医療水準の高まりにより、現代社会においては、病気になっても働くことができる環境が整っています。しかし、労働者・企業の双方にその認識がないばかりに、やむなく離職に至るケースも見られます。病気は、いつ誰がなってもおかしくありません。「明日は我が身」だと考えるべきなのです。そのような観点から、企業の「治療と仕事の両立支援」の取組みに関して、前回(2022年2月24日掲載)ご紹介しました。今回は、実際に「病気」と診断された労働者が発生した場合に起こり得る、課題と対応についてまとめました。

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【課題1】病気の発覚時に詳細なヒアリングができない

例えば、従業員が「がん」と診断された場合を考えてみましょう。今では日本人の2人に1人ががんに罹るとはいえ、大抵の人はショックを受けるでしょう。その時に本人から詳細な話をヒアリングすることは困難です。

よって、「会社として最低限、聞くべきこと」をまとめた質問用紙を作成しておくとよいです。また、「本人が利用できる制度」や「各所の連絡先」等を一覧にしたシートを渡しておくと、安心感をもってもらえます。

【課題2】企業内での情報共有ができず、上司だけで抱え込んでしまう

病気が発覚したのち、本人がそれを最初に報告する相手として、やはり直接の上司が可能性としては最も高いでしょう。

その時に注意しなければならないのが、「上司だけで抱え込まないこと」です。例えば、報告時には本人の体調に問題がなかったために、通常どおりに業務にあたってもらっていたとしても、急に病気が進行して業務に支障をきたすかもしれません。その時になって、人事や産業保健スタッフに連絡をしても、対応が遅れてしまいます。

よって、本人に了解を得た上で、少なくとも人事や産業保健スタッフとは、早い段階で情報共有を行うようにしましょう。上司個人の判断に任せず、情報を共有できるような仕組みを整えておくことが必要です。ただし、報告を受けた上司が、本人の了解を得ないままに情報を部署のメンバーに伝えることは、個人情報保護の観点からNGです。

【課題3】企業と医療の連携が取れていない

「企業の考え」と「主治医の考え」がすれ違っていることにより、本人の就業との両立、そして復職への進め方にギャップが生じることがあります。これは、企業と医療、そして本人との間での連携がうまく取れていないためです。そのような事態を防ぐためには、本人・企業・医療(主治医)による3者面談が必須といえます。場合によっては、産業医にも同席してもらうと、より効果的でしょう。

さて、この3者面談を行うにあたり、まずは会社から主治医に向けて「勤務状況提供書」を提出してください。この「勤務状況提出書」については、様式は決まっていませんが、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和4年3月改訂版)」に様式例が掲載されていますので、こちらを参考にするとよいでしょう。

このような用紙を使って、具体的には、「職種」、「職務内容」、「勤務時間」、「有給休暇の残日数」、「社内で利用できる制度(時差出勤やテレワーク等)」などを主治医に伝えます。この用紙を主治医に提供する目的は、主治医から「今後の治療と仕事の両立」や「復職」などに関する意見を、できるだけ正確に得るためです。そうして主治医からの意見を得た後に、3者面談を通じて、具体的な両立支援プログラムを立てることになります。

このように、まずは積極的に企業側から主治医への情報提供を行い、3者面談を通じて連携を強めることが大切です。

【課題4】労働者の意識と周囲の理解が十分でない

会社は治療や療養の場ではありません。労働者は、労働契約に基づいて労務を提供し、その対価として賃金を得られます。そのため、復職がゴールになって、「とりあえず復帰できて良かった」と労働者が安心して立ち止まってしまっては、会社としては満足できない部分もあります。復帰後には、仕事で成果を出してもらう必要があるのです。病気の内容や体調に配慮することは大前提ですが、あくまで「フルタイムで継続して勤務できること」を、労働者の目標とするべきでしょう。

また、治療のために休職や時短勤務となった場合、普段からのコミュニケーションや同僚との仕事の進め方などに問題があると、周囲の労働者から不満が出ることもあります。「お互いさまだね」と言い合える風通しのいい職場風土を作っていきましょう。

それとともに、ジョブローテーションやマニュアル化などによる“業務の属人化”をできるだけ避けることも大切です。

まとめ

このように、会社に「治療と仕事の両立支援」の仕組みを作った上で、「それをうまく運用できるか」が重要です。例えば、時差出勤や休職制度、在宅勤務などの制度があっても、周知できていなければ意味がありません。そもそも、「治療と仕事の両立」についての社内の理解が低ければ、安心して制度を利用できないでしょう。

繰り返しますが、病気はいつ誰がなってもおかしくありません。明日は我が身なのです。「『治療と仕事の両立』に関する情報を提供する」、「研修を行う」、「実際の療養者の様子を社内報で発信する」など、社内のリテラシーを上げていくことも大切です。

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