「コーチング」とは、話し合いを通して、相手が望むゴールにたどり着けるよう支援するプロセスを意味する言葉である。コーチングと混同されやすいものに指示・指導するティーチングや、相手の問題を解決するために行われるカウンセリングが挙げられるが、それぞれ目的も手法も異なる。ビジネスにおいて、コーチングは主にマネジメントや人材育成に活用される。資格もあり、さまざまな場面で活用できる「コーチング」とはどのようなものなのか、その目的やメリット、手法を解説する。
コーチング

「コーチング」とは? 定義や目的、効果を解説

「コーチング」とは、相手の話を聞き、質問を重ねていく中で、相手に気づきや行動するきっかけを与えながら、目標達成の達成や問題の解決をサポートする手法のことである。ビジネスに限らず、スポーツや育児にも広く活用されている。

コーチングの歴史は古く、一説によれば1500年代には馬車を意味する「コーチ」という言葉に「大切な人を現在の場所からその人が望む場所まで送り届ける」という意味合いが生まれていたという。アメリカにおいては、1980年代からビジネスにも活用されていた。日本で導入されたのは1990年代後半と遅く、国内では比較的新しい手法である。

●「コーチング」の目的

前述の通り、「コーチング」はそれを受ける相手が望むゴールにたどり着けるように支援するものである。コーチングでは、相手の話を聞き、質問することで気づきを与え、相手を承認することで内にある可能性を引き出していく。

●「コーチング」の効果

近年「コーチング」が注目されている理由に、コーチングを受けることで自主的に判断し行動できる人材になれるという点が挙げられる。

またコーチングの手法を理解して実行することで、一方的な指導ではなく、何をしたいのか、そのために何をすればよいのかを共に考えられるようになるだろう。

●「コーチング」とティーチング、カウンセリングの違い

「コーチング」と似たものに、ティーチングとカウンセリングがある。しかしこれらとコーチングはイコールではなく、それぞれ手法と目的が異なるため、それぞれ理解しておきたい。

(1)「コーチング」とティーチングの違い
「コーチング」が傾聴から始まるのに対し、ティーチングは指導する相手に指示や助言を与えることを意味する。

情報を持っている側が、持っていない側に対してその情報を与えるのがティーチングだ。ティーチングでは、相手と「教師と生徒」のような関係になる。

ティーチングは、明確な指示をしたほうが伝わりやすいときに有効な手法だ。例えば入社したての社員に対して、基本的なビジネスマナーやパソコンの使い方などを教える際にはティーチングが求められる。

(2)「コーチング」とカウンセリングの違い
コーチングが「相手のかなえたい目標、たどり着きたいゴール」という未来に向かって何をすべきか問うのに対し、カウンセリングは「現在の問題を解決する」ために過去の出来事を掘り下げていくことを指す。

どちらも相手の話を聞き質問して答えを導き出すが、それぞれ向かう先が異なるのだ。

カウンセリングでは、傾聴と質問によって心理面でなんらかの問題を抱えている相手の心理的安寧を目指す。コーチングでは、目指しているビジョンがある相手の主体性と能力を引き出す。


そもそも「コーチング」には、どのようなメリットがある?

「コーチング」を実践することで得られるメリットと、コーチングを行う上での注意点について説明する。

●メリット

(1)自主性の育成
「コーチング」では、傾聴と質問を通して相手の中にある答えを引き出し、行動変容を促す。

何を目指しているのか、それを達成するために何をすべきなのか、優先していることは何か。相手の内面を質問で探り、見つけ、言語化しながら、相手の存在、気持ちを承認して勇気づけていく。

これを繰り返す中で、相手は自分で考え行動する力を身につけられる。

(2)気づけなかった問題を発見できる
目標を達成するために何が必要なのか、どのような行動をするべきなのかを質問によって導き出すことで、相手は自分だけでは気づけなかった問題を発見できるようになる。

問題が見つかれば、次にそれを解消するためにどのような行動をとればいいのかも自ずとわかるようになるだろう。

(3)行動に本質的な変化が生まれる
コーチングを受けることで、相手の行動は本質から変化する。コーチングには能動的な思考と行動、それに学習がともなうためだ。

相手は繰り返す対話の中で目標を明確にして問題点に気づく。そして問題点を解消するために自ら行動する。行動の結果がどうだったのかを検証し、また目標を達成するために必要な行動について考え、実行することになる。

