デジタル化やグローバル化が加速する現代のビジネス環境において重要度が高まっているのが「スキルアップ」だ。特に、テクノロジーの急速な進化により、既存のスキルだけでは対応できないケースもあり、新しい知識の習得が求められている。個人の能力開発だけでなく、組織の生産性強化につながるため、その必要性をしっかり理解したい。そこで本稿では、「スキルアップ」の意味や、個人と企業のメリット、具体的な方法や支援施策まで詳しく解説していく。
スキルアップの単語と上向きの矢印

「スキルアップ」とは

「スキルアップ」とは、能力や技能を向上させることを意味する。現在有している能力をさらに磨くだけでなく、新たな技術や資格の取得も含まれる。特にVUCA時代と呼ばれる現代では、変化の激しい労働市場に対応するため、継続的な自己啓発が重要視されている。

「スキルアップ」は個人で行う場合もあれば、企業が従業員に向けて実施するケースもある。資格取得やセミナー受講、書籍による自主学習によって個人のキャリアアップを目指すもの、あるいは、企業が従業員向けに研修制度を設けて組織の生産性向上を図るものがある。

●スキルとは? 使い方や例文も解説

スキルとは、教養や訓練を通して得た技能や能力のことだ。ビジネスにおけるスキルは、大きく3つに分類される。まず、業務を正確に遂行するための「テクニカルスキル」。次に、コミュニケーションや対人関係を円滑にする「ヒューマンスキル」。そして、問題の本質を理解し、解決策を導き出す「コンセプチュアルスキル」である。

「スキル」や「スキルアップ」という言葉の使い方例は以下などがある。

・「彼女はプレゼンテーションスキルが高く、複雑な内容でも分かりやすく説明できる」
・「日々の練習を通じて、プログラミングのスキルを着実に向上させている」
・「最新の技術トレンドを学ぶセミナーに参加して、専門スキルのブラッシュアップを図りたい」
・「資格取得を通じて、経理のスキルアップを図り、キャリアの幅を広げたい」
・「社内研修に積極的に参加することで、リーダーシップのスキルアップに励んでいる」


●キャリアアップとの違い

「スキルアップ」とキャリアアップは、関連する用語ながら明確に異なる。「スキルアップ」は特定の能力や技術の向上を指すのに対し、キャリアアップは職務経験や責任範囲の拡大、役職の上昇など、職業生活上の成長を意味する。例えば、労務管理の専門知識を深めることは「スキルアップ」だが、そのスキルを活かして人事部のマネージャーに昇進することはキャリアアップとなる。

「スキルアップ」のメリット

「スキルアップ」をすることで、個人と企業にどのようなメリットがあるのだろうか。それぞれの視点で解説していく。

【スキルアップによる従業員のメリット】

●業務効率が向上し、成果を出しやすくなる

「スキルアップ」により、業務の処理速度が向上し、同じ時間でより質の高い成果を出すことができるになる。例えば、PCスキルが向上すれば資料作成の時間が短縮できたり、専門知識を習得することで業務上の判断がより的確かつ迅速になったりする。また、効率化によってさらに学習や新しい挑戦をする時間の余裕が生まれる。

●新しいスキルが身につき、昇給や昇格のチャンスが広がる

新しいスキルを習得することで、より高度な業務や責任のある役割を任されるようになる。リーダーシップやマネジメントスキルを身につけることで管理職への昇進につながったり、資格の取得が社内での評価向上や昇給の要因になったりする。さらに、転職の際にも、より高い基準のスキルを保有していることは重要な評価要素になる。

●仕事への意欲が高まり、充実感が増す

「スキルアップ」により業務の幅が広がることで、より多様な仕事にチャレンジでき、仕事への意欲と充実感が高まる。周囲からの信頼や評価が向上することも、モチベーション向上に寄与するだろう。

