なぜ「デジタルワークプレイス」が注目されているのか
「デジタルワークプレイス」とは、業務上の情報・ツールなどをクラウドをベースとするデジタル空間に集約し、タスクの共有やコミュニケーション、会議などの業務を社外でも問題なく遂行できるよう、作業環境を整備することである。なぜ、「デジタルワークプレイス」が注目されているのか、その背景を紹介する。●テレワークの拡大・働き方改革の推進
ここ数年、新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークが急速に拡大している。また、働き方改革の推進で時短勤務やフレックスタイム制など、多様な働き方が普及した。働く場所が会社の中に限らなくなったこと、従業員が一堂に集まる機会が以前よりも少なくなったことなどから、どこにいても業務に支障が出ないような環境整備が急務となったことで、「デジタルワークプレイス」が注目されるようになった。●DX(デジタルトランスフォーメーション)の進化
デジタル技術の進化により、どこにいてもインターネットを通じてメールの確認、情報共有などが可能になったことはもちろん、アプリケーションがサーバー経由で利用できるようになったことから、マルチデバイスによる業務がさらに普及した。また、クラウド上で文書管理もできるようになり、紙での出力や保管が必須ではなくなった。これらDXの進化が「デジタルワークプレイス」を広めた最大の要因といえる。●労働人口の減少
昭和・平成初期の時期に比べ、労働力人口が減少しており、人材不足が問題化している中、生産性向上や業務効率化を推進することは、社会全体の課題となっている。この課題を解決するために、職場のデジタル化及び「デジタルワークプレイス」の活用が期待されている。「デジタルワークプレイス」が企業や組織にもたらすメリット
「デジタルワークプレイス」の導入は、従来の仕事の仕方に革新をもたらす。導入することでどのようなメリットがあるのか、具体的に解説する。●競合優位性の実現
「デジタルワークプレイス」を活用することで、従業員が情報を分かち合うことが容易になる。また、連絡手段の統一も可能になり、情報伝達にかかる時間や手間を減らすこともできるため、アイデアを出す時間の捻出や生産性の向上もかなえられる。従業員の生産性が向上すると、業界での自社の競争力を高めることができるだろう。●働き方改革の推進
子育てや介護をしながら働く人も多い現代で、オフィスに出社しないと働けないという職場環境は、企業にとっても従業員にとっても不利益であるといえる。「デジタルワークプレイス」が整っている企業であれば、「時間や場所を限定されず働きたい」という従業員のニーズにも応えられる。また、社内の情報共有も容易になるため、時短勤務やフレックスタイムで働く従業員にとって、情報伝達不足が起こる心配が低い。●DXの推進
「デジタルワークプレイス」を整えるためには、情報共有のための統一されたコミュニケーションツールの整備、電子契約や電子署名の仕組み作りなど、大掛かりな社内整備も必要になる。結果として、自社のDXが推進されるということになる。●従業員エクスペリエンス・エンゲージメントの向上
「デジタルワークプレイス」を活用することで、快適な労働環境における柔軟な働き方が可能となり、ワークライフバランスの改善にもつながるため、従業員満足度の向上が見込める。また、ライフステージに合った働き方がしやすくなることで、従業員の定着率の向上にもつながる。これらのことから、会社に愛着を持って働き続けてもらうことが期待できる。●従業員間の連携強化
使いやすいコミュニケーションツールの導入など、どのような場所で働いていても情報共有できる仕組みを整えておけば、従業員同士が直接会う機会が減る場合でも、社内連携の強化が可能となる。●テレワークやワーケーションなど多様な働き方の推進
テレワークやワーケーションのように、企業に在籍していながらオフィスに出社することなく業務を行う働き方が浸透してきている。「デジタルワークプレイス」の環境が整っていれば、各従業員が多様な働き方をしている中でも情報伝達等の問題は起こりにくいため、企業・従業員双方に不都合が生じる可能性は低い。「デジタルワークプレイス」の導入に伴う課題とは
「デジタルワークプレイス」の導入により、いくつかの課題も生じる。一つずつ詳しく解説する。●人間関係
「デジタルワークプレイス」を活用することで、オフィスに出社せずに好きな場所で仕事ができるようにもなるが、従業員同士が直接顔を合わせる機会も減少するため、人間関係が希薄になるという懸念も生じる。特に、フルリモート勤務を導入する企業の場合、会話はチャットツール頼りとなり、社内の人の人間性や価値観を知るチャンスが失われる恐れもある。そのため、「デジタルワークプレイス」を導入するのであれば、社内の人間関係をどう構築していくかもあわせて考える必要があるだろう。
