※イノベーティブ人材をいかに社内から選び出し育成するか:前編(第2回)
そのやることとは「やる気を引き出し、自ら学ぶサイクルを維持し続ける」こと。育成というと誰かが何かをして育てるように思えるが、最後は本人次第。自ら学んで吸収していかないと、いくらインプットしたところで身につかないのだ。結局、企業の人材育成担当がやれることは、きっかけ作りなどのサポートに過ぎない。あくまでも自己研鑽がベースなのである。
「イノベーティブエンジン」の活性化
子どもの指導がまさにそうだが、多くの人は「勉強しろ」と言われてもやる気にならない。何かのきっかけで学ぶことの面白さに気づいて、やる気に火がつくのだ。それには、一つ得意科目をつくることが近道といえる。前回も触れたが先天的であれ後天的であれ、豊富な「知識量」を備え、イノベーティブ思考が優位な「イノベーティブエンジン」が活性化している人は存在する。それを見出す方法については触れたが、見出された人材がDXにおいて活躍できることとはイコールではない。せっかくの能力もやる気がなければ発揮できないのだ。
イノベーティブエンジンが活性化している状態とは、自身の中にある膨大な知識から、「応用可能な要素を最速で引き出し編集出力できる状態」だと考えている。そして、エンジンが活性化するには条件がある。対象が、その人にとって興味のあること、好きなことか否かだ。だからこそ、好きなことを仕事にすべきなのである、言われてみれば当たり前のことだが、意外に見過ごしている人は多い。
いわゆるオタクと呼ばれる人は、典型的な例といえる。アイドルでもアニメでも、スポーツでも好きなことはとことん調べて覚えているし、時には専門家も舌を巻くような成功のアイディアを見出す。
もちろん知識的な詳しさと、何かに革新的なアイディアが出るというのは、別問題であるとしても、誰でも得意分野では、驚くほど力を発揮できるのは間違いないだろう。だからイノベーティブ人材の第一歩は、適性や向き不向きの前に、得意な分野を一つ身につけ自信をつけることである。
当然ながら、今回はビジネス面における話なので、必ずしも好きなことを仕事にしているわけではない。ゆえに、イノベーティブ人材の育成は難しい。まずは、仕事の上での「楽しみ」や「興味」を引き出すきっかけを作ることから始めるのがよいだろう。
例えば、「自動運転」であれば、車やAI についてなど、必要なカテゴリの知識量を増やすだけでなく、実車で構造を確認したり、運転したりする。知識と経験が掛け合わさり立体的な記憶として残る。実体験に基づいたことが、興味をかきたて、イノベーションエンジンが活性化するのだ。
イノベーショナブルレベルを高める方法
ここからは、イノベーティブ人材となるため、どうやって自ら学んで行くべきかについて触れていく。イノベーティブ人材には、「イノベーショナブルレベル」というスキルイメージがある。(連載第1回「イノベーションを起こす組織にはどんな人材が必要か?」参照)では、イノベーショナブルレベルを上げるにはどうするか。実はシンプルで「広い視界(見えている範囲)を持てるようにする」のが基本だ。視界を広げるためには、横方向である「視野」を広げること、縦方向には「視点」を高い位置に取ることのいずれか、あるいは両方が必要である(下図参照)。どんなに仕事ができても、視野が狭く、視点が低ければ、全体把握や十分な分析やソリューション開発はできない。
成長のための具体的な行動
視野を広げ、多くのことに興味を持ち、イノベーティブ人材として成長するために、具体的に何をすればよいのか。数多くある中から、以下の3つに絞り込んで提言したい。(1)注意深く見る、聴く
1つのことに集中していると、きちんと見えていないことがある。それを避けるためには、「注視するだけではなく周辺も見る」、「理由を考えながら見る」、「見えない事情や背景を考えながら見る」など、さまざまな情報をスルーしてしまわないことである。これを習慣化すれば、ぼんやり見ている時と違っていろいろなことに気づくことができるようになる。
(2)知識を増やすことを習慣にする
最近のビジネスマンは、残念ながら本を読む人が減っている。さらに、インターネットの普及に伴う「情報格差」の拡大も続いている。したがって積極的にアンテナを高くし、自ら情報を獲得し、知識としてストックすることを習慣化する必要がある。視界が広いほど得られる情報は多い。そして、その情報は必ずしもビジネスの中だけで得られるものとは限らず、映画だったり音楽だったり、まったく関係ないことから得た知識でも応用できることを忘れてはならない。
(3)理由を考える
発明においては当たり前の話なのだが、何に対しても「なぜなのだろう」疑問を持ち、理由や原因を考えて、さらに深掘りすることで想像力が養われる。すぐに答えを聞いてしまうと、思考は訓練されない。
このように、日常から「知識を増やす」こと、「視界を広げる」ことを習慣づけるのが、イノベーションの源泉となる。そして、思いついたことはどんどんアウトプットしていく。特に会話でのアウトプットは、アイディアを的確に伝えるためのコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルの向上にもつながる。
育成側の行うべきサポート
さて、メンバー自身がイノベーティブスキルの向上のためにやるべきことが明確になったら、上長や組織の育成担当者は、どんなサポートをすればいいか? まさに「知的好奇心を刺激する環境」を用意し「情報や知識量を増やす」ことをサポートすることである。具体的なアクションとして次の3つ紹介する。(1)環境づくり
読む、書く、話すことで、能力は向上する。DXであれば、ネットや書籍の情報を整理し、上司や他のメンバーにレポートを共有・発信する立場に置くことが重要である。そしてさらに知識と経験を圧倒的に強化するために、実務の現場に派遣するか、ハンズオン研修を受けるなど、可能な限り実体験させる機会を数多く用意することで、より高いレベルでの発言が可能となる。
(2)自信とやる気の醸成
次にすべきはイノベーティブ人材を目指すことに対し、本人が納得できる合理的な理由を持たせること、合わせて自分ならできるに違いないという確信とも言える自信を持たせること。本来、やる気やモチベーションは、セルフコントロールすべきものであり、会社や上司同僚など他者に左右されるようでは、DX推進を任せることはできない。この点をきちんとインストールしつつ、「DXに対しての知的好奇心を維持する」のはサポート側の責務であろう。
(3)継続と定着の仕組みつくり
DX推進のような、新たな取り組みが大抵失敗するのは、結果が出る前に周りの理解や関心が低いことでフェードアウトするからだ。また、現場は日々の業務に追われていて、現業の屋台骨を支えている。得体の知れないプロジェクトやイベントは迷惑なもので、それは必ずしもトップのメッセージで変わるものではない。イノベーティブ人材の育成は組織のマインドセットと両輪で進めなければいけない。
また、現業との融合を進めるために、推進者を選抜したとしても、距離を置いてはいけない、関連のDXに関する情報を共有し、アイディアを継続的に募集するなどの巻き込みは必須であろう。
以上が、イノベーティブ人材育成のサポートとして、最低限取り組むべき項目である。これらを繰り返しPDCA的なサイクルで回し続けることで、DXを推進するための「今までにない切り口で思考し、そして閃くことができる人材」が育つと考えるのである。
- 1