ALIVEプロジェクトとは
私が理事として参画する一般社団法人ALIVEは、「地域や社会に眠る様々な課題」と「企業の若手人材」を結び、社会貢献とリーダーシップ育成の両方を実現する複合型のプロジェクトを進めている。名だたる企業の若手人材が異業種混合のチームを組成し、貧困、子供、教育、福祉、芸術、地域といった様々な課題に取り組む団体の皆様と協働しながら、課題特定からソリューション提案まで、成果にコミットする濃密な2〜3ヵ月間を過ごす。こうした背景の下ALIVEは、2017年の発足後、30以上の社会・地域団体と協働しながら110社・500名以上の若手リーダーを輩出してきた。運営メンバー全員が現業を別に持ちながら副業的に関わる小さな社団法人にもかかわらず、同種の取り組みとしては国内最大規模にまで発展してきた。その背景には様々な要因があるし、ここには謝意を伝え尽くせないほどの各方面からのサポートがあるが、その一つにはやはり、「企業人のリーダー育成」という点において、しっかりと効果をもたらしてきたからだと思う。
「どう成長するの?」という問い
日々プロジェクトの現場で参加者に接していると、その言動、あるいは顔つきを見ているだけでも、ALIVEを通じて個人のリーダーシップが覚醒していく様ははっきりと感じられる。自身のコンフォートゾーンを超え、覚悟の一歩目を踏み出そうとする変容の様子はそれだけで本当に美しいし、当然本人やチームのパフォーマンスを大きく後押しする。これこそが、私自身が組織・人材育成に携わる最大の理由だと改めてリマインドされる。一方で、課題感もあった。ALIVEに研修効果を感じながら継続的に若手リーダーを派遣してくれる企業は多い。個人レベルでも、プログラム設計やチームのメンター的役割として出戻りしてくれる参加者は大勢いる。「ALIVEを通じて成長できた、人生が変わった」。そんな嬉しい言葉も頂戴する。しかし、「じゃあどう成長するの?」と問われたときに、「これです」と即座に、統一的に返せる指標がないのも事実だった。このために、初めてお声がけする企業の人材育成担当にとっては、社内決裁を得るうえでの説得材料に乏しいという苦労もあった。500名ものリーダー育成の実績と実感をどう表現して伝えていくか。これが課題だった。
「AQ指標」の開発
ALIVE quotient=「AQ指標」は、ALIVEプロジェクトでの体験学習を通じて成長が期待される個人のリーダーシップスキルを項目別に言語化したものだ。きっかけは、ALIVEそのものを課題テーマにしたスピンオフ企画、「ALIVE for ALIVE」。「ALIVEの価値をさらに広めるためには」というテーマの下、私自身も参加者として、これまでプロジェクトに関わってくれた皆さんとチームワークで提案したものだった。メンバーの多くが企業人事の経験者で、まさにALIVEの価値を幅広い企業に伝えていくためのツールを、人事担当目線で開発に関わってくれた。34のリーダーシップスキル
AQ指標では、リーダーシップスキルの様々な側面を「対自分」、「対他者」、「対課題」の大きく3軸に分類し、これまでの実績・実感をベースに34の項目に細分化している。例えば「対自分」では、「セルフ・パーパス(捕捉:作業をこなすだけでなく、自身の情熱や価値観を根底から理解しているか)」や、「自己の感情認識・コントロール(捕捉:自分の感情を認知し、反応的にならず冷静に次の行動をとることができるか)」という項目がある。「対他者」の場合は、「共感力」や「多様性の受容」「自己開示力」等が特徴的だ。そして「対課題」では、「社会的意義の意識」や「システム思考(捕捉:物事を単純な因果関係で結論づけるのではなく、複雑に絡み合う事象を全体として捉えられるか)」を成長スキルとして設定している。面白かったのは、私が今米国のミネルバ大学で教えているリーダーシップ講座の内容との近似性だ。「Managing Complexity」と題する社会人向けのこのプログラムでは、「複雑性の増す世界をどうリードするか」という大きなテーマの下、システム思考に始まり、デザイン思考、EQ、パーパス理論、バイアス、課題分析から意思決定セオリーに至るまで、今まさにリーダーに必要とされる最先端のスキルセットを企業人向けに伝えている。ALIVEプロジェクトで得られるリーダーシップスキルが、奇しくも多くの点において米国の最先端の成人教育プログラムと類似していたのは、特筆すべきことだった。
試験導入を終えて
このように開発に至ったAQ指標を、2021年1〜3月期のプロジェクトにおいて試験導入した。参加者は、プロジェクトの最終日に各項目を「自分がどれだけ成長したか」という観点から4段階で自己評価する。当初はプロジェクト開始時と終了時に自己評価をしてもらうことを考えたが、個人によって基準がバラバラであるため絶対値評価は難しいと捉え、終了時にのみ「成長度合い」を可視化することとした。結果はイメージ通りだった。
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