2022年4月より「改正パワハラ防止法」が施行されたことで、中小企業においても“パワハラ防止”が法制化され、ようやく世間的にも広く認知されたと言ってよいだろう。ただし法制化といっても、「労働施策総合推進法」という行政法、つまり民事上の強制力を伴った法律へ規定されたわけではないため、これにより取り締まりが強化されるということではない。例えば、労働基準監督署による監督の対象とはならないのだ。あくまで当事者の民事上の争いに関する指標であり、訴訟では民法の規定が援用される際の補強材料となるだけである。そこで本稿では、“被害者側の視点”でハラスメントの回避策を考えたい。
「改正パワハラ防止法」の法律上の影響範囲と、ハラスメント回避のために“被害者側”の従業員が出来ることは

「舐められる」を防ぐために見直すべき言動や性格とは

パワハラが発生する要因は複数あるが、中でも最大の要因は、「相手(加害者)から舐められている」ことにあるのではないか。「舐められる」とは、換言すれば「軽んじられている」ということであり、相手からすれば“極めて扱いやすい相手”だと認識されているわけである。

舐められがちな人は、無意識のうちに“相手から舐められる言動や性格”を見せてしまっていることも多い。おそらく、そうした人に抱く印象は、「自信がなさそうだ」、「反撃されることはないだろう」といったものだろう。ハラスメントは、このような深層心理に起因した相対的人間関係の中で生じる例が大半である。

具体的事例を詳細に観察すれば、「加害者となりやすい属性」を持った人は、誰かれ構わずハラスメントを行うのではなく、相手を選んでいるものである。では、具体的にどのような言動や性格がそう思わせてしまうのだろうか。

1.「自信がなさそうだ」と思わせる言動の例

「虎の威を借る狐」という言葉がある。これは中国の書物『戦国策』にある寓話からきており、「強い者の権威をかさに着て威張るずる賢い者」の例えだ。例えば、「一部上場企業の社員だった」、「父親が地元の有力者だ」、「社長の秘書をしていた」といった言動をする人がこれにあたる。

このような言動を多用すると、相手から舐められてしまう恐れがある。なぜなら、自分自身ではない他人の実績等をあたかも自分事のように誇らしく見せつけることにより、逆に相手が「小物感」を抱き、「あなた自身が誇れる事はないのか?」と嘲笑の対象になってしまうためだ。従って、このような言動は慎まなければ、相手に付け入るスキを与えてしまうことになる。

2.「反撃されることはないだろう」と思わせる性格の例

ハラスメント加害者の意識には、「相手から反撃されることはないだろう」という前提がある。特に分かりやすい例はSNSだ。ネット上で誹謗中傷が頻発しているのは、そこに匿名性があると思い込んでの仕業なのである。匿名性があるために、「何を言っても反撃されることはない」との勘違いが生まれ、誹謗中傷をしてしまう人が出てくる。そして、“相手から舐められやすい人”がそうした攻撃の対象になってしまう要因は、上手く反撃する術を知らなかったり、相手を慮る性格の持ち主であったりする点にある。

しかし、そうした攻撃を受けた際には、思い切って“良い意味での反撃”に出ることが必要だ。これは決して「暴力を加える」ということではない。相手から非礼を受けた際に、冷静沈着かつ毅然とした態度で、「なぜ、そのようなことを平気でやるのですか?」、「私は極めて不快です」などと問い正すことだ。そうすることで、「反撃されることはない」と高をくくっていた相手は、想定外の出来事にたじろぐだろう。この「たじろがせること」が大事なのである。

ここまで被害者の視点で書き連ねたとはいえ、なかなか困難なことを求めていると筆者も認識している。しかしながら、相手から舐められる言動や性格を改善することで、ハラスメントをなくすことができるかもしれない。人間社会では、どんな関係であっても「相互にリスペクトし合う関係」を築かなければ、いさかいが絶えることはないのだ。

政治思想家のニッコロ・マキャヴェッリは、著書『君主論』の中でこんなことを言っている。「愛されるより恐れられよ」。これは“被害者になりやすい”人にとって、ハラスメント対策の金言かもしれない。
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