、意見が尊重され、こどもの今とこれからにとって最もよいことが優先して考えられること」とあります。こども基本法では、18歳や20歳といった年齢で必要なサポートがとぎれないよう、心と身体の発達の過程にある人を「こども」としています。「育児・介護休業法」などは、主に就学前(小学校入学前)に取り組むべき内容が明記されています。一方で「こども基本法」は、小学校入学後だけでなく、中学校卒業後、さらには、こどもの将来を見据えたものとなっています。それは基本理念の6つ目、「家庭や子育てに夢を持ち、喜びを感じられる社会をつくること」にもつながっていきます。
こどもの年齢だけにとらわれず、こどもの将来にとって最もよい社会を見据え、従業員が仕事と育児を両立できる“ワークライフバランス”の実現を目指していきましょう。そのためには、面談などの場面で「会社として、仕事のことだけでなく、従業員のこどもの成長を気にかける」などの配慮が大切です。そのような配慮の積み重ねが、会社として「こども」や「家庭」を応援できる職場風土の醸成へとつながっていきます。
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