ベストセラー『7つの習慣(R)』を世に送り出し、戦略を組織で実行するためのメソッド『実行の4つの規律』を提供するフランクリン・コヴィー・ジャパン社の竹村富士徳氏と、Google Japanで人材開発に携わり、現在は未来創造企業のプロノイア・グループなどの代表を務めるピョートル・フェリクス・グジバチ氏の対談を実施した。
現状維持では通用しないと知りながら、イノベーションを起こせない日本企業
竹村 富士徳 氏(以下 竹村) ピョートルさんはGoogle Japanで人材開発に携わっていらっしゃいましたね。その後独立し、プロノイア・グループを設立された。ピョートル・フェリクス・グジバチ 氏(以下 ピョートル) はい。「未来創造」をコンセプトとして、組織開発・経営戦略・人事をはじめとする組織改革のコンサルティングを行っています。プロジェクトは新しいことばかりなので、行動指針としては「遊ぶように働く(Play work)」「Implement first(前例をつくる)」「Offer Unexpected(予期せぬことを提供する)」を、メンバーには強く伝えています。
竹村 プロノイア・グループでも、目標管理指標はやはりGoogleと同様に「OKR(Objective Key Results)」を取り入れていらっしゃるのでしょうか。
ピョートル そうですね。ルーフショット、ムーンショット、そしてジュピターショットを設定しています。指標には「社会的インパクト」「成長」「レベニュー(収益)」の3つがあるのですが、ルーフショットには、レベニューが直結します。ムーンショットは、間接的にレベニューにつながります。ジュピターショットはムーンショットよりも大胆なゴール設定であり、圧倒的なインパクトと成長を求める代わりに、レベニューは関係ないという考え方です。「ルーフショット7:ムーンショット2:ジュピターショット1」の割合で、OKRを作っています。
経営者とのディスカッションで、まずマーケットの過去・現在・未来予測を踏まえたうえで事業の将来性を尋ねると、どの業界であっても「従来と同じことをしていては、いずれマーケットに合わなくなり、破綻するだろう」という答えが返ってきます。つまり危機感はあるのです。しかしその危機感はリーダーだけが持っていても、会社全体に浸透させていくのは難しい。現場にも危機感を醸成していくことが、社内の行動や文化を変えていくためには必要ですね。
ピョートル 文化は非常に大事ですね。日本の企業には、現場のスタッフに根づいている明確な社風というものはあまりみられないように思います。尋ねても説明できない企業が多い。
ドラッカーの言葉に「企業文化は戦略に勝る(culture eats strategy for breakfast)」というものがあります。しっかりした企業文化があれば、戦略は後付けになるということです。順序が逆に思えるかもしれませんが、まず行動パターンを創り、浸透させるというのが第一。社員のモチベーションが高く、チームの生産性が高ければ、戦略は学びながら調整していくことができます。
竹村 行動パターンを文化へと昇華させるということですね。その下支えにより、精度高く戦略を実現することができるようになる。
ピョートル そうです。そして、それをどう作っていくかが大事。日本企業は、「型」にはまりがちなところがあると感じています。これは僕のあまり好きではないキーワードですが、「働き方改革」などで、制度を丸ごと導入することが多くないでしょうか。しかし、目的を差し置いて「型」を取り入れても、何も変わりません。まずは「何を実現したいのか」「最も重要なことは何か」「自社に合ったやり方とは」を、じっくり議論する必要があります。到達したい最重要目標を決めて、プロセスや手段は、そこから逆算して導き出せばいいと思います。
ピョートル そうです。そのためには、社員がある程度の自由と裁量を持つべきです。『7つの習慣』でいうと、「Be Proactive」。ただし、自由と裁量は、小さすぎると仕事がつまらないし、大きすぎるとどうすればいいか分からないですよね。社員の今の状態に合わせて適切な領域を設定することが、リーダーには求められます。組織の在り方と個人の在り方を、調整・編集しながらつなげていく必要があるというのが、今の時代のリーダーの大きなチャレンジだと思います。
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