第1回目の対談企画となる今回は、国内の大手2社が合併し、アルミ圧延能力で世界トップクラスの実績を持つ株式会社UACJに迫る。同社は2020年からグループを上げて構造改革を進め、その主要なテーマの一つとして「風土改革」を掲げているのが特徴と言える。改革を通じ、同社はどう変わり、グループ9000人のスタッフに何がもたらされたのだろうか。専務執行役員 ビジネスサポート本部長の山口 明則 氏に詳細をうかがった。
プロフィール
株式会社UACJ 専務執行役員 ビジネスサポート本部長
山口 明則 氏
1985年に古河電気工業に入社。UACJ発足後の2013年10月にUACJ(Thailand)の取締役社長に就任。その後、福井製造所長などを歴任し、現在は専務執行役員 ビジネスサポート本部長として、人材戦略・人材マネジメントの確立に尽力。2020年からはグループを上げての構造改革推進に取り組んでいる。Thinkings株式会社 執行役員CHRO
佐藤 邦彦 氏
1999年東京理科大学 理工学部卒業。同年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。業務改善・IT導入支援などのコンサルティングに従事したのち、2003年にアイ・エム・ジェイに転職し事業会社人事としてのキャリアをスタート。7年半の在籍中、採用、育成、制度運用、組織開発、労務などを幅広く担当し、後半はチームマネジメントを経験。2011年にIMAGICAグループに移りグループ人事を担当。以降、2014年よりライフネット生命にて人事総務部長、2017年より電通デジタルにて人事部長を歴任。2020年4月よりリクルートワークス研究所に参画し、2022年8月まで『Works』編集長を務める。2022年10月にThinkings株式会社 執行役員CHROに就任。
役員から現場のスタッフまでが対話を重ね、理念の浸透を図る
佐藤氏:貴社は2020年に構造改革に着手しました。「稼ぐ力の向上」「財務体質の改善」「経営のスピードと質の向上」を掲げ、3年にわたり進め、一つの区切りを迎えています。早速
ですが、取り組みの振り返りの意味も込めて、まずは構造改革をスタートさせた背景を教え
ていただければと思います。
山口氏:当社は2013年にアルミニウム事業を手がける上位2社が統合して設立されました。これをきっかけに自分たちの価値や存在意義を見直そうと機運が高まり、2014年から2017年までに旧両社の役員が主導して理念を検討し始めました。その後、2018年までに「UACJウェイ」の原型となる考え方を策定しました。
山口氏:確かに、当社は同じ市場で競ってきた経緯はあります。細かなところを取り上げれば、何らかの衝突はあったかもしれません。しかし、大局を見ればアルミニウムを使って世の中に価値を提供していこうとの思いは同じです。また、これからはグローバルを見ていかねばならないという共通の思いもありました。その意味で、方向性にズレがなかったのが大きかったのだと感じます。
一方で、理念は完成したものの、役員主導ということもあってか、現場や前線で活躍する社員の思いとの乖離もあり、全社員への腹落ちは難しいだろうと感じていました。実際、なかなか浸透しない。2019年になって中堅社員たちから「自分たちで理念を考えたい」と声が挙がりました。そのころ、事業を取り巻く市場環境が急激に変化し、事業構造の改革は急務という話も持ち上がっており、理念の再構築と構造改革を同時に進めようとなったのです。
佐藤氏:理念は改めて作られたのでしょうか。
山口氏:はい。各部門とコミュニケーションを取りながら、2020年に完成させました。企業理念は「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する」です。あわせて、目指す姿は「アルミニウムを究めて環境負荷を減らし、軽やかな世界へ」、価値観は「相互の理解と尊重、誠実さと未来志向、好奇心と挑戦心」と定まりました。
佐藤氏:貴社の構造改革は社長直下で進められ、「風土改革」を主要なテーマに掲げているのが特徴といえますね。
山口氏:構造改革は6つの要素を示しており、その中の一つが企業風土・文化です。企業は人で出来ており、事業を進めるのも売上を出すのも人です。代表取締役 社長執行役員の石原 美幸には、入れ物だけ立派にしても仕方がないとの思いがあり、人が関わる分野の改革にも力を入れました。実際、石原自らが各部門の幹部とディスカッションする「理念対話会」を2020年から開催し、昨年で100回を超えるまでになりました。
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