少子化が進む日本。安心して子育てできる環境づくりが課題になっている。こうした中、改めてその重要性が高まってきているのが「育児休業給付金(育休手当)」だ。従業員が「育児休業給付金」の受給を申請した場合、事業主には対応が義務付けられている。さらに近年は段階的に育児・介護休業法の改正が行われ、適切な対応が求められている。そこで、本稿では「育児休業給付金」の計算方法や支給条件、申請方法、さらには政府が検討を進める給付金の引き上げについても解説していきたい。
「育児休業給付金(育休手当)」の計算方法とは? 支給条件や申請方法、賃金80%への引き上げ案について解説

「育児休業給付金(育休手当)」の概要と支給条件

●「育児休業給付金(育休手当)」とは

「育児休業給付金(育休手当)」とは、育児休業中の労働者が受給資格を満たしていれば、給与に代わって雇用保険から一定額の給付金が支払われる制度だ。女性に限らず、男性も取得できる。期間は原則として、こどもが1歳になるまで(延長あり)。さらには、「パパ・ママ育休プラス」制度を活用すれば、対象のこどもの年齢が1歳2カ月になるまで夫婦ともに育児休業の取得が可能となる。

●そもそも「育児休業(育休)」とは

「育児休業(育休)」とは、原則1歳未満の子どもを養育するための休業で、育児・介護休業法という法律に基づいている。育児休業の申出は、労働者の労務提供義務を一定期間、消滅させる意思表示となり、企業側はこれを拒むことはできない。

また、女性が出産する前後に取得する「産前・産後休業(産休)」とは違い、男女の両方が対象となる。

●「育児休業給付金」の支給条件

「育児休業給付金」が支給されるための条件は3つある。

(1)1歳未満のこどもを養育するために、育児休業を取得した雇用保険の被保険者であること
「育児休業給付金」が申請できるのは、原則こどもが生まれてから1歳になるまでの期間となる。もし、延長理由がある場合には支給対象期間を延長できる。いずれも、雇用保険に加入していること、会社に育児休業の取得を届け出て承認されていることが前提となる。

(2)育児休業を開始する前の2年間で賃金支払基礎日数が11日以上ある、または就業した時間数が80時間以上の月が12カ月以上あること
この要件は、正規雇用契約で働いていればほぼ満たされるといえる。いずれかに該当していなくても、第一子の育児休業や本人の疾病などにより、引き続き30日以上賃金の支払を受け取ることが困難であったなどの場合には、条件が緩和されるケースもある。

(3)育児休業を開始した日から起算して1カ月ごとの期間中の就業日数が10日以下、または就業した時間数が80時間以下であること
育児休業中に1カ月10日(80時間)を超えて働いた場合には、「育児休業給付金」は支給されない。

上記以外にも、契約社員や嘱託社員などの有期雇用労働者の場合には、「こどもが1歳6カ月(延長事由に該当する場合は2歳)までの間に労働契約の期間が満了することが明らかでない」ことが必要となる。よって、有期雇用労働者が「育児休業給付金」を支給される条件は4つとなる。

●育児休業給付金の支給対象とならない労働者

(1)育児休業を取得せず、産休後すぐに職場に復帰した
出産後は8週間(本人の請求と医師の認可がある場合は産後6週間)の産後休業が定められているが、その後、育児休業の取得をせず、すぐに職場復帰した場合は、育児休業給付金の支給対象とはならない。

(2)育児休業後に退職予定である
育児休業終了後に職場を退職する予定の場合は、育児休業給付金の支給対象から外れてしまう。育児休業給付金は、育児休業終了後に職場復帰することを前提としているからである。

ただし、受給資格を得た後に退職を予定して実際に退職したケースにおいては、退職日を含む支給単位期間(原則30日)の1つ前の支給単位期間までは支給対象とみなす。

(3)育児休業中に給与の80%以上が支払われる
育児休業給付金は、育児休業中の給与が、期間前の80%未満であることが条件だ。なお育児休業前6カ月における控除前の賃金総支給額(賞与は除く)を180で割った金額が基準となる。また80%未満であっても収入額によって、育児休業給付金が減額になる場合もある。

(4)自営業者や個人事業主など、雇用保険に加入してない
育児休業給付金は、雇用保険に加入している労働者を対象とした制度である。つまり、雇用保険に加入していない自営業者や個人事業主、専業主婦(父)などは支給を受けることはできない。また雇用されていても雇用保険に加入してない労働者も対象外となる。

