「逆求人」とはどのようなものか? 今、注目を集めている背景や特徴とは
採用・就職活動が多様化している昨今、注目を浴びはじめた「逆求人」。そもそも「逆求人」とはどのようなことを指しているのだろうか。まずは、従来の求人とは何が違い、どうして注目されるようになったのか、また、現在行われている手法の特徴などを押さえよう。●「逆求人」とは
「逆求人」とは、学生や求職者が逆求人サイトなどに「自分の強み」や「経験」といったプロフィールを掲載し、それを見た企業側が学生や求職者に直接アプローチを行う、という新たな採用活動のスタイルを指す。特に新卒採用において、これまで一般的だった、企業が出した求人募集に対して学生が応募するという形式とは反対に、学生側が提示する情報に対して企業がアプローチし、求人条件にマッチする人材を探すことができる手法として活用されている。企業と学生、双方の利害が一致した新しい就活スタイルといえるだろう。特に、規模が大きくはないが積極採用に取り組んでいる企業側や、企業の知名度や規模にはこだわらず、自身が活躍できる場を就職先として探している学生側にメリットがある手段だ。
●「逆求人」が注目を集めるようになった背景
新卒採用において、求人サイトやホームページの採用欄で募集をかけるだけの「待ちの姿勢」でいる企業は、学生からの応募に苦戦しているのが現状だ。「逆求人」は、「どうしたら人が集まる企業になるか」という課題解決に近づくため、企業の人事担当者から注目が集まった要因のひとつといえるだろう。その他、学生側の就職先選びに対する意識の変化や、企業側の切迫した採用事情なども関わるため、細かく見ていく。
・学生側からのニーズの高まり
通年採用によって、学生の就職活動期間はこれまでより長くなっている傾向にある。必要なアクションも、会社説明会への出席、エントリーシートの作成・提出など、学生は卒業の準備と並行して行わなければいけないことが多い。そのような悩みの解決の糸口として、学生たちは「逆求人」に注目している。
「逆求人」の場合、企業ごとにフォーマットが決まったエントリーシートを作成する必要はなく、「自己PR文」を作って企業の目に触れる場(サイトなど)に掲載する。何度も書類を作っては発送したり、応募する企業の数だけ同じ文面を繰り返して打ちこまなければいけなかったり、といった手間が各段に少ない。
また、自分のスキルや知識、プロフィールに興味がある企業からアプローチがあるという特徴から、自分に興味を持ってもらえないかもしれないという不安は小さく、第一関門が通りやすいと感じる傾向もあるようだ。そして、自分が携わっている研究やこれまでの実績を評価される実感に結び付きやすいため、特に「理系学生」のニーズにマッチしているといえる。
・企業規模に関係なく採用につなげられる
現在、「売り手市場」とはいわれているが、そのような中でも大手企・有名企業には、比較的多くの応募がある。しかし、中小企業やベンチャー企業などへの応募は依然として減少傾向が続いている。「逆求人」によって、企業側には下記の利点を感じることができるだろう。
・採用担当者は、興味のある人材にダイレクトにコンタクトを取ることができる
・思考やスキル、経験とマッチするかどうかを重視して、就職先を探している意識の高い学生と出会える
・企業規模にこだわらず、専門知識を持っている人材と出会える確率が高い
・企業側が想定していなかったさまざまな人材と出会える
従来の採用では、学生側が企業概要や応募要項を事前に調べてエントリーする、といった流れだったため、企業側は基本的に「自社に興味のある人材を待つ」というスタンスに近い。つまり、応募してくる人材はある程度自社について調べている、限られた範囲の求職者だった。
しかし、「逆求人」では、自社に対してまだ興味や関心が薄い(知らない場合もある)人材に出会うこともできる。こういった、今まで出会う可能性がなかった求職者に対しても、積極的にコミュニケーションを取ることができるため、多様な人材獲得を実現できる。つまり、「ダイバーシティ採用」につながる採用手法ともいえる。
企業側からもしっかりと企業情報や欲しい人物像を学生や求職者に伝える機会があるため、採用後のミスマッチも防げる効果があるだろう。
●「逆求人」の特徴
・企業側からのアプローチによって、気づかなかった可能性や選択肢が広がる「逆求人」では、企業側が自社にフィットしそうな人材を探してオファーを送る。学生や求職者は、あくまで自分だけで考える「自身に向いていそうな企業」といった漠然としビジョンを頼りに就活を進めることなく、今まではターゲットにしていなかった業界や、知らなかった企業からのアプローチを受ける場合もある。このオファーによって、自身では気付かなかった可能性や、自分にマッチする意外な選択肢に出会える可能性が出てくるといえる。限られた時間や労力で就職・転職活動に臨まなければならない学生や求職者には、さまざまな業界や企業を知り、より自分に合った志望先や働き方を選択することができるだろう。
