東京女子大学の設立は1918年。今から100年以上も昔、北米のプロテスタント諸教派の援助のもと設立された。新渡戸稲造が初代学長、安井てつが第2代学長を務め、2人が培ったキリスト教精神は今もキャンパスに息づいている。
例えば、キャンパスの正門に入るとすぐ右手にはチャペル(礼拝堂)が見える。ステンドグラスで彩られたこのチャペルは、その美しさから様々なメディアで取り上げられている。実際にキャンパスを訪れた人は、整然とした美しさに感銘を受けることだろう。
今回は西荻窪にあるキャンパスを訪ね、キャリア・センター長 二村真理子氏、キャリア・センター課長 森田光則氏にお話を伺った。
ゲスト
二村 真理子 氏
東京女子大学
東京女子大学文理学部社会学科卒業ののち一橋大学大学院商学研究科に進む。博士(商学)。2009年東京女子大学経済学専攻准教授に着任、2016年より教授。担当科目は環境経済学、都市・地域経済学、ロジスティクス論など。2017年よりキャリア・センター長。
現代教養学部教授
キャリア・センター長
森田 光則 氏
東京女子大学
1988年東京女子大学に就職。学生部や教務部で学生対応に長く携わる。2017年にキャリア・センターに配属。2019年から現職。キャリアコンサルタント(国家資格)。日本キャリア開発協会認定CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)。
キャリア・センター 課長
リベラル・アーツを軸にした女子高等教育
森田東京女子大学は1918年に創立され、2018年に100周年を迎えました。初代学長は新渡戸稲造です。現在の5,000円札に描かれているのは樋口一葉ですが、それ以前は新渡戸の肖像が使用されていたので、顔と名前をご存知の方も多いでしょう。新渡戸が著した『武士道(Bushido: The Soul of Japan)』は世界的ベストセラーになり、セオドア・ルーズベルト大統領、ジョン・F・ケネディ大統領が愛読したことでも知られています。
戦前の高等女学校は良妻賢母教育をもとにしてきた、という歴史があるようですが、本学は創立当初から良き家庭人を育てる発想ではなく、現在につながる大学の高等教育を一貫して担ってきました。女性を一個の人格を持つ存在と捉え、その自立を支えるのが本学の意義です。創立から100年以上が経ちましたが、その意義は今も色あせることなく、本学の特色として存在し、他女子大学とは異なる本学の強みと感じています。
現代社会では男女同権は当たり前とされています。しかし、実際のところ依然として男女の格差は存在します。政府は女性活躍を重要施策としていますが、推進していること自体が格差の存在を表していると言えるのではないでしょうか。
このような社会を変えていくには男女の対話と協力が必要であり、女性には自己確立が求められます。本学では、リベラル・アーツを軸にする女子の高等教育を100年に渡って進めてきました。これからの時代では、今まで以上に本学卒業生が社会で活躍してくれるのではないかと期待しています。
多彩な卒業生の活躍
二村東京女子大学設立の経緯をもう少し付け加えさせてください。設立のきっかけは1910年にエジンバラで開かれたプロテスタント教派の代表者が参加したエジンバラ会議でのことでした。アジアの女子教育が立ち後れていることが問題視され、中国やインドを含むアジアに7つの女子大学が設立されることになったのです。そのひとつとして日本に作られたのが東京女子大学でした。
このような経緯もあり、本学の教育プログラムは、キリスト教精神に基づき、かつ「女子がきちんと生きていけるように」という意識のもと作られています。教育プログラムの成果は卒業生の活躍にもよく表れています。
文化・芸術の分野では、作家の有吉佐和子さん、デザイナーの森英恵さん、シェイクスピアの翻訳で知られる松岡和子さん、作家の高樹のぶ子さんや中野京子さん、俳人の黒田杏子さん、エッセイストの平松洋子さんなどがあげられます。俳優の竹下景子さん、多部未華子さんも卒業生です。片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんもそうですね。
彼女らは本学卒業生の中でも特に目立った活躍をされている卒業生と言えます。ただ、最近しばしば企業で着実に経験を重ね、責任のある地位についている卒業生の方々にお目にかかります。いろいろな形がありますが、しっかりと社会の一員として活躍している卒業生が多いことは確かです。ここは女子大ですから女性がリーダーとなって物事を進めていく必要がありますし、そこで得た力をもとにそれぞれに才能を開花させているのではないかと思います。
1年次からゼミに所属。ゼミ教員がアドバイザーとして4年間の学生生活をサポート
二村少人数での討論や研究発表など演習形式の授業が多いことが本学の特徴です。学生には教員や他の学生との密なコミュニケーションを通じて、個性や主体性を伸ばしてもらいたいのです。
