プロフィール
吉田 崇 氏
Thinkings株式会社
代表取締役社長早稲田大学政治経済学部を卒業後、人材コンサル企業を経て、2005年に双日株式会社へ入社しITビジネスに携わる。日本・米国企業への投資、上場企業へのTOB等の投資実務や、投資先での新規事業立ち上げ、マーケティング、営業を担当。2008年、米国駐在。2010年、双日とKDDIの合弁企業「CJSC VOSTOCKTELECOM」のINSPECTOR(監査役)就任。2013年、イグナイトアイ株式会社を設立し、採用管理システムsonar ATSを提供開始。2020年経営統合により、Thinkings株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。
HRテクノロジーサービス各社と一丸となり、採用課題の解決に貢献したい
――まずは、HRテクノロジーサービス企業20社共同で立ち上げられた「採用を、変えよう。プロジェクト」の概要について教えていただけますか。日本の新卒採用のあり方を、みんなでもっと良くしていきたいという想いのもとで発足しました。まずは社会問題としての提起から始まり、宣言、課題解決の認知・拡散、その集大成としてイベントを開催としています。具体的には、最初に従来型の採用に対する問題提起として山手線の車両広告を掲出し、2022年11月17日から約1ヵ月間ジャックしました。『学生と向き合おう。いま、本気で。』をスローガンに、企業と学生のマッチングに課題があることを浮き彫りにし、「今の採用の進め方は上手くいっていない、もっとやりようがある」と訴求するところからスタートしています。
また、特設サイトもオープンし、プロジェクトに賛同いただいたHRテクノロジーサービス各社と一緒に採用のあり方を変えていくことを宣言しています。そしてHRサービスを使ったベストプラクティスストーリーを順次公開中です。さらに、2023年2月22日には、若者研究の第一人者である芝浦工業大学 教授の原田曜平氏と同大学の学生をお招きし、『学生の「いま」を知り、学生と向き合う採用へ』と題したプロジェクトのカンファレンスも開催します。
――プロジェクトは、どのような目的に向けて動いているのでしょうか。
採用の課題解決方法に「こういうやり方があるのか」とより多くの企業に気づいてもらい、課題解決に貢献していくことがプロジェクトの目的です。
企業側は、なかなか自社とマッチする人材の採用ができていないなど、さまざまな課題があります。我々やプロジェクトに賛同したHRテクノロジーサービス各社は、採用の課題を解決し、企業と学生のマッチングをより良くしていこうと支援している会社です。今回のプロジェクトでは、テクノロジーによって、マッチングの課題を解決できた採用のベストプラクティスの公開や、今の学生に振り向いてもらうためのヒントをお伝えするカンファレンスを実施し、企業の採用課題の解決に貢献したいと考えています。
――20社共同で進んでいるプロジェクトですが、どのようなきっかけで立ち上げられたのでしょうか。
労働人口の減少やコロナ禍などで採用が年々難しくなっているなか、最適な採用活動を行えるよう、採用管理システム「sonar ATS」を提供していますが、採用のあり方自体を一社単独で変えるのは本当に難しいと数年前から感じていました。
そのなかで、我々が立ち上げたのがHRサービス購入管理「sonar store」です。これは、HRに特化したマーケットプレイスになっています。「sonar ATS」を利用すると、どの採用プロセスにどんな課題があるかが明確になります。その課題を解決するための外部のHRサービスを「sonar store」では即座に購入していただけます。つまり、採用課題を他のHRサービスと一丸となって解決していけるビジネスになっているのです。このように、採用の課題を可視化し、それに対応していくことで、企業と候補者が互いの理解をより深められるという採用の仕組みを広く発信したいということが本プロジェクトの根本です。
企業と候補者がお互いに理解し合う最善の道を、テクノロジーでつくっていきたい
――本プロジェクトは「学生と向き合おう。いま、本気で。」をスローガンとして発信されていますが、どのような想いを込められたのでしょうか。採用は、ややもすると塊のようなイメージで捉えてしまいがちですが、究極は「一対一」だと思っています。特に新卒採用では同時に沢山の方々が動くので「一対n」になってしまいます。そうではなく、一人ひとりに向き合っていくことが採用には必要であり、企業と候補者がお互いに理解し合う最善の道であることを想いとして込めています。