・どのような企業が自分に注目されているか、傾向を把握できる
「逆求人」には専門サイトがあり、中には、自分の情報が企業に何回閲覧されたかをデータで表示してくれるサービスもある。こうした、蓄積されたデータを参考にすることで、「自分はどのような企業から注目されているか」を把握することが可能になる。就活開始当初には選択肢に入れていなかった業界を調べないままにすることや、知らない企業に興味を示さないことは、自身の選択肢を狭めることになる。閲覧してくれた企業を確認することは、自身に興味をもつ、就職しやすい企業の傾向をつかむことにつながり、企業や業界研究にも役立つため、必要な作業といっていい。
・自己PRのブラッシュアップができる
就職活動では自身の強みややりたい業務内容をPRする力が大切だ。特に「逆求人」の場合、「自己PR」は重要な成功の鍵だといえる。一度作成した「自己PR文」などはそのままにせず、日々ブラッシュアップすることで、より深く自分自身を企業から知ってもらえるよう工夫を凝らす必要がある。
また、洗練された自己PRは、就職活動だけでなく就活以降もさまざまな場面で活用できるという利点もある。企業に自分の魅力を伝えるためにはどうしたらよいかを熟考することは、企業目線で思考する訓練にもなるため、就職後も「企業としてはどう考えるか」を重視できる人材となるだろう。
「逆求人」を実施すると、どのようなメリットがあるのだろうか
ここまで、学生・求職側の利点を多く紹介してきたが、「逆求人」には企業側が得られるメリットもある。●企業側が得られる「逆求人」のメリット
・採用確度の高い学生と接点を持てる「逆求人」では、企業が、求職者や学生一人ひとりのアピールポイントを確認した上で、それぞれにピンポイントで声を掛けることができるのが最大の利点だ。大きな母集団の中から自社のニーズにフィットする人材が現れるのを待つよりも、企業側から「これ」と思った人材にアプローチできる。
また、アプローチの際も、より踏み込んで自社がその対象者を必要としている理由をしっかりと求職者・学生側に伝える機会が得られるため、心に届くコミュニケーションを取ることが可能だ。採用条件に合致した人材に出会える確率は高まり、採用確度の高い人材を無駄なく採用できるチャンスが大いにある。
・自社を知らない学生にもPRできるチャンスになる
「逆求人」では、企業側からさまざまな学生に声を掛けることができるので、まだ自社を知らない人材やこれまで関心を持っていなかった層にも自社をPRできる絶好の機会だ。また、「逆求人イベント」といったものもあり、そこでは自社の求人にフィットしそうな学生と1対1で面談することもできる。採用面接一度きりでは垣間見ることができない学生を多面的に把握する機会にもなるだろう。
自社の採用条件に合致する人材に対して、近い距離でアプローチできたり、内面も見る機会が得られたりする点は、「逆求人」の大きなメリットだといえる。学生側としても、最初のうちはその企業に興味がなかったり知らなかったりといった場合でも、熱心で丁寧なアプローチを受ければ、就職先として志望する可能性は高くなる。
・時間や費用といったコストをカット
これまで行われてきた採用活動の場合、企業それぞれが「会社説明会」を開催したり、採用募集の広告を出稿したりしなければならなかった。時間も経費もかかり、そのコストは決して低いものではない。「逆求人」の場合、前述の「逆求人サイト」の利用や、「逆求人イベント」、「逆求人フェスティバル」への参加で採用活動を行えるため、コストを抑えることができる。また、業種別のイベントに参加すれば、自社に合った働く意欲の高い学生にピンポイントで出会える確率も高まるだろう。
ただし、コロナ禍によってリアルイベントの開催はかなり減少しており、新しい生活様式に適した方針も考慮しなければならない。「コロナ禍だから」と諦めず、オンラインでの実施など、学生との接点を減らさず、低コストで最大限の効果を得るにはどうしたらよいか、企業内で対策を立てる必要がある。
●学生や求職者側が得るメリット
・今までチェックしていなかった企業を知ることができる「逆求人」を活用することで、意外な企業からオファーが来る可能性があり、自分が知らなかった企業と交流することができる。また、オファーが来たということは、その企業が、自分の経験やスキル、ポテンシャルに関心を寄せているということだ。こういった企業を就職先に選ぶことは、「入社後のミスマッチ」の予防になり、学んだことや得意分野を活用できる可能性が高い。
・自力では限界がある選択肢を増やせる
