第1回目は、シニア社員(※)の今後を見据えた「転職支援」、「リスキリング支援」、「副業支援」という3つの手法を制度化した場合に、会社と働く個々人にもたらされる影響を比較検討してみます。
※本シリーズにおける「シニア社員」とは、主に40歳代後半~50歳代前半(役職定年前)を想定しています。
シニア社員の活躍を支援をする意義
オジサンばかりを支援するのではなく、若手の定着や育成をサポートする仕組みをもっと考えるべき、というご意見の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、若手社員も中堅社員も誰もがいずれは「シニア社員」になっていくことを考えると、この仕組みはシニア社員だけのものではないのです。「改正高年齢者雇用安定法」が2021年4月に施行され、政府はシニア人材が働き続けられる雇用基盤の整備を推進しています。今後もこの流れは続き、企業にもシニア人材を活かすマネジメントのあり方がますます求められていくでしょう。ご自身が「シニア社員」となった時を想定して「活き活きと働くにはどのような社内制度があったらよいか」という観点で考えてみていただければと思います。まずは、「シニア社員の活躍支援」を制度化する目的の整理から
そもそも論として、なぜ企業が「シニア社員の活躍支援」を人事制度として整えておく必要があるのでしょうか。仕組み化する目的について「企業にもたらされる経済合理性」と「個人に与える好影響(メッセージ性)」の両面から考えると、以下の2つが定義づけられます。1.個人・組織のパフォーマンス向上の観点
個人の「心理的安全性」が確保され、「幸福度・満足度」の向上が期待できる。
2.企業の人材確保の観点
「長く働ける選択肢」が増え、企業と個人の良い関係が継続できる。
そして、「シニア社員活躍支援」を制度化するには3つの選択肢があります。まず、一般的な手法である「転職支援」、最近注目されている「リスキリング支援」、それらに加えて新しい試みとなる「副業支援」の3つです。それぞれの手法について、前述した「目的」を実現する上で「どのような人にどういった効果があるのか」を比較してみましょう。
■転職支援制度
シニア社員がこれまで培ったスキルや経験を活かして、より活躍できる「他の会社」を探すにはこれまでの経験や志向を整理しておく必要があります。
「スキルや経験の棚卸(「できること」の確認)」、「希望する職種や働き方の探求(「やりたいこと」の確認)」、「候補先の探索や紹介斡旋(「やるべきこと」の確認)」を在籍時から支援する制度です。
<効果>
1.個人・組織のパフォーマンス向上の観点
所属する組織が、「次の働く場所」を探す支援をしてくれることは、社員に「心理的安全性」をもたらす効果があり、「その時(転職タイミング・適期)」が来るまでは全力で働き、高いパフォーマンスを発揮してくれることが期待できます。
2.企業の人材確保の観点
「転職するタイミング」が来るまでは、働き続けてくれることが想定でき人材確保が期待できます。
また「その時」が来たら、企業側は新しい人材を獲得する原資ができるということになり、新たな人材獲得につなげることができます。
<制度が有効に機能する人>
〇「報酬」と「アウトプット」がマッチしていない人
・社内で報酬に見合う成果が期待できない人
・社内で(見合う成果が期待できる)役割やポストが提供できない人
〇チームへのコミットが高くない人
・「やりたいこと」が社外にありそうな(社内にない)人
〇スキルが高い人
・社外の方が高く評価される(市場価値の高い)スキルがある人
■リスキリング支援制度
リスキリングとは、「学び直し(学び足し)」により新しいスキルを習得して、新しい役割を担ってもらったり、これまで培ったスキルや経験に新しいスキルを掛け合わせて、従来のパフォーマンスを飛躍的に向上してもらったりすることです。そのための「スキル習得」と「新しい役割」を企業がセットで支援する制度です。
技術革新や市場の変化等により必要性が低くなる業務もある一方、新しく必要となる業務も生まれます。
また、「ITスキル」のように従来の業務スキルと掛け合わせることで、組織の中で「DX」を推進するなど、新たな価値を生む役割を担うことも可能となります。今後、企業がリスキリングを支援することはますます重要になるでしょう。
<効果>
1.個人・組織のパフォーマンス向上の観点