一年次からゼミに所属してもらうことも特徴の一つです。個人で報告をしたり、またグループでディスカッションをする機会が多いので、自分で考える訓練になっていると思っています。さらに、ゼミの専任教員がアドバイザーとして学生一人ひとりの担当となり、日常的な助言や指導を通じて大学生活が有意義で充実したものとなるよう支援します。本学ではこれを「アドバイザー制度」と呼んでいます。相談内容は様々ですが、資格を取りたい、留学したいなど、多くがプライベートな内容です。学年ごとにゼミが変わるためアドバイザーも違う教員になりますが、1年生から4年生まで継続して学生を支援します。
就職先の変化。金融業界への就職率が2年間で約半分に
森田就職先は、2019年3月卒の進路では情報通信業が20.3%、続いてサービス業が18.9%、金融・保険業は16.4%でした。この3業界で半数以上を占めています。
しかし、これまではこのような順位ではありませんでした。一昨年までは金融が1位を占め、3割以上だった時期もあったのです。ところが、近年金融の割合が下がり、初めて3位になりました。内訳をみると銀行や保険業に就職する学生が大幅に減少しているのです。その反面、情報通信業が増加しており、特にIT企業に就職する学生が増加しています。
こうした就職先の変化は、学生の価値観の変化のみが引き起こしたものではありません。ここ数年で起きた各業界の構造的な変化を受け、希望就職先を考え直している学生が多いように感じます。
就職スケジュールの早期化に合わせて、就職支援イベントを前倒しで開催
森田キャリア形成の支援は、1年生から始めています。社会で活躍するOGの話を聞く機会もあり、キャリアデザインを描きます。3年生の4月から本格的な就職支援が始まります。5回にわたって行う就職ガイダンスを主軸として、業界や企業を研究するセミナー、エントリーシートや面接対策、就活マナー、SPI対策、模擬面接を通じて実践力を高めるトレーニングなどを数多く開催しています。
行事については、近年の就職活動の流れに応じて変更を重ねています。例えば、就職活動早期化に合わせて、全般的に開催時期を早めたり、インターンシップの重要性の高まりに対応し、第1回目の就職ガイダンスではインターンシップの概要や選考対策について話したりしています。
3月開催は「学内企業説明会」として変えていませんが、2月開催は「個別企業研究セミナー」に変更しました。内容も採用に関する説明ではなく、企業には事業や仕事内容、働き方について話してもらっています。学内で企業や業界の最新の話題を聞くことができる貴重な機会として、対象を全学年としました。さらに、今年からは「個別企業研究セミナー」を2月だけでなく12月にも開催するようにしました。参加企業に話を聞くと、本学だけではなく、12月に説明会を開く大学は増えているそうです。どの大学でも早期化への対応を迫られているのでしょう。
今年度の参加社数は、「個別企業研究セミナー」「学内企業説明会」を合わせて約140社です。参加学生数は昨年実績で「個別企業研究セミナー」に4,677名、「学内企業説明会」には2,862名が参加し、延べ7,539名になります。本学は1学年当たりの就職希望者が900名程度なので、参加率は低くないと思います。
キャリア・センターは新たな企業との関係構築を希望している
森田本学の学生に関心を持っていただけたなら、是非キャリア・センターまでご連絡ください。本学の卒業生は年に900名。規模が大きくない大学ですので、これまで採用実績のない企業も多いことでしょう。しかし、私たちはこれまで採用実績のない企業とも関係を築いていきたいと考えています。
「学内企業説明会」や「個別企業研究セミナー」のご参加につきましても、お知らせください。参加枠に限りがありますので、必ずしもご参加いただけるとは限りませんが、お申し出に対しては必ず検討いたします。
キャリア・センターに求められる新たな就職支援のあり方
二村学生のなかにはキャリア・センターの就職支援に頼らず、自力で就職活動に取り組む学生もいます。むしろ、キャリア・センターが何かしてくれるのを待つ、というよりは必要な時に必要なサービスを使うという姿勢の学生が多いようです。近年は様々な就職支援サービスもありますからそういうものを使う学生もいるでしょうし、自力で綿密な企業研究をして意中の企業に就職した学生もおります。キャリア・センターはあくまでも学生の活動をサポートする施設です。よく女子大は就職のサポートが手厚いと言われますが、決して手取り足取りということではありません。教学の過程で考える力はすでに養われていますから、主体的に自らの進路を勝ち取ってほしいものと思っております。
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