ALIVEではこれまでに、プロジェクトの具体的な流れや取組内容、提供する価値などを11回に渡って発信してきた。今回は、参加者と運営の立場で関わってきた経験をもとに、ALIVEの重要な要素の1つである「コーチャビリティ」の観点から、フィードバックの価値や自身の変化などをお届けしたい。
「コーチャビリティ」を向上させる“多様な”メンバーによる“繰り返し”のフィードバック

「コーチャビリティ」の意味や注目されている背景とは

昨今、「コーチャビリティ(※)」の注目度が高まっていると感じる。投資家が投資先を検討するにあたって起業家の要素として重要視していたり、採用基準として掲げている企業があったり、スポーツ選手の重要な資質としてみなされていたり等、例を挙げれば枚挙にいとまがない。

※「コーチャビリティ」とは、フィードバックを受け入れられる能力を指す。

価値や影響力について言及する論文も増えており、マネージャーのコーチング力よりも、メンバーのコーチャビリティ向上のほうが、組織の成果に与える影響が大きいという研究結果もあるようだ。しかし、これらはコーチャビリティをあくまでも資質として捉えているものが多く、向上させる具体的な方法については、まだ明らかにされていない印象がある。コーチャビリティ向上の方法がわかれば、人材育成や組織活性化において非常に意義があるだろう。

「コーチャビリティ」が向上した3つの要因

下記の図表は、コーチャビリティの向上寄与に関するALIVEのデータである。「AQ指標」=ALIVE quotientとは、ALIVEプロジェクトでの体験学習を通じて成長が期待される個人のリーダーシップスキルを項目別に言語化したものだ。AQ指標では、リーダーシップスキルの様々な側面を「対自分」、「対他者」、「対課題」の大きく3軸に分類し、これまでの実績・実感をベースに34の項目に細分化している。
「コーチャビリティ」を向上させる“多様な”メンバーによる“繰り返し”のフィードバック
2021年度2期終了時のAQ指標において、参加者が感じる最も成長度合いが大きい項目は「フィードバックの受取り」、すなわち“コーチャビリティ”であった。細かい内訳を見ると、「大いに向上した」が64.6%、「向上した」が29.3%。合わせると93.9%がコーチャビリティの向上を実感していることになる。

この数字はあくまでも、参加者の自己評価であるため、単体での根拠とすることは難しい。しかし、少なくとも参加者の大半が、向上した実感を持ったことは事実である。私自身、ALIVEへの参加を通し、最も向上したスキルは、「コーチャビリティ」だと考えている。その要因として考えられるものを、私自身の経験を踏まえて3つ挙げたい。

(1)フィードバックに慣れる

ALIVEでは、各Sessionの終盤にチームメンバー全員でフィードバックを渡し合う。チームは5~7名で構成されることが多いため、平均で約5名から受け取ることになる。多様なメンバーにより繰り返しのフィードバックは、受け取ることへの心理的なハードルを下げる効果があったように思う。

私自身、はじめはフィードバックを受け取りたくなかった。ネガティブなものは聞きたくないし、ポジティブなものは気恥ずかしい。当たり障りのないことを言われて時間が過ぎるのを、じっと待っていた。しかし、Sessionを重ねるにつれてフィードバックに慣れ、恐れることはなくなり、その時間が楽しみになっていたのだ。

(2)フィードバックを渡す側の想いを理解しやすくなる

フィードバックはチームメンバー全員で相互に行うため、受け取るだけでなく、相手に渡す必要もある。その内容は、Sessionを重ねるごとに深くなり、ネガティブフィードバックも増えていく。だからこそ、渡す際には相手を想い、受け取りやすさを模索する。そのため、フィードバックを渡す経験は、渡す側の想いを理解するうえで重要な役割を果たす。渡す側の想いを理解しやすくなれば、拒絶したくなるネガティブフィードバックでも、素直に受け入れられるようになっていく。

私自身、フィードバックを渡す際には一言一句を推敲し、語気や表情、身振り手振りまで検討を重ねる。耳が痛いであろうネガティブフィードバックを行う際には、伝え方の練習をすることもあった。ネガティブなフィードバックを渡す人こそ、受け取る人のことをより一層想うようになる。身をもってこのことを知っていれば、どんなフィードバックでも受け取りやすくなるのだ。

(3)フィードバックの価値に気づく

3ヵ月間、同じ目的に向かって取り組んだ仲間からのフィードバックは胸に沁みる。特に期の最後となるSession4では、氷山の下(図表下)にも目を向けてフィードバックを渡し合う。
「コーチャビリティ」を向上させる“多様な”メンバーによる“繰り返し”のフィードバック
「コーチャビリティ」を向上させる“多様な”メンバーによる“繰り返し”のフィードバック
普段の会社の業務では、MBOシートを筆頭に、氷山の上に目を向けたフィードバックが多いと思われる。氷山の下に目を向けたフィードバックは新鮮で、内省につながりやすい。ポジティブなものは自信につながり、ネガティブなものは改善につながる。その価値に気づくことで、これまでに比べて積極的にフィードバック求めるようになっていったのだ。

メンバーからのフィードバックは実際に何をもたらしたか

私自身、今までメンバーから受け取ったフィードバックはすべて手帳に写し、時折見返すようにしている。その中でも印象に残っているものを2つ挙げたい。

私が、サポーター(メンバーへのFBを行う役割)を担当していたときに受け取った「長谷川さんに褒められると力が湧いてくる」というフィードバックは、逆に自分の力が湧いてくるような気持ちになった。フィードバックを渡すことに自信がつき、積極的に相手に伝えることもできるようになったきっかけの一つと言っていい。

「行動の裏にある軸、意思が見えない」というフィードバックは、受け取った瞬間、時間が止まったように思えた。行動の軸、意思を明確に持つメンバーと過ごす中で、自分でもなんとなくこれには気づいていた。しかし、改めて言葉にされると、「なかなかしんどい」というのが率直な気持ちだった。このフィードバックを受けてから、具体的になにか変えられたかはわからない。でもずっとこの受け取った言葉を今でも噛み締め続けている。

今回は私自身の経験を通して、「コーチャビリティ」という観点でコラムをお届けした。先述のとおり、コーチャビリティは、重要度が高いものの向上させる方法がまだ明らかになっていない。紹介したAQ指標のデータでは、93.9%の参加者がコーチャビリティの向上を実感いただいている。今後はALIVE参加者を増やし、向上の実感を持つ方を増やすとともに、よりデータの確度を高めていきたい。

ALIVEでは、リアルな社会課題の解決に取り組んでいく。参加者はもちろん、運営メンバーも予想できないことがたびたび起こる。予定調和的に進むことはないため、学びも人それぞれ違う。これがALIVEの良さであり、他の研修とは一線を画する点だと考える。
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