多くの企業は「儲かる」から「つぶれない」に経営テーマがシフトしている――。「フリーランスの経理・管理部長」、「IC(独立請負人)」 として、多様な企業の経営を見ている前田康二郎氏は、いち早くこの変化を察知。コロナ禍真っ只中の2020年6月に『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』を上梓した。この本で語られるWith/Afterコロナを見据えた経営経理戦略をベースに、書き切れなかった組織戦略の話しを加えたのが、新連載「つぶれない会社のリアルな組織戦略」である。現場のリアルな状況を鋭く切り取った本コラムは、未曾有の不況にも負けない組織作りのヒントになるはずだ。(HRプロ編集部)
コロナ禍で求められるのは「儲かる」組織から「つぶれない」組織へのトランスフォーム
先日、『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』という本を出版しました。外出自粛期間中に執筆しましたが、今後しばらくは、「儲かる」という視点ではなく「つぶれない」という視点が会社にとって重要になるのではないかと思っています。もう一つ重要なのが、会社のみならず、各会社員が「自衛」をしなければいけない時代に入った点です。

これまでは「会社の言うことを聞いていれば、いざと言う時は会社がなんとかしてくれる」という考えが主流だったかもしれません。しかし、これからは社員を守り切れるほどの体力がある会社が減っていくように思います。

「会社が守ってくれるだろう」から「会社がつぶれるかもしれない」へマインドを変える

私たちは既に麻痺してしまっていますが、これまでは、「会社の売上が数パーセント下がる」というだけでも大きなインパクトのある話でした。ただ、今回の外出自粛期間で「売上9割減」という話を聞くと、その後の「売上2割減、3割減」は、それほどのインパクトでもないように感じてしまいます。これが数字のマジックであり、とても怖いのです。

仮に3月決算の会社が今期、前期よりも売上が3割落ちたとしたら、その翌期、つまり来年の4月からは、人件費も同様に減らすイメージを経営陣は持つはずです。そして、その減らし方の主な方法は二つあります。

・全従業員の給与を3割減らす
・3割の社員を人員整理する


私は、今年の年内においてはまだ一般会社員の「危機感」というのは、そこまで強まらないと思っています。多くの人は、身近な存在、たとえば家族や友人が「給与を減額された」、「リストラされた」という段階で初めて自分ごととして捉え、そこで危機感を覚えます。今年度は、内部留保を一部取り崩すなどして、社員の待遇も維持する会社が多いでしょう。しかし来期は様相が一変し、資金繰り的にも待遇を維持するのが難しくなる会社はかなり増えると予想しています。

上記のような給与や人員の削減プランを挙げ、来年4月から実施、という会社が増えた段階で、一般会社員の方達もかなり危機感が強まるはずです。そこに住民税の通知書が来て、さらに個々人の危機感が高まるのではないかと予想しています。住民税は前年度の収入が基準になります。もし通知書が届いた時点で、給与が前年より減額されていたら、手取り金額はかなり減りますから節約志向も非常に高まります。そこでいよいよ「自分ごと」として皆さんが捉えるのではないでしょうか。

しかし、実際にはその時点で危機感を持つのはタイミングとしてかなり遅いです。今日からの1年間を、「会社が守ってくれるだろう」と、安穏と過ごすよりも、「いつ自分の会社がつぶれるかもしれない」、「いつリストラや給与減になるようなアクシデントが起きるかもしれない」と危機感を持ち、会社に対しても現状を乗り越える提案を自ら出していく。そのほうが賢明であり、会社や自分が生き残っていく戦略であると個人的には思います。

会社員が会社を守り、全員がアイデアを出し合える組織へ

さて、このコロナ禍で在宅勤務をしていた人の中で、仕事もきちんとこなし、自己啓発もおろそかにしていなかった人達というのは、全体の何割くらいいるのでしょうか。

知り合いの出版関係の方に話を伺ったところ、2月、3月は書籍の売上全体が巣ごもり消費でものすごく伸びたそうですが、4月、5月に特に売れたのは漫画とゲームの攻略本などのようでした。

これが何を表しているか。多くの方は「自宅での時間を有意義に活用しよう」と、普段読めなかった分厚いビジネス書などを気合十分で買って在宅ライフを送り始めたものの、だんだんとテレビやネット、漫画やゲームの誘惑に負け、自由過ぎる環境に流され、会社から指示された仕事をやった後は、なんとなく過ごしてしまった。そんな方が多かったということではないかと想像が付きます。

私自身も10年近く前、会社員からフリーランスに転身したのですが、当初は「これだけの時間働いていたら、フリーランスになったら、ものすごく稼げる」と思っていました。ところが、いざ自由の身になると、自由な生活に慣れてしまい、会社員時代のような量の仕事をやろうという発想を持つこと自体が難しくなっていきました。ただ、私の場合は、「会社員時代の収入の6割くらいになってもいいから、週3日稼働にして、あとの4日は、新しい情報を得るインプットの時間に充てたい」という発想で独立をしたので、それでもよかったのです。

しかし、現状の在宅勤務をしている会社員の方達は、在宅でも給与は変わっていないはずです。私のような形ではなく、会社に出社していた時と同じ量の仕事をこなすか、あるいは、仕事が減った分、給与額を調整するか。そうしなければ、今の状態の組織では売上が減る会社が多いですから、いずれ資金が足りずに会社そのものの存続ができなくなってくるはずです。

コロナ禍で会社と社員の関係はどう変わるか。私は、「会社員が会社を守る時代に入る」のではないかとみています。今までは、経営者は「社員は自分の仕事だけをしてくれていれば、会社の数字なんて知らなくてもいいし、むしろ余計な口出しをしてもらっても困る」という思考の人も実際に多かったでしょう。一方、社員も「会社のことは経営者がなんとかするものだから、自分は自分の仕事だけやっていればいい」という考えの人も多かったと思います。

でも、この発想では、数年後にはその会社はなくなっている可能性が高いと私は考えています。経済的観点から見て新型コロナウイルスの影響が怖いのは「売上を上げさせない要素を多分に含んでいる」というリスクがあるところです。これが今までのどのリスクよりも限りなく脅威なのです。これまでの危機と違い、経営者一人が孤独に考えたところでどうにもならないレベルだと言えます。その会社に所属する「全員」が、「どうしたらこの状況を耐えしのぐことができるか」をそれぞれ考える。そして、全社員がアイデアを出し合える「組織」に、今後1年以内にはシフトしていかなければいけないと思います。

これからの1年間、本連載では、どのようにすればそのような忍耐力のある、新型コロナウイルスに負けない強い組織にできるかということをお伝えしていきます。
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