現代の経営者の資金調達を支援する仕組みとは?
「資金力がないと経営者の自由度が下がる」
十数年前までの日本は、組織の力が強く、階層を中心に回る文化の社会でした。そのため、「一度組織からはみ出した人間は、人生終わり」、「一度出世争いから敗れた人間は、人生終わり」といった圧力が非常に大きく、その心理的不安が個人の組織依存をより強固にしてきた側面があります。他方で、その特性が良い面に作用した「競い合い」の時代もありましたし、いつの間にか「ただの蹴落とし合い」になっている様子も業界によっては散見されます。
経営者をサポートする、現代の様々な仕組みは、「既存の組織を飛び出しても全く問題ない」、「たとえ失敗しても別の道でまた挑戦できる」という意味では、閉塞感を打破するために良いことでもあります。
現代の経営者に問われるのは「計数感覚」と「お金に関する危機意識」
ただし気を付けたい点があります。一昔前なら、会社を飛び出して起業した場合、自己資金や自分の資産を担保にした金融機関からの借り入れなど“限られた資金や方法”で起業をするしかありませんでした。そのため、多くの起業家は、起業1年目の段階で、「売上はないのに給与や家賃など固定はどんどん出ていき、日に日にお金がなくなっていく」という恐怖を味わいます。
私も起業したいという方の相談を受ける際に、「お金についてどの程度知識があるか」を心配して尋ねると、多くの人から「そんなことくらいわかっています」と逆に怒られます。しかし、実際のところ「わかっている」というお金の範囲は、「粗利まで」であることが多いのです。会社員の経験があれば、誰でも「自分の部署や仕事に関する売上」と「それに対応する原価」までは、これまでの経験から理解しています。しかし、大事なのはそこからです。
中には、販売費や一般管理費(販管費)には、どのようなものがあり、いくらかかるのかを実際に知らないまま起業してしまう人もいます。なぜなら、多くの会社は、一般社員に向けて販管費の内容やいくらかかっているかなど改めてレクチャーなどしません。また、未上場企業でしたら、決算書は一部の役員や管理職以外に公開していないという会社も多いためです。そして、上場企業の出身者であっても「自分が所属する会社の数字に興味がない」と言い切る人さえいます。「自分の売上や給与には興味があっても、会社の数字への興味はそのくらいのものですよ」と、現場の方から伺い、私自身がショックを受けた記憶もあります。
そのような環境で会社員時代を過ごしてきた現場の人がひとたび起業をしたら、当たり前ですが「モノが売れないのにお金はなぜかどんどん出ていく」、「粗利ベースで黒字になるようにモノを売っているはずなのに、どんどん赤字が膨らんでいく。なぜだかわからない」という状況に陥っていくのは当然です。
そのタイミングは、自分自身が「いかに売上を作るセンスがなかったか」、「いかに営業力がなかったか」、「いかに販管費を軽視していたか」など、これまでは気づかなかった“自身の弱みや甘さ”を痛感する機会です。それに対処することで、「初期の段階で最小限の損失で済んだ」という軌道修正ができます。そして改めて、販売戦略や社内体制、販管費の使い方を見直すことで、さらに売上や利益が確保でき、お金が貯まる仕組みができていきます。貯まった資金で人材や設備をさらに揃えられるようになり、だんだんと「経営の自由度」が高くなっていきます。
「販管費を甘く見ると、販管費に泣く」とならないために
ところが、近年のトレンドのような資金調達方法の場合、起業1年目から多額の資金を確保し、初期段階で大量の人員採用、豪華なオフィスや社内インフラの整備などが実現できてしまいます。資金があるうちに株式上場したり、業績を黒字化できたりすれば、会社は引き続き資金が確保でき、自由度の高い経営が維持できます。しかし、そうでない会社は、ひたすら資金が減り、どんどん経営の自由度が狭まっていきます。人員も削減し、オフィスも安いところに移り、設備を売却しなければ……など。経営者が「まずい」と気付いたときは、当初の目的はおろか、もはやどうすることもできない状態に陥っていることさえあるでしょう。資金が豊富な時は、「社員の働き方も出勤退勤時間も自由、ノルマもなし、和気あいあいと楽しく、社員満足度が高いことこそが大事」と言っていた企業も、結果が出なければ、投資家などから、問い詰められることになります。「いつになったら黒字化するのか」、「いつになったら株式上場するのか」、「社員を遊ばせるために自分達は投資をしているのではない」など。外部の言葉に押されて社員の働き方の自由度を狭めれば、おのずと社員達は「こんな窮屈な会社なら辞めます」と転職をしていきます。人も、設備も、資金も、どんどん枯渇していくのです。
では、そうならないために、バックオフィスは経営者をどうサポートすればいいのでしょう。それは、「旧来型の資金をこつこつ貯めて経営するパターンの会社」であっても、「最新型の大量の資金を背景に赤字でも攻めの姿勢で経営するパターンの会社」であっても同じです。“お金の正しい使い方を提案し、管理し続ける”ということです。そして、それは特に販管費の部分です。販管費を甘く見ると販管費に泣きます。例えるなら、小川の流れの速さを軽視して、足をすくわれてひっくり返るようなものです。それくらい販管費というのは、足元を素早く次から次へとキャッシュアウトしていくものなのです。
販管費の使い方には、その会社の品性、危機意識も表れます。経営陣とバックヤード部門が協力し、品があり危機意識も備えた資金の使い方を維持、管理できることが重要です。そして、そのような会社こそ『経営の自由度が担保された中で、挑戦を続けることができる』といっても過言ではありません。
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