●将来のキャリア形成に役立つ

「スキルアップ」によって専門性を高めることで、業界内での存在価値が向上するだけでなく、新たな知識や技能を身につけることで、キャリアの選択肢が広がる。特にITの知識やビジネススキルといった業界を問わず必要とされるスキルは、変化の激しい時代に柔軟に対応するために役立つ。

【スキルアップによる企業のメリット】

●企業全体の生産性が向上する

各従業員が専門知識や技術を習得することで、一人ひとりの業務が効率化し、チーム全体のパフォーマンスも高まる。効率化によって生まれた時間は、新しい施策やアイディアの検討に活用することもできる。

●従業員のエンゲージメントが高まる

従業員の「スキルアップ」を支援し、成長意欲を促すことで、仕事のモチベーション向上を図ることができる。従業員も成長を実感できれば、より主体的に業務に取り組むはずだ。ひいては組織への帰属意識やエンゲージメントにつながり、定着率も高まることになる。

●採用活動におけるブランド力が向上する

従業員の「スキルアップ」を支える育成制度が充実していることは、企業の採用ブランディングにおいて大きなアドバンテージになる。特に近年の若手人材は、成長機会を重視する傾向が強く、アピールしていきやすい。

●会社の信頼性が向上し、クライアントからの評価が高まる

従業員の「スキルアップ」によってサービスの質が高まれば、会社の信頼性や顧客満足度が高まる。専門性の高い従業員が増えることで、クライアントからの相談や要望に対して、より適切な対応も可能となる。

「スキルアップ」の方法

次に「スキルアップ」の具体的な方法について、個人でできるものと企業が支援するものに分けて紹介していく。

【従業員個別で「スキルアップ」を図る方法】

●資格取得

資格取得は、わかりやすい「スキルアップ」の方法と言える。取得の過程で知識を得られるだけでなく、資格を取得できれば客観的に能力を証明できるため、転職時にも有効に働く。特に難易度の高い国家資格は、転職や査定の際に大きなインパクトを与える。明確な目標があるためモチベーションも維持しやすい。また、企業によっては費用補助や手当支給などの資格取得に対する支援制度を設けているところもある。

●セミナーや勉強会

セミナーや勉強会に参加し、専門家から直接知識を学ぶのも「スキルアップ」として有効な方法だ。独学では継続が難しい場合でも学習のモチベーションを維持しやすく、また他の参加者との情報交換を通じて新たな気づきを得る機会にもなる。

●スクール

スクールに通いながら学習することで体系的な知識や実践的なスキルを習得することができる。近年はオンラインスクールも充実し、時間や場所を問わず学習しやすくなっている。同じ目標を持つ仲間との交流も生まれ、互いに刺激し合いながら成長できるのも特徴と言える。

●副業

副業は、本業とは異なる視点や経験を得られる。副業での経験は本業にも活かせることが多く、新たな視点や手法を得ることで、本業でのパフォーマンス向上にもつながる。

【企業が従業員の「スキルアップ」支援を図る方法】

●社内研修・教育プログラム

社内で研修制度を設けることで、従業員に「スキルアップ」を促すことができる。制度としては、新入社員研修や管理職研修、役職や経験に応じたプログラムがあり、またオンライン研修を活用すれば、時間や場所に縛られずに従業員に学習してもらえる。

●資格取得費用補助

業務に関連する資格の取得費用を補助することで、従業員の自己啓発意欲を高めることができる。補助対象としては、受験料や教材費、合格時の報奨金などが挙がる。

●人事制度・サポート制度

人事制度やサポート制度を従業員の「スキルアップ」のために拡充するのも有効な手段だ。例えば、昇給や昇進の要件として「スキルアップ」の基準を設定したり、メンター制度を導入して、経験豊富な社員が若手の成長をサポートする体制を整えたりする。これにより従業員が自身の目標や課題を把握し、成長を実感しやすくなる。

●配置転換

計画的に配置転換やジョブローテーションを行い、従業員に様々な部署や業務を経験させるのも「スキルアップ」につながる。これまでと異なる経験をすることで、新しいスキルを習得できるだけでなく、会社全体の業務フローの理解にもつながる。複数の職務を経験することで、将来の管理職としての素養も培われると言える。

