■主旨と内容

前号に引き続き,危機管理規定について考えます。前号ではリスク予防を加味した危機管理の一般的規定(総則)を記しました。今回は緊急事態が発生した場合の対応マニュアルの策定を考えます。
基本的には,以下の検討内容をすべて規定化する方法と,規定とマニュアルの二本立てにする方法があります(本稿では後者を前提に解説)。

■検討内容

□緊急事態の範囲
第一に緊急事態の範囲を明確化します。この緊急事態とは会社全体で緊急に取り組むべき急迫の事態を指します。

□事態の通報と対策本部の設置
次に緊急事態が発生した場合の通報先や経路を明記し,情報の収集や伝達のルールを定めておきます。危機発生時には,社内関係者,関係行政機関,公共機関等との連携を図り,被害の軽減に努めることができるよう対応手順を明確にしておきます。
また,緊急事態を受けて設置する緊急対策本部の枠組みを明記し,適切な初動ができるよう規定化します(図表)。
第16回 危機管理規定(緊急事態対応)
□事態発生後の行動原則
第三に緊急事態発生時の対応の基本方針を定めます。
(1)自然災害・風水害等自然災害人命救助⇒官公署通報⇒災害対策推進強化
(2)事故
①火災や建物倒壊等の事故
人命救助⇒官公署通報⇒環境破壊防止⇒事故の再発防止応急対策の検討と実施では以下のような項目が考えられます。
a. 救助……危機発生時において,人的被害が発生した場合には,人命の救出および安全確保を最優先し,関係機関の協力を得て,被害者の救出・救助・安全確保に万全を尽くす。
b. 避難指示……危機発生により人的被害発生の恐れがある場合は,避難対象場所,避難先,避難ルートを定め,迅速に非難の指示を出す。この場合,避難先の安全確保や避難誘導に配慮し,関係機関の協力を求めるものとする。
c. 医療救護……危機事象により負傷または疾病にかかった社員および近隣住民に対しては,適切な医療救護活動を行うこととする。
d. 二次被害の防止……被害の拡大と二次被害の防止を図るため,緊急事態対策本部は,危険個所や危険建物の安全点検,立ち入り制限,広報その他必要な二次被害防止措置を講じるものとする。
②会社の営業活動や公益活動に関する重大事故
顧客や利害関係人の安全衛生確保⇒(官公署へ連絡)⇒事故の再発防止
③社員に関する重大人身事故
人命救助⇒官公署へ連絡⇒事故の再発防止
(3)インフルエンザ等のパンデミック関連
人命救助・感染予防措置⇒(官公署へ連絡)⇒予防と再発防止対策
(4)犯罪
①爆破や誘拐,脅迫等
人命救助⇒警察へ通報し,警察と協力(不当要求をのまない)⇒再発防止
②社内法令違反や立ち入り検査
事実確認⇒官公署への事実の申告⇒コンプライアンス委員会と連携⇒再発防止
③内部者の横領や背任
事実を調査し明確化⇒場合により官公署へ連絡⇒コンプライアンス委員会との連携(処分等)⇒再発防止

□広報体制の明確化
その他,特に重要なものとして,事故や自然災害発生時の情報公開という課題があります。事態の外部公表については,正確な情報を迅速に提供することを基本に,緊急対策本部で内容や方法を決定していきます。
社会に不安を与える可能性がある事故や災害が発生した場合は,正確な情報を迅速に提供することを基本とし,積極的に情報を開示するようにします。その際,社外への公表には,緊急対策本部で内容や方法を決定し,その任にあたることにします。こうした広報対応については以下の点を参考に規定化します。
①社内情報提供
危機発生時において,被害の拡大を防止し,社員や近隣住民の安全を確保するとともに混乱を回避するために迅速かつ的確な情報提供に努めるものとします
②報道機関への情報提供
報道発表および報道機関への情報提供については,緊急対策本部において,内容,発表時期,発表方法等を決定し,適切な広報に努めるものとします。

危機管理規定(緊急事態対応)

第○条(緊急事態への対応)外部からの危機による具体的重大リスクが発生し,会社を挙げた対応が必要である場合(以下緊急事態という)は,社長をリスク統括責任者とする緊急事態対応体制を取るものとする。社長が不在の場合,○○○を統括責任者とする。

第○条(緊急事態の範囲)この規定において「緊急事態」とは,次の各号に掲げる事件によって,この会社およびその事業所,または社員にもたらされた急迫の事態をいう。
(1)自然災害
地震,風水害などの災害
(2)事故 
①爆発,火災,建物倒壊などの重大な事故
②法人の営業活動,公益活動に起因する重大な事故
③社員に係る重大な人身事故
(3)インフルエンザ感染などパンデミックに関する事態
(4)犯罪
①放火,爆破,誘拐,恐喝,脅迫状など外部からの不法な攻撃
②当法人内での法令違反等の疑いや事実による官公庁の立ち入り検査
③法人内部者の横領や背任,窃盗などの不祥事
(5)信用の危機
不善な活動や不的確な情報提供によるイメージの低下
(6)外部からの危機
反社会的勢力等からの不当な攻撃
(7)その他上記に準ずる経営上の緊急事態

第○条(対応の原則)緊急事態が発生した時は,会社は,人命の救出と保護を最優先させて対応することとする。

第○条(対策本部の設置)緊急事態が発生した時は直ちに緊急対策本部を設置する。

第○条(対策本部設置の手続き)緊急対策本部は,総務部長の提言により社長が決定することにより設置する。

第○条(対策本部の業務)緊急対策本部の業務は,①情報の収集と分析,②対応策の検討・決定・実施,③関係機関との連絡,④報道機関への対応,⑤再発防止策の検討・決定・
実施,とする。

第○条(対策本部の組織と人事)緊急対策本部の組織は○○○とし,人事は○○○の通りとする。

第○条(対策本部員の責務)緊急対策本部の本部員の責務は次の通りとする。
①会社が置かれている状況を認識し,事態の危機の解決のために全力を尽くすこと。
②緊急対策本部の会議には最優先で出席し,本部長の指示命令に従い行動すること。
③本部での情報や資料は細心の注意をもって扱い,社外に漏らさないこと。

第○条(届出)緊急事態のうち,官庁への届け出が必要なものについては,正確かつ迅速に,所属官庁に届け出る。
2 官庁への届出はあらかじめ社長の承認を得たうえで,総務部長が行うものとする。

第○条(情報の公開)被害の拡大・再発を防止し,社員や近隣住民の安全を確保するために迅速かつ的確な情報提供を行う。

第○条(社員への指示命令)緊急対策本部は緊急事態を解決するために必要と判断した場合,社員に一定の指示命令ができ,社員は本部の指示命令に従って冷静に迅速に対応しなければならない。

第○条(報道機関への対応)緊急事態に関して報道機関から取材の申し入れがあった時は,解決に支障がない範囲で誠実に対応する。

第○条(報道対応の責任者)報道機関への取材対応は○○○の職務とし,○○○以外の社員は勝手に取材に応じてはならない。
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