「育児休業給付金」の計算方法

次に、「育児休業給付金」の計算方法を取り上げる。

●「育児休業給付金」の支給額の計算方法

「育児休業給付金」の支給額は、対象者の給与額や育児休業期間によって異なる。

まず、育児休業期間が180日目(6カ月)までであった場合には、1カ月毎の育児休業給付金額は、休業開始時賃金日額(賞与を除く育児休業開始前6カ月間の総支給額÷180)×支給日数(原則30日)×67%となる。

ただし、181日目以降では休業開始時賃金日額(賞与を除く育児休業開始前6カ月間の総支給額÷180)×支給日数(原則30日)×50%で計算する。

また、「育児休業給付金」は非課税である。所得税が掛からず、翌年度の住民税算定額にも含まれない。また、育児休業中は社会保険料も労使ともに免除される。

●「育児休業給付金」の賃金80%への引き上げについて

2023年3月、政府は少子化対策に向けて、男女ともに育休を取得した際に休業前と同程度の手取り収入を確保できるよう、「育児休業給付金」の水準引き上げを検討していると表明した。現状では休業前の給与の67%(手取り収入の約8割)を受け取ることができるが、それを休業前の給与の80%(手取り収入の約10割)に引き上げる構想だ。また、育児期間中に休業ではなく時短勤務した場合にも「育児休業給付金」を給付できるよう制度を見直すとも表明している。

いずれも実施時期は明らかにされていないものの、実現すればさらに育児と仕事の両立のハードルが下がると予想される。

●「育児休業給付金」の支給上限額

「育児休業給付金」の支給上限額も、育児休業期間によって異なってくる。具体的には、育児休業期間が180日目(6カ月)までであった場合には給付率は67%であり、1ヵ月間の上限額が30万5,319円。181日目以降では給付率は50%であり、同上限額が22万7,850円に設定されている。

●育児休業期間中に賃金が支払われている場合の「育児休業給付金」の支給額

育児休業期間中であっても、就業が臨時または一時的であれば働くことができるし、賃金も受け取ることができる。ただし、受け取った額によっては、「育児休業給付金」が減額される、または受け取れない場合もあるので注意を要する。

具体的には、育休開始から6カ月において休業開始時賃金月額の80%以上が支払われた場合は「育児休業給付金」が支給されない。同期間中に休業開始時賃金月額の13%超~80%未満が支払われた場合は、「休業開始時賃金日額×休業期間の日数×80%-賃金額」として算出する。また同期間中に休業開始時賃金月額の13%以下が支払われた場合は、「休業開始時賃金日額×休業期間の日数×67%」で算出する。

「育児休業給付金」の支給対象期間

次に、「育児休業給付金」の支給対象期間に関して説明する。

●「育児休業給付金」の支給対象期間

産後休業から継続して育児休業を取得する女性は、「育児休業給付金」の対象開始日が出産日から起算して58日目、終了日はこどもの1歳の誕生日の前々日となる。もし、こどもが1歳になる前に職場復帰すると、その復帰日の前日までとなる。さらには、先に提示した条件を満たしている場合には、最長で2歳になる日の前日まで支給できる可能性がある。

●「育児休業給付金」を延長できる条件

こどもが1歳になったとしても、以下のいずれかに該当する場合には1歳6カ月まで、さらにはその時点でも状態が変わっていなければ、最長2歳まで継続して「育児休業給付金」を受け取ることができる。

・保育園などに入園を申し込んでいるものの、入園できない場合
・こどもを養育する配偶者が死亡、または負傷・疾病により養育ができなくなった場合
・婚姻解消により配偶者とこどもが同居できなくなった場合
・6週間以内に出産予定、または産後8週間以内である場合

●2022年10月スタートの「育児休業給付金」の分割取得と「産後パパ育休制度」について

さらに、2022年10月に「育児休業給付金」の分割取得と「産後パパ育休制度」がスタート。これにより、育児休業制度が大きく変わった。

まず、「育児休業給付金」の分割取得に関して説明すると、従来は同一のこどもに関する2回目以降の育児休業では、原則として「育児休業給付金」は支給されていなかった。それが、1歳未満のこどもがいる場合に限り、原則2回の育児休業までは「育児休業給付金」が受給できるように変更された。
一方、「産後パパ育休制度」とはこどもの出生後8週間以内に、父親が4週間までの育児休業を取得できる制度だ。別名、出生時育児休業と呼ばれている。これは、こどもが1歳になるまでの育児休業とは別に取得できる制度であり、申請期限は原則休業の2週間前まで。また分割して2回取得することも可能になっている。

