インタビューしたAIのプロ
前川知也氏
株式会社エクサウィザーズ
HRTech部 部長
名畑猛司氏
株式会社エクサウィザーズ
HRTech部 グループリーダー
HR分野でAIを活用するために必要なこと
──御社は事業内容として「AIを利活用したサービス開発による産業革新と社会課題の解決」を掲げ、ロボット制御、製薬・医療機器・重症化防止などのメディカル分野、金融、セキュリティなど、様々な業界のパートナー企業とAIプロジェクトを進行させています。そんなAIのプロから見た「HR分野でAIを活用する意義」とは何でしょうか。前川氏 たとえば配置・配属。企業の人事部では、社員一人ひとりの人物像を把握・洞察し、どこにアサインするか、どういう役割を果たしてもらうかを決定するわけですが、数人の担当者が社員数百人、数千人を正しく把握しようと思っても限界があります。そこで、情報把握をアシストするのがAIです。人間では扱いきれないほどの膨大な人事データをAIで分析することによって、人の力では見極められない社員の適性やポテンシャルに気づくことができます。
名畑氏 そこには、単に作業の効率化というだけでなく、社員の視点に立った人事施策の高度化という意味が含まれます。社員が個々に備える強みを可視化し、スキルアップや志向性、希望などを汲み取り、その人にとって最善のキャリアを歩む道筋を示す。そうすれば社員の仕事や組織への満足度は上がり、高いパフォーマンスを発揮してくれます。双方にウイン-ウインの人事施策がAIによって可能となるのです。
前川氏 確かに、そういう企業は多いとは言えず、もっとサポートさせていただきたいと思っています。AIの活用が進まない大きな要因となっているのが、人事施策に必要な各種データが分断されていることでしょう。採用時のATS(採用管理システム)、入社後の社員に関するデータを管理する基幹システムや給与系システム、さらにはタレントマネジメントシステムなど、複数のシステムが運用されていて、扱うデータの中身もシステムごとにバラバラです。そのような状態では、すべてのシステムを横断してデータを分析するのは、かなり困難です。
名畑氏 しかも、各種のデータは「高度な人事施策に活用しよう」という目的で集められたものではありません。本来は、実際の活用方法をイメージしてデータを蓄積するべきなのですが、現実的には、採用、給与計算、配置などの各担当者が個別にデータを収集・管理し、システムへのアクセス権も分散しています。そのため、全体を把握している人が不在になっているのです。
前川氏 かといってシステムの統合には多大なコストがかかります。せめて各システムからデータを抽出・集約・分析できるダッシュボード型システムがあれば、どんなデータがどこにあるのか、何が足りないのか、重複して持っているものはないかといったことも明確になり、データの整備も進むはず。ですが、それもほとんど導入されていません。これでは、いつまでたってもAIによるデータ分析は進まないでしょう。
──御社の代表的なプロダクトである『HR君』は、「AIをフル活用したクラウド型の人事支援サービス」と銘打たれています。まさに分断された各種システムからデータを集約・分析するツールと言えそうですが、これは人事領域でのAI活用を促進させるために生まれたものでしょうか。
前川氏 はい。採用管理、勤怠、評価など、分散している人事データを社員ごとに集約し、あらゆる角度から立体的にAIで分析することを目的としたクラウドサービスです。その中心となるのが、『HR君アナリティクス』で、「採用傾向分析」「ハイパフォーマー分析」「社員のリテンション」「健康パフォーマンスの最大化」といったピープルアナリティクスを実現できます。
実は、各企業の人事部が最も慣れ親しんでいるデータ管理ツールは「Microsoft Excel」なんです。そこで『HR君アナリティクス』では、各システムに蓄積されたデータをExcelファイルとして出力すれば取り込める仕様となっています。AIに触れるのは初めてという方々にもライトに使っていただくためのこだわりです。
──『HR君アナリティクス』で分析対象とするデータが、数値、テキストなどと幅広い点も特徴的です。これも人事の現場の実情に合わせた仕様ということですね。
前川氏 1つの側面だけで社員の人物像は分かりません。人事部の方々は、個々の社員のキャリアから飲み会での会話まで、総合的な情報から人物を判断しています。AIによる分析でも同じ視点が重要だとの思いから、採用時から退社までキャリア縦断的に、かつデータの種類を横断的に、ワンストップで分析できるツールにする必要があったのです。