コーチングでは「○○のために○○をすべき」というように、外側から行動を促すことはない。あくまでも「本人が気づき動く」ことを重視する。

●デメリット

「コーチング」を受けることでデメリットを感じるケースはほとんどないだろう。ただし、コーチングによってすべてが好転するとは限らない。

例えば経験不足によるコーチングでは、相手は質問の意図が分からなかったり、質問によって気づきを得られなかったりすることもある。

コーチングを受ける際には、実績が豊富で信頼できるコーチを探すといいだろう。回数を重ねる中で、信頼関係を築けたかどうかも重要なポイントになる。信頼できなければ、自分の本音を伝えられないからだ。

また、コーチングを受けた側がモチベーションを保ち能動的に動き続けられるかどうかは「受ける側による」ことは覚えておきたい。

「コーチング」におけるコーチやトレーナーの役割とは?

傾聴、質問、承認で目標達成を支援するコーチには、次のようなスキルが求められる。

●コーチの役割

「コーチング」において、コーチは相手に気づきを得るきっかけや、行動するきっかけを与える役割を果たす。あくまでも、相手が自発的に行動できるように支援するのがコーチの役割である。

コーチはサポート役であり、指導役ではない。よって、コーチとコーチングを受ける側は常に対等な立場にある。

●コーチに求められるスキルや素養

「コーチング」に必要なスキルは傾聴、質問、承認の3つだ。

傾聴とは、相手の話に耳を傾けてよく聞くことを指す。話の途中で否定せず、ひたすらに相手の話を聞く。コーチングでは、「あなたの話を聞いています」という態度を示すために、相槌を打ちながら聞くのが基本だ。

相手の話を一通り聞いたら、適宜質問を行う。目標を達成するために、どのような行動が必要だと思うのか、目標を妨げている問題は何か、質問を通して相手に気づきを与えるのがコーチングのやり方だ。

そして、相手そのものや相手の考えを承認する。達成した成果だけでなく、その過程にも焦点を当て努力を認めるなど、勇気づけるメッセージを送る。

これらを実行するために、コーチは「相手の話をくまなく、よく聞く」、「人を否定しない」、「信頼され、安心できる空気感を作る」といった素養を学習しながら、身につける必要がある。

●コーチのタイプ

人それぞれに価値観や考え方が異なり、すべての人に同じ手法を用いても思った効果が得られないことから、コーチングでは個別対応(テーラーメイド)が求められる。

個別対応を行うために、コーチングでは相手のコミュニケーションのタイプを次の4つのうちのどれに当てはまるのかを見極めて接することになる。

・コントローラー
人や物事を支配する。自分が思った通りに物事を進めたがる。野心的かつ能動的

・プロモーター
アイデアを尊重する。物事を仕切るのが好きで、変化に強い。順応性が高い

・サポーター
協調性を重んじる。穏やかな性格だが決断力に欠ける。目標を立てることに関心がない

・アナライザー
物事を始める前にデータ収集と分析を行う。粘り強く、最後までやり遂げる。変化に弱く失敗を恐れる傾向にある


コーチはこれらのタイプを見極め、それぞれに合った対応を必要がある。

コントローラーに対しては、結論から話し、質問をしすぎないように接する。プロモーターにはやり方を押し付けたり、否定的なアプローチをしたりしてはいけない。質問でアイデアを引き出すとモチベーションが高まる傾向にあるのがプロモーターの特徴だ。

サポーターが話している際には、発している言葉以外の情報に注視し、肯定的なメッセージを送ってから質問をするなどの注意が必要だ。アナライザーに対しては、質問は具体的にするよう努め、なるべく多くの情報を与えるといいだろう。

ただし、タイプ分けは「必ずこう接しなければならない」と決定するものではない。傾聴、質問、承認の3つの行動の中で、新たな視点を得るため、コミュニケーションの枠を広げるためにタイプ別の対応を用いるに過ぎない。

「コーチング」には資格がある

「コーチング」を実践したい場合、独学では不安があるのなら資格を取得するのも一つの方法だ。コーチングの資格はいずれも民間資格であり、いくつかの種類がある。

●コーチング資格とはどのようなもの?

