リーダー層の強化・ケア・処遇改善が焦点に
名藤大樹
管理職は大変です。2022年に限らず、いつの時代もそれぞれに大変であったと思います。しかし、新型コロナを経験した日本の職場で起こっている変化は、管理職、とりわけ、組織をまとめるリーダーとしての難易度をさらに上げています。新型コロナ以降の今、多くの日本の職場で起こっていることを整理してみます。
まず、「ジョブ型」的な職場への変化とデジタル化(リモート化を含む)の進行です。組織や業務の中に、従来は発生しづらかった「すき間」「ブラインドスポット(死角)」が増えています。リーダーがその対処を求められる傾向は強まっているでしょう。
次に、人材獲得競争の激化と価値観の多様化です。少子高齢化の進展は止まることなく、新型コロナやグローバル化は高齢者から若手まで多くの人々の仕事観を問い直しています。人々が自由に意見を表明し、動いていく、という時代の流れは、組織をまとめる立場の負担を非常に大きくします。
こうした影響で、2022年、組織をまとめるリーダーの負担・役割は明らかに大きくなるでしょう。対策として三つ提言します。
第一に、リーダー自身の強化です。当然のことですが、リーダーがスキル・価値観において自らをアップデートできるような教育や投資、機会提供など多面的な施策を増やす必要があります。
第二に、リーダー層のケアです。リーダーであることはタフな仕事である、ということを会社も、そしてリーダー層自身も認めてよいと思います。リーダー同士が経験や悩みを話し合う場、心理的安全性を保てる場を意図的に設けることを検討すべきでないでしょうか。
第三に、リーダーの処遇改善です。人材獲得競争が激化しています。この波は幹部人材クラスも例外ではありません。リーダー層にはそれに相応しい金銭的・非金銭的処遇を与えることが欠かせないでしょう。
リーダーがどうあるかはビジネスの維持・強化と直結します。2022年を左右するテーマとして、注目が集まると思われます。
新型コロナとデジタルが加速させる“人材改造競争”
竹内秀太郎
新型コロナは将来起きるであろう変化を加速させ、10年後の未来がこの2年で一気に現実のものになった。デジタル技術を活用した業務の自動化、省力化が進み、かなりの業務がリモートでも可能なことが明らかになった。週の半分はオンラインベースの在宅勤務、通勤時間を節約した分は副業にあてるといった、新しい働き方が珍しいことではなくなった。さらにデジタル技術の破壊的インパクトは事業構造を根底から揺るがし、業界の垣根を越えた競争が進んでいる。グループ再編を発表したNTTが、事業構造変革と合わせて、ジョブ型人事の導入、転勤・単身赴任廃止といった働き方の変革方針を打ち出したのは、象徴的事例といえよう。こうした変革の成否を握る人材に関するキーワードとして「リスキリング(学び直し)」と「アンラーニング(学びほぐし)」をあげたい。
リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」とされる。企業が事業構造変革を進める上で従業員の学び直しによるインプットを促すことは重要な「生き残り」戦略のひとつであるが、海外に比べ日本企業の取り組みは出遅れ感が否めない。情報処理推進機構の調査によれば、米国企業の約8割がリスキリング施策を実施しているのに対し、日本企業では約3割にとどまっているのである。
そして新しいスキルの獲得には、積み増すばかりではなく、既に保有しているものを棄て、新しいものと入れ替える側面もある。ここに焦点をあてた概念が、アンラーニングだ。成功体験に囚われて環境変化に適応できなくなってしまう「コンピテンシー・トラップ(有能さの罠)」に陥らないためには、成功からの学びの固定化を回避する必要がある。表層的な知識のインプットにとどまらず、時代遅れになった信念やルーティンを棄却し、アップデートし続けていくアンラーニングこそが個人の成長につながる。
DXを通して進められている構造改革の成否は、突き詰めるところ人材の問題に行き着くと言われる。新型コロナが働き方を変え、デジタルが事業構造を変える中、新たなスキルのインプットと仕事の仕方のアップデートを促す“人材改造競争”が日本でも本格化していくだろう。
市場区分の変更による、新しい価値基準
林恭子
2022年に起こる、日本の企業経営に影響を及ぼす大きな変化といえば、東京証券取引所の市場区分の変更があるでしょう。これまでの一部、二部…という区分から、プライム、スタンダード、グロース市場の3つへと変わるのです。現在の一部上場に近い概念がプライム市場で、以下と定義されます。(市場区分見直しの概要 日本取引所グループより引用)
時価総額は当然のこととして、注目すべきは、「高いガバナンス水準」「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」の点です。まさにESG投資に相応しい企業でなければプライム市場に所属できないということなのです。
企業にとって重要なステークホルダーであり、持続的な成長に欠かせないもの、それは社員です。その社員を単なる労働力ととらえるのではなく、投資をしてそのスキルや能力を大きくする対象、つまり「資本」と捉えた「人的資本経営」が今注目を浴びています。経済産業省も2021年7月から「人的資本経営の実現に向けた検討会」を開催しており、各企業がどうこれを実現していくかが注目されるでしょう。
ガバナンスとしても、投資家との対話の土台としても、同時に企業に求められるのが、「非財務情報」の公開です。財務諸表だけでなく、例えば、人的資本としての社員に対して、どのような教育投資をしたのか、イノベーションにつながる社員の多様性はどれくらいあるのか、社員の企業へのエンゲージメントは高まっているのか、などの非財務情報を開示する必要があるのです。
しかし、慣れていない企業にとっては、どのような基準で情報を集め公開すれば良いのかは難しいものです。そこで2021年秋頃からさかんに参考にされ始めたものに、「ISO 30414」があります。これは、2018年12月に国際標準化機構が発表した、人的資本に関する情報開示のガイドラインで、11の項目があります。この項目全てが、投資家が注目する非財務情報となるかはわかりませんが、経営リーダーを志す方は理解しておくと良いでしょう。
(執筆者:名藤 大樹、竹内 秀太郎、林 恭子)
※本記事は『GLOBIS 知見録』に掲載された記事の転載です。
- 1