新しいスキル習得によりできることが増え、実業務の成果や効率が向上することが期待できます。
更にこうした支援制度の存在が社員の「心理的安全性」を高め、全力で業務に取り組む環境や風土を醸成することにつながることが期待でき、パフォーマンス向上につながると想定されます。
2.企業の人材確保の観点
自らの「できること」が増え、チーム内における「やるべきこと」が増えることにより、このチーム(会社)で働こうというモチベーションが高まり、成果を出せる人材が残ってくれる(人材確保)につながると想定されます。
<制度が有効に機能する人>
〇現時点でスキルは不十分だけど、チーム(会社)へのコミットが高い人
・チームに貢献するために新しいスキルを習得したい人
・これまでもチームに全力で貢献してきた人
〇「報酬」と「アウトプット」がマッチしそうな人
・そもそも報酬とアウトプットがマッチしている人
・スキル補完ができれば報酬とマッチしそうな人
■副業支援制度
副業とは、
・これまで培ったスキルや経験を活かしつつ、社内で成果を出しつづける(本業:役割を果たす)。
・社外で、自分のスキルを活かして対価を得る活動をする(副業:成果を出す)。
この二つの活動を同時並行的に行うことを意味します。中には、対価を得る副業ではなく、プロボノなどのように無償で活動するケースもあります。
そして副業支援とは、「社外で活動するという選択肢とそれを選択しやすい環境を準備すること(副業という「やりたいこと」を選べる環境を整える)」と「社内で役割を果たし続けられる環境を整備すること(本業における「できること」と「やるべきこと」を整える)」をセットで支援する制度です。
<効果>
1.個人・組織のパフォーマンス向上の観点
「やりたいこと」を選択できることによって個人の幸福度が増えることが期待でき、また、「副業」を経験することで既存スキルを向上し新しいスキルを自ら学ぶことも期待できます。また、役割を果たし続けるための調整(「報酬」と「アウトプット」とのマッチング等)を行うことで、チームにとっても更に有益な人材になり、総合的なパフォーマンスの向上につながると想定されます。
2.企業の人材確保の観点
「やりたいこと」を選択できること、自分のスキルや経験を活かせる(成果を出せる)業務を引き続き担当できること、でチーム(会社)へのコミットが増し、モチベーションも向上し、有益な人材の確保につながると想定されます。
<制度が有効に機能する人>
〇スキルが高くて、チーム(会社)へのコミットが高い人
・社外でも必要とされるスキルがある人
・社内で引き続きやってほしい重要な業務があり、それを継続したいと思っている人
〇「報酬」と「アウトプット」がマッチしていないが調整可能な人
・社内で引き続きやってほしい重要な業務があるが、報酬と見合ってない人
・チーム(会社)に貢献するため、整合性をとることに同意できる人
3つの支援制度について、ここまで解説した内容を図表にまとめると以下のようになります。縦軸は支援制度(転職、リスキリング、副業)で、横軸には機能しそうな人のタイプ(スキル、コミット量、報酬とアウトプットのバランス)とし、各制度との相性を判定しています。
結論:シニア社員は十人十色、支援制度も複数準備する必要がある
図表で示したように、それぞれの選択肢において「制度の目的」に対する色々な効果があると言えます。一方で、その仕組みが機能しそうな対象者(人)はそれぞれ異なります。十人十色と言われますが、「シニア社員」にも色々なタイプの方がいますので、役職定年や転職支援などを一律に適用するのではなく、いくつかの支援制度を準備しておき、その人にマッチした支援制度を提供する仕組みを検討した方がよい、というのが私の考察の結論です。
特に、スキルの高いシニア社員、チーム(会社)へのコミットの高いシニア社員、自社にとって価値の高いシニア社員への支援制度を整備すること、選択肢として準備することが重要です。
次回以降では、自社にとって価値の高いシニア社員の活躍支援における重要要素である、
・「チーム(会社)へのコミットの高いシニア社員」を生み出す風土作りへのアプローチ
・「報酬」と「アウトプット」をマッチさせるアプローチ
・「副業支援」がもたらす、シニア社員自身および所属チーム(会社)への好影響
について、それぞれを掘り下げた考察をご報告したいと思います。
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