「スキルアップ」するために必要な考え

では、「スキルアップ」に取り組むために、どういった考えが必要になるのだろう。説明していきたい。

●現状把握

まずは自分自身の現在のスキルレベルを客観的に評価することから始まるのが大切だ。業務で求められる能力と自分のスキルのギャップを分析し、強みと弱みを明確にすることで、「スキルアップ」の計画が立てやすくなる。同僚や上司などにフィードバックを求めて、他者の視点も取り入れると、より正確な現状を掴める。

●将来像・キャリアプランの明確化

3年後、5年後、10年後などにおいて自身のありたい将来像をイメージすることで、「スキルアップ」の計画を立てやすくなるだけでなく、モチベーション維持にもつながる。その際、目指したい職種や役職、担当したい業務内容などを具体的にイメージしつつ、業界のトレンド情報や予測を基に、必要となるスキルを検討すると良い。

●目標・必要なスキルの設定

将来像に向けて、具体的な目標と習得したいスキルを設定する。目標は「いつまでに」、「何を」、「どのレベルまで」などの具体的なものが望ましい。また、優先順位をつけることで、効率的に計画を組み立てることができる。

●手段・スケジュールの検討

目標達成のためにどんな方法でどの程度時間がかかるのかを考え、綿密なスケジュールを検討したい。日々の業務との両立も考えながら、無理のない学習計画を立てることが継続のためのポイントとなる。また定期的に見直しをするのも大切だ。

●行動・進捗確認

計画に基づいて実際に行動を開始したら、定期的に進捗を確認するようにしたい。学習の記録をつけることで、進捗状況が把握しやすくなり、またモチベーションの維持にもつながる。

「スキルアップ」を支援する補助金・助成金

最後に「スキルアップ」のための補助金制度を2種類紹介したい。

●教育訓練給付制度

教育訓練給付制度は、雇用保険に加入している労働者の「スキルアップ」において訓練の費用を助成してくれる制度だ。一般教育訓練では受講費用の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練では40%(上限20万円)、専門実践教育訓練では最大80%(年間上限64万円)が支給される。大学院や資格取得講座など、厚生労働大臣が指定する教育訓練が対象となり、雇用保険に1年以上加入している人なら、在職中でも離職後1年以内でも利用できる。また2024年2月からは電子申請も可能となっている。

●キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の待遇改善を目指す企業向けの支援制度だ。正社員化支援と処遇改善支援の2つの柱があり、6つのコースから企業の状況に応じて選択できる。例えば、「正社員化コース」では有期雇用から正社員に転換し場合に、中小企業に57万円、大企業に42万7,500円が支給される。雇用保険適用事業所であることや、キャリアアップ管理者の設置、計画書の作成など、いくつかの要件を満たす必要はあるが、要件を満たせば確実に支給される仕組みだ。

まとめ

企業が発展し続けていくためには、従業員の「スキルアップ」は不可欠だ。そのため人事担当者や経営層は目前のコストだけに目を向けるのではなく、長期的に従業員の成長を支援することが企業の生産性向上だけでなく、従業員のエンゲージメント向上にもつながることを考えておかなければならない。国や自治体による様々な支援制度を活用することで、効率的に人材育成をすることができる。積極的に企業と従業員がともに成長する環境を整えていきたい。

よくある質問

●「スキルアップ」の使い方は?

「スキルアップ」の使い方の例としては、「語学力のスキルアップを目指す」、「プログラミングスキルをスキルアップする」などがある。また「スキルアップに努める」という表現は、自己成長への意欲や組織への貢献を示す際によく使われる。

●「スキルアップ」の言い換えは?

「スキルアップ」の言い換えとしては、以下のようなものがある。

・技能向上
・自己研鑽
・能力開発
・スキルを伸ばす
・知識・技能を磨く
・職能の向上を図る
・専門知識を深める
・修練を積む
・自分磨き
・成長
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