「コーチング」にはパーソナルコーチング、ビジネスコーチング、エグゼクティブコーチング、メンタルコーチングなどさまざまな種類があり、それぞれに民間資格がある。

コーチングの資格は、プロのコーチとして活動できるスキルを得たり、生活や業務の中でコーチングを実践できるようにしたりするものである。

各資格で用意されたカリキュラムに基づきトレーニングを行うと、一定以上のスキルを有していることを証明してくれる。

●コーチング資格の種類と概要

・一般社団法人日本コーチ連盟

一般社団法人日本コーチ連盟の資格は、コーチ資格とインストラクター資格に大別できる。インストラクター資格を取得すると、コーチ技能を他者に教えられるようになる。一般社団法人日本コーチ連盟のコーチ資格は下記の3つがある。

(社)日本コーチ連盟認定 プロフェッショナル・コーチ
プロとしてコーチングを実施できることを証明する資格

(社)日本コーチ連盟認定 コーチ
実践できるコーチング技能を持つことを証明する資格

(社)日本コーチ連盟認定 コーチングファシリテーター
コーチとしての基礎的な知識と技能があることを証明する資格


・一般財団法人生涯学習開発財団
一般財団法人生涯学習開発財団には「認定コーチ」という資格がある。この資格は、「コーチング型マネジャー」のための資格だ。

コーチング型マネジャーは、コーチングの実施によって部下やチームメイトの主体性を引き出し、成長を促しながら目標達成に導くことができる。マネジャーとしてのスキルアップ・キャリアアップに活かせる資格だ。

・国際コーチ連盟(ICF)
米国に本部を置くICFは、世界で最も権威のある団体といわれている。ICFの公式認定支部であるICFジャパンでは、ACCアソシエート認定コーチ、PCCプロフェッショナル認定コーチ、MCCマスター認定コーチの3つの資格を取得できる。

独自のトレーニングに加えて、コーチングを実施した実績が必要になるため取得のハードルは高い。

●「コーチング」を実施するうえで押さえておきたいポイント

これら複数の資格があるコーチングだが、資格取得者でなければコーチングを実施できないというわけではない。資格を持たずとも、コーチングを実施するために必要な学習を行うことで、日ごろからコーチングを意識したコミュニケーションを図れるようになるだろう。

現場で実践できる「コーチング」のやり方を解説

実際に職場で「コーチング」を実施する際に必要な準備や実施方法について解説する。

▼準備

「コーチング」を始める前の準備として、なぜコーチングを行うのか、何を達成したいのかを明確にする必要がある。また、コーチングに最適な環境を構築することも大切だ。プライバシーを守れる、圧迫感のない個室を用意しよう。

▼懸念点の理解

次に、「コーチング」の実施後に想定される懸念点をあぶりだしておく。懸念点を事前に理解しておけば、実施前に懸念を解消できる。もし実施中に問題が起きたとしても、適切に対処できるだろう。

実施中に起こりうる問題は次の通り。

・コーチ側のコーチングスキルが未熟でゴールにたどり着けない
・上司や部下という立場でコーチングを行うと、対等な立場になれない、信頼関係をうまく構築できない
・コーチのフィードバックに落ち込み、継続できなくなる


コーチングを実施する前に、コーチ側は十分なスキルを身につける必要がある。また対等な立場で信頼関係を築けるよう、日ごろから指示や指導といった一方的なコミュニケーションに終始しないよう気を付けたい。

▼計画立案

コーチングを行う側と受ける側とでどのような計画にするのかを話し合い、その計画をもとにコーチングの実施間隔等のルールを決めておく。

▼実施

「コーチング」を実施する際には、フラットな関係性であることを理解しよう。傾聴、質問、承認の基本の3つのスキルを用いながら、適切と思われるコミュニケーションを取っていく。

▼フィードバック

「コーチング」の実施後は、単に相手の話を聞き、質問をするだけでなく、都度フィードバックも行っていく必要がある。

前回のコーチングを受けて実際にどのような行動を起こしたのか、何が起こったかを聞き、次に取る行動を促していくのがフィードバックだ。

フィードバックを行うことで、相手は自分の行動を振り返りながら変化を実感できるようになる。
「コーチング」は傾聴、質問、承認の3つの行動で相手に自発的な行動を促すコミュニケーションの手法である。コーチングはマネジメント業務や人材育成にも生かせるスキルといえる。コーチングを学ぶことで、対話する相手に新たな視点や行動の選択肢を与えられるようになる。マネジメント人材がコーチングを実施できれば、目標達成までの道程に必要な行動に各々が自発的に気づき、実際に行動できるチームを作れるようになるだろう。
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