本日の対談ゲストは、日本で30年間以上生活するJ-GLOBALのJon社長だ。同社はグローバル展開する大手企業の人事コンサルティングを手掛けている。イギリス人の彼は、日本人ならではの育成などのための「曖昧な表現」や「周りの人を気遣う」といった特徴は、グローバルビジネスで大きな武器になるという。また日本の課題も明確に指摘してくれた。
第26話:日本在住歴30年以上のイギリス人経営者が語る、組織マネジメントにおける日本人の強みと課題とは

日本のバーベキューから見るチームワークの良さ

稲垣:まずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

Jon:イギリスから来て日本に30年住んでいます。J-GLOBALというコンサルティング会社を経営しており、異文化コミュニケーション及び日系企業のグローバル化を支援しております。

稲垣:日本でバーベキューをしたときにびっくりしたことがあるとおっしゃっていましたね。

Jon:はい。まだ日本に来て間もないころですが、バーベキュー会場でみんなと一緒にビールを飲んでいたら、ふと誰かが薪を集め始めました。すると誰かが米を洗いだして、誰かが野菜を切り出して、誰かがバーベキューセットを組み立てて、誰かが火をおこして。そこが一瞬にして工場になったんですよ。びっくりしました! 言わなくても助け合うことは素敵ですよね。日本ならではのチームワークです。

稲垣:あえてネガティブに考えると、欧米の人のおおらかな感じというのは日本人からすると結構憧れだと思うんですよ。例えば日本でバーベキューが始まるとおっしゃる通り「工場」になるわけですね。自分は何をしようかなと仕事を探す感覚です。逆に仕事をしていなくてビールを飲んでいる人に対しては「あの人は仕事してない」という空気を作ってしまうというか(笑)。なんとなく、欧米だとやりたい人が肉を焼いて、やってない人は酒を飲んでいても別に注意されないというおおらかさがあるような気がしますが、それはどう思いますか。

Jon:欧米では言われなければやらなかったり、役割分担を話し合ってスタートしたりしますね。また、ディナーパーティーでホストが全て準備したり、自ら進んで汚れた皿を洗い始めたりすると、人気者になる。でも日本のように何も言わなくても自然とみんながお互いを助け合うようなことはあまり起きないです。

稲垣:これは仕事でも通じる日本の強みですか?

Jon:はい。優秀な日本人のチームは自分の強みを生かし、お互いの弱みを言わなくても助け合うという雰囲気になります。また、日本人マネージャーは全部徹底的に決めて役割を部下に振るのは効率が悪いし、育成にならないと思っています。だから育成のためにわざと曖昧な指示をするんですね。これもう1回やってみてくださいとか、もう少し考えてやり直してとか、「あれ」を持ってきてくださいとか。部下は自分で考えなきゃならないですね。なんの「あれ」だろうな、もしかしたら「これ?」、いや「これ?」。曖昧な指示を部下に出して自分で考えさせたり、自分なりにできるようにさせたりするチャンスを与えているんですね。それから、何も言わなくてもみんながやっているというのは、「フォロワーシップ」ですよね。日本人のフォロワーシップは、リーダーシップの1つですね。

稲垣:というと?

Jon:「リーダーはなんの戦略で動いているんだろう」、「リーダーの希望はなんだろう」と意識して、言われる前に日本人の部下はやっちゃうんですね。リーダーが「あれは?」って聞いたら、もうやったよって、そういう会話ができるんですね。海外ではありえないことです。

稲垣:なるほど。曖昧な指示や暗黙知というのは時に異文化コミュニケーションにおいては「課題」とされていますが、日本ならではの強みでもあるということですね。海外の方からしたらテレパシーのようですね(笑)。

Jon:はい。だから外国人は暗黙知が伴うチームワークに参加しづらいし、事前に話があったのかなと思っちゃうんですね。さっきのバーベキューでも事前に役割分担を決められていて、私は役割がないんだろうなと外国人は思っちゃう。

稲垣:欧米の人達からしたらなんの打ち合わせもしてないのに勝手に役割が決まっていくというのは不思議なんですね。

Jon:そうですね。いわゆる異文化コミュニケーションの「ハイコンテクスト文化」です。これはエドワード・T・ホールっていう人が50年前に行った研究成果です。ハイコンテクストっていうのは、「前提は分かるだろう」、「察しているから言わなくてもいい」というコミュニケーションスタイルですね。ローコンテクストは「分からないだろう」という前提から入ります。

しかしハイコンテクストの日本人にはそういうのはくどいですね。逆に失礼。事細かく説明するっていうのは「あなたはばか」っていう意味ですね。だから大人のコミュニケーションはそういう最低限な部分だけを言うんですよね。洗練したコミュニケーションですね。しかし海外だと曖昧な指示をするマネージャーは「駄目なマネージャー」。例えば日本の課長は、ちょっといいですかってミーティングを始めますが、海外だとちょっといいですかは駄目ですよね。前の日にミーティングを決めてアジェンダを皆さんに教えなきゃなんですが、アジェンダなしのミーティングは日本人の1つの得意技ですよね。
第26話:日本在住歴30年以上のイギリス人経営者が語る、組織マネジメントにおける日本人の強みと課題とは
稲垣:NETFLIXの企業文化を書いた『NO RULES』は大変面白い本でしたが、衝撃を受けたのは、彼らは「ルールを作らない、コンテクストを作る」という話でした。明確なルールで縛るのではなく、把握、コンテクスト、つまりは暗黙知を作るマネジメントです。ローコンテクスト文化のアメリカ人がハイコンテクストな日本文化になろうとしている。例えば同社は経費の申請はしなくていい、旅費規程もない。でも好き放題お金を使っていいのかというとそうではなくて、全てはNETFLIX の利益のためにという前提のもと、過去の成功事例とかケーススタディを共有し、みんなで共通概念を作っていくという。NETFLIX は日本的なハイコンテクスト文化を作っているという認識を持ちました。

Jon:まさにその通りです。素敵ですね。ルールを守るのではなく会社のために考え行動しなさいという感じ。まさに日本的です。

マルチタスクが得意な日本人

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