そもそも「労働条件通知書」とは
「労働基準法」第15条では、「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければいけない」と定められています。明示しなければいけない内容が明確に定められており、書面での交付が必要なことから、これを「労働条件通知書」と呼んでいます。正社員にだけではなく、アルバイトや有期契約など、雇用形態や名称に関わらず、すべての労働者への明示が必要です。明示する内容は、以下の通りです。必ず明示しなければならないこと(必ず書面で明示)
1.契約期間に関すること2.期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
3.就業場所、従事する業務に関すること
4.始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
5.賃金の決定方法、支払時期などに関すること
6.退職に関すること(解雇の事由を含む)
7.昇給に関すること
定めをした場合には明示しなければならないこと(口頭での明示も可)
1.退職手当に関すること2.賞与などに関すること
3.食費、作業用品などの負担に関すること
4.安全衛生に関すること
5.職業訓練に関すること
6.災害補償などに関すること
7.表彰や制裁に関すること
8.休職に関すること
決まったフォーマットはありませんので、上述の記載内容が記載されていれば、自社で使いやすいフォーマットを使用して問題ありません。厚生労働省によるモデル労働条件通知書も公開されていますので、まずは、そういった雛形を参考にするのも良いでしょう。なお、「就業規則」に上記の明示事項がすべて記載されている場合、該当の労働者に適用される部分を明確にした上で「就業規則」を交付すれば、「労働条件通知書」の代わりとして問題ないとされています。
最近では、例えば東京の会社で沖縄在住の方を雇い、常にテレワークで働いてもらう、というケースも見られます。このようなケースでの「書面での交付」は、労働者が希望した場合には、電子メールやSNSメッセージ機能等での交付でも良いとされています。この時、紛争を未然に防止する観点から、労働者へ「労働条件通知書」の到達確認をするのはもちろん、労働者が印刷や保存をしやすいよう、PDF等の添付ファイルで送ることが望ましいです。
「労働条件通知書」と採用・入社時に提示する他の書面との違い
入社時に取り交わす書面といえば、「雇用契約書」を思い浮かべる方も多いと思いますが、「労働条件通知書」は、「雇用契約書」とは異なります。「雇用契約書」は簡単に言えば、企業側の「当社で働いてください、その対価として報酬を支払います」という要望に対する労働者の合意を書面化したものです。この合意は口頭でも問題ないとされているため、法律上、「雇用契約書」を作成し取り交わす義務はありませんし、記載事項にも決まりはありません。とはいえ、雇用契約は金銭も絡んでくる重要な契約です。そのため、実務では、「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で、入社時の労働条件の合意を書面で取り交わし、労使双方がサインをした上で各々保管している会社もあります。
また、求人票に記載の条件と同じだから明示不要、ということはなく、例え同じ条件だったとしても、「労働条件通知書」としての作成と明示が必要です。そもそも、求人時に提示しなければいけない労働条件と、「労働条件通知書」にて明示しなければいけない労働条件は同一ではないため、求人時に公開した労働条件では不十分なこともあると知っておきましょう。
「労働条件通知書」があることによるメリット
「労働条件通知書」だけでなく、契約書全般に言えることですが、書面にて労働条件を明示することで、「言った」、「言わない」のトラブル防止になります。例えば、口頭だけで給料を明示していた場合、「言い間違いに気づかなかった」、「聞いていた金額と違う」等のトラブルになることは想像しやすいかと思います。また、この「労働条件通知書」の作成と交付義務に、企業規模は関係ありません。「労働基準法」では、10人未満の事業場には「就業規則」の作成義務がありませんが、「労働条件通知書」の交付は、1人でも従業員を雇っていればその方への交付が必須です。さらに、「労働条件通知書」は前述の通り、最低限明示しなければいけない内容が決められていますので、「就業規則」の作成義務がない事業場でも、最低限の労働条件を決めることに繋がります。「労働条件と言われても、何から決めればよいかわからない」という会社にとっては、社内ルール策定の際の1つの目安になるでしょう。
「労働条件通知書」と聞くと、難しく感じる方もいるかもしれませんが、まずは厚生労働省が提示しているモデル労働条件通知書を埋めていく方法で問題ありません。「労働基準法」で罰則つきで定められているものだから仕方なく用意する、ということではなく、後々の労働紛争防止や、労使双方が気持ちよく働くためにも、自社の「労働条件通知書」を改めて見直してみましょう。
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