●業務の進捗状況
オフィスに出勤して業務を行うスタイルの場合、仕事中に問題が生じても、直ちに上司や管理職に報告・連絡・相談ができる。上司側も部下の抱える悩みやトラブルに気付きやすいというメリットがあるだろう。しかし、「デジタルワークプレイス」を活用し、従業員が様々な場所で働くようになると、相手の顔が見えず、問題を相談する機会を伺いにくくなるという恐れも生じる。また、気軽に話しかけることも難しくなるため、上司・管理職側は各従業員の業務の進捗を把握することが難しくなる。
「デジタルワークプレイス」の導入時には、進捗管理方法の確立や、相談の機会を定期的に設けるといった対策も必要である。
●情報漏洩
「デジタルワークプレイス」は、各従業員がインターネットを通じてコミュニケーションや情報共有を行うため、インターネットウイルス感染等で情報が漏洩する可能性もゼロではない。情報漏洩は企業の信用低下にもつながるため、パソコン等のデジタルデバイスのセキュリティ対策も同時に行わなければならない。
●コスト
「デジタルワークプレイス」の環境を整えるためには、デジタルデバイスの購入、業務用ソフトの導入、利用する従業員への研修など、費用や時間の面で多大なコストがかかる。コストを抑えるためには、必要なデジタルデバイスやソフトをきちんと選定し、不要なものは導入しないことが重要となる。
●コミュニケーション
「人間関係」にも通ずることだが、「デジタルワークプレイス」の導入により直接顔を合わせずとも業務が可能となるため、従業員間のコミュニケーションの機会が失われる恐れもある。「デジタルワークプレイス」内にコミュニケーションを取れる場を設けるなど、定期的に社内交流するための対策が必要だろう。●勤怠管理、人事評価
「デジタルワークプレイス」を活用すると、出社の必要がなくなる。よって、各従業員の業務時間の把握も難しくなる。働く場所に制限を設けないのであれば、クラウド型の勤怠管理システムを導入するなど、より正確に業務時間を把握できる方法を取り入れなければならない。また、「業務の進捗状況」にも関連するが、従業員の評価を適切に行うためにも、テレワーク下の業務内容を正しく把握する必要がある。業務内容の可視化とあわせて、人事評価の仕組みの見直しも重要となるだろう。
参考にしたい「デジタルワークプレイス」の企業事例
実際に「デジタルワークプレイス」を導入している企業は、どのように活用しているのだろうか。本稿では、「キリンホールディングス株式会社」の企業事例を紹介する。キリンホールディングス国内グループ会社の本社組織であるキリングループ本社(東京都中野区)は、2022年6月よりオフィスをリニューアルする予定だ。
新オフィスは「デジタルオフィス化」しており、各座席のリアルタイム在席情報がスマートフォンからでも確認できるようになっている。また、グループアドレスを導入し、大まかに指定した座席エリア内においてフリーアドレス化を行う。これにより、仕事によって業務を行う場所を変えるなどの対応が可能となった。リモートワークにも対応しており、ウェビナールームの新設も行っている。
さらには、テレワーク普及に伴い、出社して働く従業員が少なくなることを見越して、オフィス総面積の約2割の削減も行う。ただし一人当たりの執務スペースは約2倍に拡大しており、グループ本社在籍者の最大50%が同時に出社しても執務可能なスペースを確保している。
加えて、物や場所に縛られない働き方を実現するため、原則100%ペーパーレス化を目指し、書類等の保管スペースや倉庫の削減も行う。
テレワークを推進しつつ、出社した場合でもフリーアドレスで業務に応じた場所で働けるようにしている。これは、テレワークの課題であるコミュニケーション不足の解消にも役立つはずだ。併せて、リアルとリモートの両方に対応しやすいウェビナールームの新設、ペーパーレス化の推進など、理想的な「デジタルワークプレイス」の実現を目指した職場作りの良い例だといえるだろう。
まとめ
「デジタルワークプレイス」の構築によって、どこにいても会社にいる時と同じように働くことが可能になる。「デジタルワークプレイス」の実現には、業務に必要な情報やツールをデジタル空間に集約させ、社外からのアクセスを可能にするための環境整備が必要である。最近はコロナ禍でのテレワークの普及、働き方改革による業務時間の短縮が注目されている。さらには、子育てや介護をしながら働く人も増加している。企業が「デジタルワークプレイス」を整備し、どのような事情を抱える人でも働きやすい環境を作れば、人材不足の解消、また生産性や従業員満足度の向上にも寄与するはずだ。
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