それは学生も例外ではなく、就職活動における志向性や価値観も変化しており、その変化に対応できず、満足のいく採用の成果を得られない企業は少なくない。
こうした状況のなか、成長力、安定感、働き甲斐のある職場環境など自社の魅力を学生に伝えるには、どのようなアプローチをおこなえばいいのか。
今回は、“採用学”の第一人者・神戸大学の服部泰宏准教授と、日本最大の企業インタビュープラットフォーム『インタツアー』を提供する株式会社学生就業支援センター・代表取締役社長 作馬誠大氏との対談を企画。
変化する採用・就活環境や学生の就活のあり方に対して、企業がとるべきスタンス。そして、自社の魅力を伝えたい企業と多くの業界・業種の実態を知りたいと願う学生を結ぶために必要なことなど、企業と学生の両者にとって理想ともいえる、新しい「採用のカタチ」について、研究者・サービスベンダーという異なる視点を持つお二人に、存分にお話いただいた。
学生の価値観の変化、それに企業が対応する重要性
服部 学生の志向性や価値観、就職先の選択基準は、少しずつ変わってきています。以前は「雇用が安定している大企業に行きたい」という考えの人がマジョリティでした。しかし近年は、若手社員の育成方針、どんな経験を与えてくれるのか、企業の名前や大きさで絞り込むだけでなく、成長機会や働き方などを見ているわけです。インターネット検索にたとえると「働き甲斐 社会貢献 インフラ IT」などと、自分のこだわりをキーワード化し、ヒットする企業を探すようなイメージ。トレンド・キーワードに引っかからない企業は求められなくなっています。
作馬 これまで広報用ツールの中心だった「就職ナビ」のような媒体では、企業はカテゴリーで分類され、企業側からの情報発信はナビ媒体に最適化された手法や表現になっていたように思います。ところが最近は、カテゴリーから入って掘り下げていくのではなく、いきなりキーワードで取捨選択されてしまうわけですね。
服部 就職活動のあり方も変わり始めています。どこにエントリーするか、説明会にも参加するのか、本気で動く対象企業の数を絞り込む傾向にありますね。
作馬 学生には知られていなくても優良な会社はたくさんあるのですが、現在のタイトな採用・就活スケジュールでは、そうした企業の“発見”は後回しで、どうしても知っている会社からアプローチすることになるのでしょう。多くの企業が、自社のことを知ってもらえていない、どう発信し、惹きつけていくのか、ということに課題感を抱いています。
服部 本当はいいものを持っているのに、それを上手く打ち出せず、本来ならマッチするはずの学生と出会えない、というケースは確かにあるでしょう。自社の魅力を言語化しておくことが重要です。しかも独りよがりではなく、あくまで求職者から見て魅力的かどうか、彼らにとって“ぐっとくる”キーワードになっていることが大切です。
たとえば、神奈川県内で事業展開している自動車関係の某企業。当然、エントリーしてくるのは自動車に興味のある学生でしたが、ある年から、急に公務員を志向する人からのエントリーが増加。どうやら「神奈川県内で働く」ことが地元志向の学生を惹きつけ始めたようです。そんな風に、求職者の“まなざし”が変わることもあります。そうした変化に気づく努力を怠ると、ターゲットを間違えてしまうことになるでしょう。
作馬 わずか1~2年で価値観は変わるわけですね。トレンドや志向性の変化は企業が考えているよりスピーディ。昨今ではビジネスを取り巻く環境も激変していますし、企業自身も変わらざるを得ない。そうした中で学生の志向に合わせて自社の魅力を見直し、キーワードをアップデートしながら発信していく。打ち出したキーワードが学生に響いているのか、検証する機会もなかなかありませんし、難しい課題かも知れません。
採用のオンライン化で“大切な情報”が削ぎ落されてしまうという問題
服部 「A社とB社から内定をもらったけれど、先生はどう思いますか?」という相談は、よくあることです。ただ、以前はさまざまな情報を自分なりに入手し、比較して、それでも迷っているというニュアンスだったのに対し、ここ1年ほどは「企業と情報をキャッチボールできた感覚がない。だから迷っている」というのです。これは、面接をはじめとする採用フローのオンライン化が進んだからではないかと考えられます。作馬 学生が手応えに不安を感じているのと同様、企業側も異変を感じ取っています。もちろんオンライン化がプラスに働いた会社もあるのですが、大手でも予想以上に内定辞退が多く、「また採用活動を再開しなければならない」と、クロージングが難しくなっているようですね。
服部 オンラインによる面接でも、基本的なコミュニケーションに問題はないはずです。これは学術的・データ的にも示されていますし、実感としてもそう思います。企業の事業内容や給与体系、勤務地、学生の専門分野や経験といった基本情報は、お互いに交換し、相互理解は上手く機能しているでしょう。
ただ、プラスアルファの部分が不足してしまうのではないでしょうか。
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