自力だけで知ることができる企業の数には限界がある。特に、社会経験のない学生が、自分に本当に適した企業を見つけ出すのはとても難しいことだ。客観的な視点が持てず、「自分に向いているのはこの業界(企業)だ」という思い込みで就活を続けている学生も少なくないだろう。志望先を絞り、一直線に頑張ることは一概に悪いことではないが、まずは志望する業界や企業を絞らずに、視野を広くしていろいろな企業を見ることも大切だ。逆求人を利用することは、そのための最適な手段である。
・自己発見や自己成長の機会を創出できる
「逆求人」では、従来の就職・転職活動よりも求職者側の積極的な自己アピールが求められる。そのため、否応なく「自発性」が育つ環境に身を置くことになる。例えば、企業からたくさんのアプローチを受けるには、自己アピールがどれだけできるかが鍵となる。企業の目に留まるような「プロフィール」や「自己PR」を自発的に発信しなければならない。プロフィールは自分の価値を表現する場だ。企業が判断材料に使用するプロフィールを魅力的なものにするには、「過去の経験の棚卸し」ができていなければならない。企業からのオファーを内定につなげるには、「深く分析した上での自己アピール」が必要なのである。この「プロフィールを作り」の過程で行った「自己分析」によって、自分自身の強みや弱み、価値観、アピールポイントを知ることができ、就活後の社会人生活にも役立てられる。
・事前に社会経験を積める
「逆求人サイト」を利用する場合は、有給の長期インターンシップや就活イベントのオファーが届くことがある。実際に社会経験を積むことで自己成長を促す機会にもなるので、将来のキャリア形成のために早くから準備したい学生には、良い手段となるだろう。インターンシップやイベントへの参加によって、社会の実際を体験し、これまで見ていなかった自分の強みや弱み、仕事をすることの厳しさ・楽しさ、やりがいを見出したりもできる。本格的に就活がスタートする前に、こういった自己発見や自己成長の機会を持てるのは貴重な機会といえる。
「逆求人」にひそむデメリット
「逆求人」には、一歩間違えればかえって手間とコストがかかる危険性もあるため注意が必要だ。●企業側のデメリット
・本当に自社に合う人材に出会えるかは不透明「逆求人」ではさまざまな人材と出会えるため「ダイバーシティ採用」を進める上でも役立つが、当然、出会った人材が必ずしも自社に合う人材とは限らない。離職を招く「採用後のミスマッチ」を防ぐためにも、採用担当者は、学生や求職者が発信する「自己PR」をしっかり見極め、慎重に採用活動を進める必要がある。
採用活動のきっかけとして「逆求人」は有用である。ただ、手間や経費といったコストを低減できるとはいっても、採用までのステップはこれまで通りにきちんと注意を払わなければならない。アプローチのための声がけや面談だけでなく、その後の、採用面接をきちんと行い、対象者が本当に自社にマッチする人材かどうか、判断が必要となる。
・手間とコストがかかる場合も
従来型の採用活動と比べて手間やコストがかからないとはいっても、「逆求人イベント」や「逆求人サイト」で情報発信をするためには、事前の準備が必要だ。また、逆求人の場で、自社に合う学生を選びアプローチした後は、自社に関する企業説明をしなければならない。つまり、まったく手間がかからないわけでなないのだ。
せっかく自社の採用条件を満たす優秀な人材に出会っても、自社の魅力が十分に伝わらなければ自社を志望してもらえないため、余計に手間やコストもかかることを念頭に置いておくべきである。
●学生側にデメリットとなること
・自己アピールに苦手意識を持つと、アプローチが少ない場合も自己アピールに苦手意識を持っていると、表現が控えめになったり、自分の魅力を十分に伝えらなかったりして、結果的に企業からのオファーも少なくなってしまう傾向がある。自己アピールにまず必要なことは、自分が学生生活で経験したことや身につけた知識・スキルは何であるかをきちんと「自己の棚卸し」をして、しっかりと自己分析することだ。文章で上手に伝えられない場合も、伝えるべきことがきちんと整理できていたり、熱量を高く伝えたりすることができれば、採用担当者の印象に残るだろう。
「逆求人」は、情報を出す求職者、学生側にとっても、従来の就職活動より手間や時間が少なくて済む。だからこそ、集中した熟考が重要だ。また、突出することを嫌いがちな日本人には「アピール」すること自体に苦手意識を持っている人も多い。就職活動を、自分と向き合う分析の場であるととらえ、しっかりと自分が積んできた経験・実績を整理できれば、自信を持てるようにもなる。そうすれば苦手意識も克服できるだろう。
・自分の目指すものとは合わないオファーが来る場合もある
必ずしも「アプローチしてきた企業=自分に合う企業」ではないので注意が必要だ。また、自分のやりたいことができる企業ではない場合もあるため、オファーを受けたからといって安易に飛びつくのではなく、自分なりにきちんと企業分析を行うことが重要だ。これまで興味のなかった業界からのアプローチであれば、企業だけでなく業界研究も必要になる。
