ProFuture代表の寺澤です。
HR総研では、今年も就活会議株式会社が運営する就活生向けクチコミサイト「就活会議」と共催で、7月に採用担当者と2023年卒の就活生を対象として、これまでの活動を振り返って、それぞれの目線からの印象深いエピソードをテーマにした「2023年卒 採用川柳・短歌」と「2023年卒 就活川柳・短歌」を募集しました。
第137回 23卒版『採用川柳』・『就活川柳』入選作品から見る、オンライン面接の現場のリアルとは?
今年も応募作品は「オンライン面接/Web面接」を題材とするものが比較的多く見られましたが、入選した作品の題材は、「パリピ」「AI」「内定辞退」「ガクチカ」「玉手箱」「圧迫面接」など、例年以上にバラエティに富んでいます。ぜひご一読ください。

AIが人間と置き換わる日は来るのか

まずは、採用担当者による「2023年卒 採用川柳・短歌」の入選作品から紹介します。

【最優秀賞】は通常は1作品ですが、審査員の採点合計が同点で並び、審査会議でも甲乙つけがたく、イレギュラーではありますが、今回は2作品とし、代わりに【優秀賞】を1作品としました。

候補者の SNSを 確認し 元パリピかと 我緊張し(東京都 総務GLさん)


最近の採用活動では、応募者のSNS(InstagramやFacebookなど)で発言内容や掲載写真等をチェックして、普段の生活や考え方を探ることが珍しくありません。応募者が多い企業では最終面接に近い段階で、応募者がそれほど多くない企業であれば一次面接前からチェックすることもあるようです。SNSでチェックしてみたら、応募者が明らかに「パリピ(パーティー・ピープル:集まって楽しく騒ぎまくり、時に周りに迷惑をかける若者)」だった事実を発見してしまうことで、人となりを想像し、つい身構えてしまう心情を見事に表現した作品です。自社にカルチャーフィットするのか不安になる気持ちが非常によく表現されていますが、実際に会ってみてどうだったのか、面接結果が非常に気になります。

余談ですが、こちらの作者はなんと昨年も最優秀賞を受賞されています。初の2連覇達成です。東京勤務の方のようですので、機会があれば一度ぜひお会いしてみたいものです。

もう1作品はこちらです。

AIを 扱う人材 採るために 書類審査 するのはAI(愛知県 ひつまぶしでひまつぶしさん)


年々、さまざまな分野にAIの導入が浸透し始めていますが、中でも「採用領域」ではAIの導入が特に早かったといわれています。面接やエントリーシートの合否判定などを通して、これからAIを扱う人材をシステムに搭載されたAI自身が判定し、さらにそのAIによって合格とされ、入社したAI人材がさらにAIを活用した新しいサービスを生み出していくという循環が始まっていることを、風刺的に、そして見事に表現した作品です。AIと人間の立場が入れ替わっていく前兆が感じられ、「AIがAIに都合の良い人間を採用し始めたらどうなるのだろう」と、読み手の想像を大いに膨らませる作品になっていると思います。

続いて【優秀賞】です。

夢は何? 聞いてる社員の 目が魚(東京都 わっちさん)


目をキラキラ輝かせて面接に臨む新卒の応募者に向かって、夢を聞く社員自身は夢など見失っており、死んだ魚の目をしていたという、なんともいえぬ哀愁が感じられる作品です。作者によれば、ご自身のお子さまの体験談を基にしていますが、後日談があり、入社してみたらその採用担当者はもう退職していたとのこと。この採用担当者自身の入社当時の夢は何だったのか、いつ夢が破れてしまったのか、はたまた夢など最初から持っていなかったのかと、いろいろと想像してしまいます。皆さんの目は、キラキラしていますか?

