「閉じた質問」と「開いた質問」
ここに3つの演算式があります。その点、2番目の「○+○=8」は「開いた質問」です。与えられた右辺の「8」に対し、人によって「3、5」と答えたり「2、6」と答えたり。左辺の組み合わせは無限にあります。
3番目の「○+○=○」は、右辺も左辺も無限に考えられるので、これはもう言ってみれば「開ききった質問」です。
「閉じた業務」=答えがある作業を着実にやる
さて、この3つの演算式をふだん職場で行っている仕事に当てはめて考えてみます。この種の仕事は誰がやっても同じ答えになりますから、いわば「閉じた業務」と言っていいでしょう。「閉じた業務」において創造性はあまり必要ありません。ともかく正確に、効率よく、根気を持って1つ1つこなしていくのが「よい作業者」です。
そうして「この作業はもうあなたに任せても大丈夫ですね」と言われるようになる。これが仕事をするうえでの「自立」ということです。
「開いた業務」=答えは無限にあり、それを自分でつくり出す
次に、上司から「○+○=8」を考えてほしいと頼まれる仕事があります。これは「半分開いた業務」というべきものです。この種の仕事ではそれを行う人のやり方や創意工夫によって個性が出ます。これができる状態を「半自律」とみます。
そして最後に「○+○=○」の仕事です。
次に左辺。課題を解決し、挑戦を乗り越え、目標を達成するための方法・プロセスは何が適当かを考える。そしてその実行。
そのように右辺も左辺も完全に「開ききった業務」を自分で取り仕切ることができるようになる。これこそが「自律」の仕事です。自律の仕事には、創造性はもちろん、時代をみる目や課題を発見する力、目標を設定するセンスや意志、そして必要に応じてプロセスを修正していく柔軟性や機動力が必要になります。
自律=右辺と左辺を自在に組み合わせて自分独自の等式を成立させること
自立から自律に向かう仕事・就労意識の3フェーズを1枚のスライドにまとめるとこうなります。また、「○+○=○」の形は、「○+○×○÷○-○=○」のようにどんどん発展させていくことができます。すなわち、足し算という技能だけでなく、掛け算とか割り算とかいろいろな技能を追加習得して、複合的に組み合わせ、自分が定めた右辺の目標達成に向かっていく。そうした右辺(=目標・ゴール)と、左辺(方法・手段・プロセス)の組み合わせを自在につくり出していくことが「自律」的に仕事をやる面白さです。
本稿で「自律」を定義するとすればこうなります――
「自律」とは、右辺と左辺を自在に組み合わせて自分独自の等式を成立させること。
自律的挑戦を重ねていけば想定外にキャリアは発展していく
仕事を得て、生計を立てていくために、まずもって「自立」は大事です。そのために、一人前以上に業務をこなせる知識・技能を身につけること。しかし、そこで安住していては長きキャリアの航海を渡っていくことは難しいでしょう。なぜならそういった「閉じた業務」を真面目にこなす人は世の中にたくさんいますし、機械やAI(人工知能)に置き換わる時代がきているからです。完全なる自律とはフェーズ3です。右辺、左辺の両方をつくり出せる人は、代替のきかない「人財」です。そしておそらく両辺を自分でつくり出すと、おのずとその仕事は「自分ごと」となり、志事的・ミッション的な性質を帯びてくるでしょう。
そういった自律の仕事を積み重ねていくと、自然にキャリアは切り拓かれてきます。何年か経って振り返れば、納得のいく、いやそれ以上に想定外に発展を遂げる職業人生になっているはずです。キャリア・プラニング(計画)をいくら綿密に立てたところで、日々の仕事において「○+○=○」の自律的挑戦がなされていなければ、絵に描いた餅になるでしょう。
自分の自律的挑戦が、他者の自律的挑戦と交わり、化学反応を起こせば、キャリア・プラニングのちっぽけな枠を超えて、想定外の世界が開けることもあります。自律的に働くことにはそういった醍醐味があります。
(執筆者:村山 昇)
※本記事は『GLOBIS 知見録』に掲載された記事の転載です。
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