育児休業中の社会保険料、年金の扱い

従業員が育児休業中を取得する際に、加えて気になるのは、社会保険料や年金の扱いについてだろう。以下で説明していく。

●社会保険料の支払いは免除

前述したとおり、従業員が育児休業を取得したとき、その期間の健康保険や厚生年金保険などの社会保険料については、労使ともに負担が免除される。その際は従業員から申し出を受けた事業主が「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出する必要がある。なお、免除期間中も納付期間とみなされるため、従業員は保障を通常通り受けることができ、厚生年金の受給にも影響しない。

また雇用保険料は免除の対象外ではあるが、育児休業中にはそもそも賃金の支払いがないため発生しない。

免除となる期間は育児休業の取得開始日に属する月から、育児休業終了日の翌日に属する月の前月まで。開始日の属する月と終了日翌日の属する月が同じでも、当月に14日以上の育児休業を取得した場合は、保険料は免除となる。

「育児休業給付金」の申請方法

「育児休業給付金」の申請方法を説明したい。

●「育児休業給付金」の支給申請の必要書類

事業主側、被保険者側で必要書類が異なる。

▼事業主側
事業主側が「育児休業給付金」を申請するには、以下の書類が必要となる。

・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
・賃金台帳、労働者名簿、出勤簿、タイムカード(いずれも、写し)など
・母子健康手帳(写し)
・マイナンバーの番号 など

▼被保険者側
一方、被保険者側が「育児休業給付金」を申請するには、以下の書類が必要となる。

・育児休業申請書
・育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
・出生届または養子縁組届
・育児休業取得届
・給与明細書:育児休業を取得する前の直近一カ月分
・払渡希望金融機関指定届
・その他必要書類:勤務先や役所で異なる

●「育児休業給付金」の支給申請の流れ

事業主が受給資格確認手続と「育児休業給付金」の初回支給申請手続を同時に行う場合、支給申請の流れは以下の通りとなる。

(1)事業主への育児休業の申し出
受給予定の被保険者が行う。

(2)管轄のハローワークへの書類申請
事業主が行う。

(3)事業主への必要な書類提出
被保険者が育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書、払渡希望金融機関指定届に記入。母子健康手帳も提出する。

(4)添付書類も含めて、事業主がすべての書類をハローワークに提出

●「育児休業給付金」の支給期間延長の手続きについて

「育児休業給付金」の支給期間延長の取り扱いをする場合には、以下の手続きが必要となる。理由に応じて必要な書類が異なるので注意を要する。

(1)保育所に入れない
延長理由を確認できる書類。例:入所申出書、市町村が発行した保育所等の入所保留通知書など

(2)配偶者が死亡した
世帯全体が分かる住民票、母子健康手帳

(3)負傷、病気、精神障害で養育が困難
病院の診断書

(4)離婚等でこどもと別居した
世帯全体が分かる住民票、母子健康手帳

(5)6週間以内に出産する予定、または産後8週間を経過しない
母子健康手帳

●電子申請も可能

e-Gov電子申請システムから、いつでもどこでも育児休業給付金の申請が可能なので、ぜひ利用するといいだろう。手続対象者は事業主、被保険者のどちらでも構わない。また、ハローワークインターネットサービスのページで、育児休業給付受給資格確認表・(初回)育児休業給付金支給申請書をダウンロードできる。

まとめ

今回は、「育児休業給付金」の基本について解説した。子育て支援に向けて、政府は支援を強化している。2020年10月からスタートした「育児休業給付金」の分割取得と「産後パパ育休制度」もその一環。今後は、「育児休業給付金」の賃金80%への引き上げも想定されるなど、人事担当者としても目が離せない状況にある。

あわせて心がけたいのが、育児休業に関する制度の詳細を、従業員に周知徹底させることだ。「育児休業給付金」の受給要件、計算方法、延長可能な事由などだけでなく、「産後パパ育休制度」と育児休業との違いなどに関しても、すべての従業員が深い知識を持っているわけではない。それが原因で、申請をしていなかったとなると生活の不安に繋がりかねない。そのためにも、まずは人事担当者自らが「育児休業給付金」の制度をしっかりと理解しておくようにしたい。

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