自分のプロフィールに魅力を感じてくれたことは嬉しく、密なコミュニケーションを取ると、その企業への関心が高まることもある。しかし、そこは冷静に、自分の思考やスキル、価値観と照らし合わせて、本当にマッチするオファーかどうかを自律的に見極めることが大切だ。
「逆求人」を成功させるための2つの方法(手法)
実際に「逆求人」を実施するうえでの方法(手法)は、大きく分けて下記の2つがある。・「逆求人型就活サイト」を利用する
「スカウト型就活サイト」や「スカウト系就活サイト」とも呼ばれている手段で、「逆求人型就活サイト」を利用する場合、まず、サイト上に求職者が掲載した「自己PR文」を確認にする。企業側はサイトのデータベースから、欲しいと思う人材のスキルや経験などから検索し、マッチした相手へ、ダイレクトに選考オファーをかけるという仕組みになっている。これにより、企業へアピールしたいと考える意欲の高い学生を集めることができ、質の高い求職者に直接アプローチできることになる。・「逆求人型就活イベント」に参加する
「逆求人型就活イベント」は、学生側がブースを構えたり、学生側から参加企業に対して自己PRを行ったりするスタイルの就活イベントである。これまで行われてきた企業主催の「合同説明会」のように参加企業側のブースに学生が訪問するのとは逆の流れで実施される。イベントの中で、採用担当者と学生が、1対1や少人数で接点を持ち、ダイレクトにコミュニケーションをとることで選考につなげていく。これまでの一般的な就活イベントのように、不特定多数に均質な情報を与えようとするのではなく、企業と学生がお互いに知りたい情報を、直接やりとりできる貴重な場となっている。
「逆求人」を実施する企業と学生側が心得ておくべきポイント
当然のことながら、採用活動・就職活動は、企業と求職者、それぞれがあって成立するものだ。相手の立場を理解して活動しなければうまくいかない。ここでは、「逆求人」を実施するうえで、企業・求職者がお互いに注意すべきポイントを紹介しよう。●企業側がとるべき準備
・「逆求人イベント」では親近感を意識する「逆求人」はお互いを理解し合う場であるととらえ、学生と腹を割って話せるような雰囲気作りも大切である。「親近感」、「カジュアルさ」、そして「笑顔で接すること」といった対応を心掛けよう。
ひと昔前に「圧迫面接」などという言葉もあったが、企業の担当者が硬い態度でいては学生が萎縮してしまう。せっかくの機会に相手を萎縮させてしまっては、本当に知りたい内面や長所、人となりや個性などを正しく把握することは不可能だ。採用する側の態度や口調については、昨今ではハラスメントと取られかねない危険性もあるため、態度には注意が必要である。
・気になる人材には積極的に事前連絡をいれておく
気になる人材を見つけられた場合は、事前に連絡を取っておくことで、自社のことを意識させられる場合もある。逆求人イベントの当日、行き当たりばったりで学生に接するよりも、前もってどのようなプロフィールの人材が集まるのか、ある程度目星を付けておくことも重要だ。もし学生に事前連絡をしておけば当日スムーズに話を進められるし、限りある時間を有効に使って、より深い情報を引き出せる可能性も高まる。
●学生側に必要な準備
・人柄が伝わる写真を用意する企業がオファーを出す際、自己PRやプロフィールと同じように写真も大きな判断基準になる。「逆求人」では、従来の就職活動と同じような履歴書やエントリーシートに使う硬い写真を用いる必要はないが、従来と同様、清潔感や人柄、雰囲気がきちんと伝わる写真である必要はある。特に、下記のようなものはNGなので注意が必要だ。
・清潔感がない(服装や髪型)
・表情が暗い、元気がなさそうな印象
・他人も写っている(集合写真などの流用)
・顔が判別できないほど小さい
撮影した写真は、自分が納得することはもちろん、他の人にも見せてみて自分らしさが伝わる写真かどうか判断してもらうこともおすすめだ。
・自己PR文(アピール文)
「自己PR(アピール文)」は、自社の採用条件を満たしている人材かどうかを採用担当者が見極めるうえで、最も注目するものといっても過言ではない。「逆求人サイト」に掲載するためだけでなく、イベントなどで実際に企業の採用担当者と会ったときにも役立つため、自分の経験や経歴、強み、知識やスキルなどを簡潔にまとめた「自己PR分(アピール文)」を用意しておく必要がある。
これを作成する作業によって、自分の頭の中を整理したり、自己分析したりでき、実際に企業側と対話する際にも自分の言葉でスムーズに話すことができ、良い印象を与えられる可能性が高まる。反対に、ここで魅力的なアピールができなければ、オファーが届く確率は大きく下がってしまう。
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