――一人ひとりに向き合うほど、人事の方は疲弊していくジレンマもあります。
疲弊していくと一人ひとりに向き合えず、結果としてマッチングに影響が生じるでしょう。これは、マーケティングの世界も一緒です。本当のマーケティングは一対一がベストだと言われていますが、大量に何かを販売するとなるとそれはできません。それをどうテクノロジーで一対一に持ち込むかが重要であり、採用も同じだと思っています。マッチングの最善は一対一であるため、それをテクノロジーでどう支援していくかがカギだと考えています。
目指すのは、企業が一人ひとりに向き合う採用
――この先、本プロジェクトの考えが浸透することによって、企業や学生双方の考え方や行動にどのような変化が生まれるとお考えですか。最終的に、「企業が一人ひとりに向き合う採用」を社会で実現できるようにしたいと思っています。企業は、採用が困難だからといって諦めず、「まだまだ思考停止に陥らずにやれる方法があるかもしれない」という可能性を感じてもらいたいです。そうして採用のあり方に変化を起こし、候補者にも、採用に関して「世の中が変わってきているんだ」ということを感じてほしい。型通りの就活ではなく、企業も本気でやり方を変えようとしてきていることに気づいて、採用に真摯に向き合ってもらう。まずはこのような意識の変革が双方にとって重要だと思っているので、実現していきたいです。
――今後、本プロジェクトの特設ページにおいて、賛同HRテクノロジーサービス企業の「採用のベストプラクティスストーリー」が公開されていくとのことですが、貴社のツールやテクノロジーを活用した採用の変革事例について教えていただけますか。
例えば、株式会社USEN-NEXT HOLDINGSはテクノロジーを駆使して色々な施策を展開され、一貫して応募者に寄り添った採用をされています。なかでも学生に対してフェアであると思ったのは、最終面接へ挑戦するタイミングを企業ではなく学生自身が決定できる「Finalコール」です。また、各ポジションで今どれぐらい人員が充足しているのかも開示しています。
Chatwork株式会社もインターンシップだけで実に約1,000人近くの方と面接をされていますが、そのすべてを録画しているだけでなく、人事が面接内容を全てチェックし、面接官にフィードバックを行っています。結果として、面接の質が格段に向上しました。限られた人員と工数では難しいことですが、HRテクノロジーを活用して採用業務にかかる時間を短縮しているから可能なのです。
一人ひとりに向き合う採用をすべきだと理解していても、実際にはできていないことが多くあります。しかし、実現している会社もある。その事例を今後発信していくことで、忙しくて充実した採用選考ができないと諦めていた人事の方に、「できるかもしれない」、「一歩先に進めるかもしれない」と気付いてもらいたいです。
「真のマッチング」に向けてまず大事なのは、人事の業務や課題の精査から
――実際の採用現場にスポットを当ててお話をお伺いしたいのですが、企業と学生の「真のマッチング」に向けて、まず人事は何から着手していくべきでしょうか。これまでお話ししてきた通り、最終的には一対一の関係を深めるのが理想だと思っています。そこに向けてどのような業務にどのくらいの時間を使っているのか、理想とするゴールに対して何が課題になっているのか、何がボトルネックになっているのかを一旦俯瞰して棚卸しすることが大事です。まずは、業務や課題を精査して考える時間をしっかり取ることが必要になるのではないでしょうか。
――最後に、本プロジェクトの今後の展望や抱負をお願いいたします。
プロジェクト自体は一旦、2023年2月に開催するカンファレンスで終了しますが、我々は日々のビジネスを通じて、引き続きお客様の「真のマッチング」を実現していく考えです。採用は組織づくりの入り口であり、非常に重要です。採用のマッチングの質で組織づくりに大きく影響が出ます。組織の活性化や目標達成のためには、候補者一人ひとりに向き合い、相互理解を深めたうえで、価値観や理念の方向性を共有できる人材を採用していくことが不可欠だと思っています。我々も、採用マッチングを叶えるためのツールやソリューションを引き続きテクノロジーで提供していきます。人事の皆さんも、諦めずに一緒に採用の課題を解決していきましょう。
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