ついに学生の反撃が始まった

【佳作】の中から5作を抜粋して紹介します。

テンプレの 辞退メールで 祈られる(新潟県 うさたろうさん)


内定辞退の方法が電話からメール、それもテンプレート化されたメールへと変わってきている様子を詠んだ作品です。これまでは、企業から学生への不合格メールをお祈りメールと呼び、不合格だったことを「祈られた」と表現する学生もいましたが、時代は変わったようです。内定辞退を伝えるメールの末尾には、「貴社の益々の発展を心よりお祈り申し上げます」と添えられていたとか。もはやお祈りメールは学生が恐怖するものではなく、企業側が恐れるものになりつつあります。学生の反撃が始まったといってもいいもしれません。採用担当者からすれば、聞きたいこともあるでしょうし、せめて最終選考や内定の辞退は電話で伝えてほしいと思うでしょうね。

家のそば 月並給与 貰いたい そんな会社は 俺が行く(東京都 トリピーさん)


以前は少なかった「なるべく住環境を変えずに、自宅通勤で働きたい」と主張する就活生の増加に、「甘いぞ」と言いたげな作者の悶々(もんもん)とする心情を詠んだ作品です。ただ、転勤や単身赴任をなくす企業が現れるなど、多様な働き方を認めようという動きが広がりつつある中、「原則・在宅勤務」という企業も徐々に増えはじめています。「家のそば」どころか「家の中」というわけです。「自宅から通いたい」から「自宅で働きたい」と主張する学生が増える時代もそう遠くないかもしれません。

コロナ禍で ガクチカ言えない 23卒(東京都 こぬきさん)


2020年1月頃から突如として沸き起こった今回の新型コロナウイルス。通学や各種課外活動がまともにできたのは1年生の1月までで、その後の2年間以上を自粛して過ごさざるを得なかった2023年卒学生に、これまでの先輩たちのように語れる、留学、サークル活動、ポランティア、アルバイト、旅行等のアクティブな「ガクチカ(学生時代に力を入れた活動)」はありません。「ガクチカ」抜きに彼らを評価せざるを得ない、今の採用の難しさを詠んだ作品です。

ただ、「ガクチカ」がないことを嘆くのは採用担当者のほうではなく、むしろそのような体験をすることができなかった学生たちこそ、一番辛いことだと思います。いまだコロナ禍の収束が見えない中、新たな「ガクチカ」の表現方法を模索していく必要がありそうです。

対面は マスクで表情 伺えず だからZoom なのにマスクかよ(東京都 ちんやさん)


対面の面接では、質疑応答以外の所作や雰囲気は確認できるものの、マスク越しであるため顔全体の表情は確認できません。一方、オンラインでの面接であればマスクの着用は必要なく、顔全体の表情が確認できるのがメリットだったはず。ところが、「オンライン」でかつ「マスク着用」という二重苦で、絶望的に手応えのないさまを表現した作品です。採用担当者のこの上ない失望感が、「なのに・・・かよ」に見事に凝縮されています。作者によれば、1人だけではなく、そういった学生が何名もいたとか。表情を悟られたくないのか、化粧が間に合わなかったのか、自宅ではなく周りに人がいる環境だったのか、マスク着用の意図は不明です。

個室無く トイレに籠る ウェブ面接(群馬県 よしよしよっしーさん)


面接のオンライン化で顕著になった、就活生が個室を持っていない場合にどうするかという問題を、「トイレで面接受験」という実際にあったシーンで表現した作品です。必死に無音のプライベート空間を探した結果、トイレに籠るしかないと考えた学生と、その状況を察知しつつ、何も突っ込むことなく微笑ましく見守りながら面接を続ける採用担当者の関係がいいですね。作者によると、「トイレで面接受験」という学生は、意外に多いとのこと。ところで、学生が面接を受けている間、家族はトイレを使いたくなったらどうしているのでしょうか。じっくり面接する企業の場合、1回の面接時間が1時間ということも少なくありません。それともうひとつ、学生が便座に座ってPCを膝に置いているのか、それとも便座にPCを置いて、学生は床に座っているのか、どんな態勢で面接を受けているのかといったところも気になるところです。
[図表1]「2023年卒 採用川柳・短歌」入選作品

就職・採用は男女の恋愛に似ているとは言うけれど

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