毎日15分間、全員参加で「報・連・相」の場を設けてチームを活性化
上記の通り、「スクラム」とはソフトウェア開発の手法のひとつです。その中に「デイリースクラム」という毎日行うミーティングがあります。これは、チームメンバー全員で、業務の状況を確認するために行われる「報・連・相」の場です。このデイリースクラムは、IT業界に留まらず、どの業界でも、コミュニケーションの一環として取り入れることができるものです。方法はそれほど難しくなく、毎日最大で15分程度チーム全員が集まり、次の3つのことについて、ひとりずつ話をするだけです。
(1)この1日でやったこと
(2)これからの1日でやること
(3)仕事をする上で困っていること
所要時間は最大で15分間ですし、ミーティングの内容もシンプルです。既に毎日朝礼や終礼の場を設けているチームは、その内容を以上の内容に置き換えるだけで取り入れられる手法でしょう。
この手法におけるポイントは「全員参加すること」と「全員発言すること」です。朝礼を実施するチームも多いかもしれませんが、開催するのは必ずしも朝である必要はありません。フレックスタイム制や時差出勤を導入している、あるいはチーム内に時短勤務の方がいる等、朝に実施することで全員が参加できないのでは意味がありません。
チームでのミーティングというと、どうしてもリーダーに向けて報告する場になりがちですが、「スクラム」のミーティングは“全員が全員に向けて話す”ことを念頭に実施します。対面で行う場合には、円形になるなど、全員の顔が見える状態で行うとよいでしょう。オンラインの場合でも、カメラをオンにして全員の顔が見える状態にしておきます。一般的に、コミュニケーションの5割以上は、「表情」や「身振り手振り」といった「目で見える非言語部分」から伝わるといわれています。このミーティングは、「報・連・相」の場であると同時に「コミュニケーションの場」という目的もありますので、全員の顔が見えるように工夫することが有効です。
また、だらだらと開催するのはNGです。このミーティングは最大で15分を目途に実施します。そのため、あまりにも人数が多い場合には「細かなチームに分けて行う」等の工夫をしましょう。対面開催の場合には、立ったままで実施することも多いようです。
「困っていること」の報告が、チームの風通しをよくする
仕事で何か問題が起きたときや、思ったよりも時間がかかっているときなど、「もっと早く言ってよ」と感じた経験は多くの方にあるでしょう。このミーティングでは「困っていること」を発言する時間が毎日全員に用意されています。そのため、なかなか自発的に相談できない方でも発言しやすくなります。業務上「困っていること」の共有は、当然、チームの業務の円滑化に繋がります。ただ、ここでは必ずしも業務上の「困っていること」だけを話す必要はないと私は考えます。例えば、「今日までにやらなければいけない仕事があるが、子どもが熱を出しているのでできるだけ早く帰りたい」、「昨日から少し体調を崩している」等でもよいのです。チーム全員が顔を合わせていますし、それぞれその日にやることを報告し合っているわけですから、「では誰がヘルプに入れるか」、「どうすればチームで対処できそうか」などといった対処方法も、その場にいる全員で考えることができます。
「困っていること」を全員の前で報告するというのは、チームによっては勇気のいることかもしれません。いわゆる「心理的安全性」の低いチームでは、「こんなことで困っているのかと思われたらどうしよう」、「こんなこともできないのかと怒られるかもしれない」という思いから、実際に「困っていること」があっても、なかなか発言できない雰囲気になっていることもあるでしょう。そのようなチームでは、「個人を攻撃・否定するような発言をしない」といったミーティングのルールを設けて、誰でも発言しやすい空気を作ります。また、チームリーダーやベテランの方こそ、些細なことやプライベートなことでもいいので「困っていること」を積極的に挙げるようにして、部下や後輩が気兼ねすることなく発言しやすい雰囲気を作るのも工夫のひとつです。
当然、日ごろから全員で積極的なコミュニケーションが取れる環境であれば、毎日わざわざ時間を作る必要はないかもしれません。しかし、テレワークや時短勤務など多様な働き方が普及し、人と顔を合わせることが減りつつある今だからこそ、改めて職場のコミュニケーションを見つめ直し、より活発な意見交換のできる仕組みを考えていきたいものです。
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