「就活ルール」は経団連から政府主導へ
コロナ禍からの経済の回復もはっきりと表れ始め、新卒採用市場では優秀な人材の争奪戦がますます激化し、採用選考活動のより一層の早期化が叫ばれています。景気回復による求人ニーズの拡大だけでなく、DX化に向けた専門人材の採用ニーズなども早期化に拍車をかけている一因ではありますが、果たしてそれだけでしょうか。根本にあるのは、「就活ルール」の監視者が誰なのかの影響も小さくないと考えます。現在の「就活ルール」(採用活動スケジュール)を振り返ってみましょう。現在(2024年卒)は、
(1)エントリー開始や会社説明会などの「採用広報活動」は、卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
(2)面接などの「採用選考活動」は、卒業・修了年度の6月1日以降
(3)正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降
と規定されています。
このスケジュールは、2017年卒の採用活動から始まっており、当時は経団連が取り決めていました。前年の2016年卒の採用活動は、政府から経済界に就職活動時期短縮の要請があり、経団連はそれまでの「倫理憲章」(採用広報解禁:12月1日、採用選考解禁:4月1日)から大きく遅らせた「採用選考に関する指針」(採用広報解禁:3月1日、採用選考解禁:8月1日、以降「指針」)に変更しました。しかし、採用選考の開始時期があまりにも遅かったことから、企業側が学生の内定辞退に対して追加採用等の対応ができないケースが多く見られるなどの反省から、たった一年で採用選考解禁日は8月1日から6月1日へと変更となり、今に至っています。
ただし、「指針」は経団連に非加盟の外資系企業等への拘束力はなく、早期から採用活動を展開するそれらの企業に対抗すべく、経団連は2018年10月、2021年卒以降の「指針」の策定を実施しない旨を発表。以降、「就活ルール」は「指針」の日程を踏襲する形で政府が主導してきました。当初は、「指針」の対象外であった外資系企業や中堅・中小企業も含めて、政府が「就活ルール」の順守を呼びかけるとしていたことに期待を寄せる声もありましたが、結果的には何の強制力や罰則もない「就活ルール」がそれらの企業に受け入れられることもなく、逆に、経団連加盟企業までもが「就活ルール」に縛られない採用活動を展開する羽目になったわけです。
早期選考窓口へと変化した「インターンシップ」
HR総研では、経団連「指針」時代も含め、現在の「就活ルール」となった2017年卒以降、毎年3月と6月の「採用広報/採用選考」解禁月に、採用担当者向けと就活生向けに定点調査を実施しています。それらのデータを紐解きながら、今回は、「インターンシップ」、「面接選考」、「内定出し」の3つの側面から、現在の「就活ルール」下で企業の新卒採用活動においてどれだけ時期的な変化があったのかを検証してみたいと思います。まずは、企業側の「インターンシップ開催時期」(複数回答)について、3月実施の採用担当者向け調査の結果から1,001名以上の大企業のデータだけを抽出して、2017年卒採用(2016年3月調査、図表2以降も同じ)から2024年卒採用(2023年3月調査、図表2以降も同じ)までの推移を見てみましょう[図表1]。
[図表1]2017~2024年卒向けインターンシップ開催時期(複数回答)
全体の傾向は赤の矢印線で示した通りになっています。
・長期休暇にあたる「3年生8月」と、3月の「採用広報」解禁直前にあたる「3年生1月」「3年生2月」の2つがピーク。
・「3年生10月」など、長期休暇明けの後期授業期間の開催は下火になる傾向。
【現在】
・「3年生6月以前」や「3年生7月」の夏期休暇前の早期開催が増加。
・「3年生10月」から「3年生12月」の授業期間の開催も増加。
・3月の「採用広報」解禁直前の「3年生1月」や「3年生2月」は減少。
かつては、3月1日からの就職ナビ等でのプレエントリー受付開始を前に、プレエントリー母集団を開拓すべく、学生に対して企業名や事業内容、特徴の刷り込みをしておこうとの思惑がありましたが、今やそのようなニーズは減退しています。インターンシップ自体を単なる広報活動ではなく、完全に採用活動の一環として割り切る企業が大勢を占めるようになり、インターンシップへの応募がすでにプレエントリーの役目を果たしているのです。インターンシップ参加者を早期選考会へつなげることを考えたら、「3年生1月」や「3年生2月」ではもはや開催時期としては遅すぎるとの判断なのでしょう。
この後、下記のトピックが続きます。
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●「インターンシップ」が大きく変わった2つの要因
●大企業の8割が3月までに面接を開始する時代に
●大企業の6割が3月までに内定出しを開始
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