ゲスト
黒川和真氏
富士通株式会社
大阪大学卒業後、1998年に富士通に入社。富士通健康保険組合への出向を経て、2001年に人事勤労部グループ人事部に配属となる。2006年にプロダクト事業推進本部勤労部へ異動し、2011年にはプロダクト事業推進本部人事部担当課長に就任。2014年より人事本部人事労政部マネージャーとして手腕を発揮した後、2017年より現職。
人事本部 人材開発部 人材採用センター マネージャー
今まで出会えなかった人材にリファラル採用を通じてアプローチ
――まずはリファラル採用を導入した経緯についてお聞かせください。黒川 和真 氏(以下、黒川) 弊社は毎年、約750名の新卒者を採用しています。一方で、近年はキャリア採用にも力を入れており、ICT人材を中心に年間で約150名の即戦力を採用しています。
しかし、今やICT人材は従来のICT企業だけでなく、自動車メーカーや銀行など、さまざまな業界が必要としており、獲得競争は年々激化。優秀な人材を採用するのが非常に難しくなってきました。そうした厳しい環境の中、我々が求める優秀な人材、特に転職市場にはなかなか出てこない人材にアプローチすべく、従来の採用経路とは別の新たなチャネルを模索していたところ、辿り着いたのがリファラル採用だったのです。
この手法を使えば、社員の持つ人脈の中から現在転職を考えている知人・友人はもちろん、まだ転職を考えていない転職潜在層にもダイレクトにアプローチすることが可能なため、今まで出会うことのできなかった人材を採用するのに効果的なのではないかと考えました。
――御社のような大企業でも、人材の確保には苦慮されているのですね。リファラル採用の導入にあたり、どのような準備をされたのでしょうか?
黒川 まずは他社の事例などを参考にしつつ、リファラル採用についてMyReferさんから情報収集しながら、制度づくりを進めました。その後、手始めにキャリア採用で入社した社員や、人材獲得に対する意欲の高い部門を対象に、約半年間のトライアルをスタート。その期間の中でリファラル採用の仕組みがきちんと機能することが確認できましたし、実際に優秀な人材を採用することができましたので、2018年4月に全社的に正式導入の運びとなりました。
――特にリファラル採用に力を入れている職種は何でしょうか?
黒川 基本的にすべての職種が対象ですが、なかでもエンジニアの領域には注力しています。近年獲得競争が激しくなっているAI技術者や、転職市場ではあまり見かけないようなニッチな専門性を有した技術者は、我々としても是が非でもアプローチしたい領域です。
――紹介した社員に対するインセンティブはありますか?
黒川 はい、インセンティブを用意しています。リファラルで入社した人が試用期間を終了した場合、紹介者に10万円を支払うという仕組みです。
――どのようにして、社員に対してリファラル紹介制度の周知を行っていますか?
黒川 まずは役員から全社員3万4,000人に対し、制度の概要と社員ひとり一人がリクルーターとして採用活動に参画してほしい、とのメッセージを発信しました。同時にリファラル採用専用のホームページを立ち上げ、制度の概要や登録ページのリンクなどを掲載。さらにその後は、人材獲得に対するモチベーションの高い部門やリーダー層が集まる研修会などに個別に足を運んで説明したり、新入社員に登録を促したり、社内報で告知をしたりと、地道に周知活動を行っています。
リファラル採用は他の採用経路より、マッチ度や合格率が圧倒的に高い
――リファラル採用を導入されて1年弱が経ちましたが、直近の成果を教えてください。黒川 キャリア採用に関しては、この1年で約150人を採用しましたが、そのうち15人がリファラル採用を通じて入社しました。全体の1割近くがこの制度で採れたので、初年度としては良い滑り出しで、手応えを感じています。
リクルーターである社員自身も、紹介する以上は本当に富士通で活躍してくれそうな人材を真剣に考え、選んでくれました。ですので、リファラル経由の応募者はほとんどが我々の求めるスキルや人物像にマッチしていました。また応募者本人も事前に富士通に関していろいろと話を聞いたうえで、正しい理解を持って応募してくれているので、今のところ内定を辞退されたケースはありません。エージェントからの紹介や転職フェア、自社の求人サイトなど、他の採用経路と比べ、合格率が圧倒的に高いのも特長です。
――成果が得られた一方で、課題やご苦労されている点はございますか?
黒川 全社にリファラル採用の文化を浸透させることが目下の課題です。制度面や運用面に問題はなく、ここまで一定数の採用にも結びつけることができ、大きな手ごたえを感じています。今後、リクルーターとして活動する社員の数が増えれば、さらなる成果の向上につながると考えています。
もともと富士通のキャリア採用は、社員がリクルーターとなって採用活動を行うという文化がありませんでした。そのため、インセンティブをつけたり、制度を周知したりしても、社員がそれを自分のミッションとして認識し、行動に結びつけていくには、それなりに時間がかかるとみています。裾野を広げるための施策もいろいろと検討はしていますが、まずは地道に広報活動を続けていくことが重要だと考えています。