いまどき新入社員を読み解く3つのカギ
「いまどき新入社員」の特徴を理解するために、大きく影響していると思われる3つの要素をみていきましょう。その要素とは、1つ目が「親子関係」、2つ目に「学校教育」、3つ目は「社会経済」です。
(1)「親子関係」
2019年入社の新入社員は浪人留年なしのストレートであれば、1996年(平成8年)生まれとなります。彼らの親は、新人類と言われた世代が中心です。20~30代にバブルを謳歌、過度な受験戦争と管理教育の反動で勉強以外の個性を大事にしようという傾向があると言われています。
家庭内では親として子供と対等な関係を望んだり、勉強以外の分野で自由にさせたりすることを善しとしてきました。「ともだち親子」「モンスターペアレンツ」という言葉が生まれた世代でもあり、それまでの親子関係・家庭環境とは異なってきたと言われています。
(2)「学校教育」
俗にいう「ゆとり教育」のスタートが2002年ですから、2019年入社の新入社員はそのまっただ中で初等教育を受けて育った世代と言えます。
ゆとり教育といえば「学習要項の削減=学力低下」と結びがちです。しかし、私たちと接点のある企業の新入社員は、塾や個別指導などの課外学習によって受験戦争を勝ち抜いた人が多く、学業についてはむしろまじめでしっかりと勉強してきている人が多い印象です。
ゆとり教育の実態は、勉強以外の側面、例えば「周囲と競って1番になれる」という場が学校社会からなくなってしまったことで、本当の意味での個性を見つけられなくなってしまったことにあります。「相対評価から絶対評価への切り替わり」はその象徴とするところでしょう。
ゆとり教育とは、それまでの詰め込み教育からの脱却と応用力養成のため、個性をはぐくむことを目的とした施策でした。
個性とは、集団生活で挫折・成功といった他者との関わりや、自分の得意とすることを極めたり熱中したりする活動を通じて、徐々に「見つかっていく」ものです。しかし、実態は個性が見つかりにくい環境となったばかりか、「いろいろな1番」が存在しにくい学校社会において、他者と違うことが「いじめ」へとつながっていきました。
さらに、SNSというツールによっていじめが陰湿・悪質化したことで、なるべく目立たぬように、安全に無難に過ごすことで自分の身を守る、本心は気心のしれた限られた友人にだけ(場合によっては親のみ)に明かす……というように、安心安全の場を探し、安全な人にだけ本心を話す環境に晒されていたといえるでしょう。
(3)「社会経済」
バブル崩壊後に生まれた彼らにとって、物事は「努力すれば必ず良くなる」ということを実感値として持っていません。また、リストラを経験した家庭に育った同級生も珍しくなく、働くことに夢を見ることは難しい環境で育ちました。
実際、接した若手社員から「仕事はそもそも楽しいとかそういうものではない、と学生のころから思っている」という言葉を、何度か研修中に聞くことがありました。そんな彼らに、“頑張ってしんどい思いをして働いた先に何かを得られる”、という感覚を持たせるには少々無理があるかもしれません。
ただ、2018年6月に発表された日経新聞の就活生への調査では、出世について「とてもしたい」「したい」が90%に及んでいました。このようなデータなどを見ると、今後、仕事における上昇志向については少しずつ傾向が変わってくるかもしれません。
そして、特筆すべきは携帯電話やSNSの発展によるコミュニケーションのベース部分の変化です。
彼らのコミュニケーションとは「好きなときに好きな人と好きな形で間接的にとる」ものへと大きく変化しました。しかし、阪神大震災や9.11、東日本大震災といった生存欲求を揺さぶられる経験も多く、本当は人とつながりたい、役に立ちたい、貢献したいと思っているのにそのやり方がわからないという、私たちからするとある種のジレンマのようなものを抱えている人も多いように感じます。
いまどき新入社員の価値観には、このような3つの要素が大きく影響しているといえます。それでは、こうした点を踏まえて、彼らの特徴を読み解いていきましょう。
いまどき新入社員の5つのメンタリティ
まずお伝えしたいことは、本稿のテーマは、決していまどきの新入社員にレッテルを貼ることが目的ではないということです。メンタリティとは、「意識する心理状態」のことです。行動や発言の根底にある、通常、表には出てこない、人それぞれの内部統制の状態を指す心理学用語です。したがって、メンタリティ自体には良し悪しはありません。レッテルを貼るためのものではなく、あくまで若手世代を理解するための1つのツールとして、捉えていただければと思います。
いまどき新入社員がこれまで培ってきたメンタリティを理解することで、その強みを活かし、弱点を補強する形で育成につなげることができます。
「いまどき新入社員」には、具体的に次の5つのメンタリティが特徴として見られます。これらを研修や育成担当の方からよく聞かれる、特徴的な言動と合わせてご紹介していきます。
●「で、いいや」メンタリティ
全般的にそこそこで満足ですという感覚です。特徴的な言動としては、いわゆる指示されたこと以上のことをやらない、ということが見られます。
ポイントとしては、彼ら自身は決して手を抜いているわけではなく、100%で取り組んでいるが、上の世代から見ると80%くらいに見える、というギャップが生まれているということです。
反面、言われたことは手を抜かずまじめにやるという良い面もあります。
●「正解を検索」メンタリティ
「物事には正解がある」という感覚と、「その正解は自分の外側にある」という感覚です。わからないことがあると、検索エンジンや周囲の先輩に正解を求め、自分で考える力が鍛えられていないように見受けられます。一方で、情報検索に慣れているため、ハッシュタグ文化に見られるような高いキーワード力を持ち、あいまいな情報を処理することに長けています。
●「クローズドマインド」メンタリティ
思考や感情が表に出ず、何を考えているか分かりづらいという特徴です。彼らはモバイル文化の中で育ってきました。彼らにとって情報は文字・絵でやり取りするもので、コミュニケーションはとりたいときに好きな相手ととりたいだけとるものであると言えます。対面でのコミュニケーションで何かを読み取ることをしてきていないため、単純に表情筋が鍛えられていないと言えます。良い面としては、対立を好まず、まず調和を取ろうという姿勢を持っています。
●「貢献あこがれ」メンタリティ
遠い世界の「貢献」にあこがれ、目の前の努力がそれに結びつかないという感覚です。「誰かにありがとうと言われる仕事がしたい」といった思いを彼らが持っていることを、新卒採用面接などの場面でよく耳にします。貢献のために周囲に働きかけることで人間関係に摩擦が起きることを恐れ、つながりたいのにつながれないジレンマを抱えている、という特徴を持っています。反面、「目の前の人が自分を受容してくれる安心感を得られたとき」に、強いエネルギーを発揮する点が特徴的です。この点は、いまどき若手のOJTを考えるうえで大きなポイントとなります。
●「勝手にプレッシャー」メンタリティ
叱られることに慣れておらず、指導する側としてはちょっとした指摘として伝えたことを「人格否定」のように受け取ってしまうという感覚です。相手の言葉の裏側にある意図を組む力が弱くなっているため、指導者側からの意図とずれたところで指摘を受け止めてしまう傾向があります。早期に挫折突破体験とストレスコーピングを身につける必要がある一方、きちんと動機付けを行うことで高いパフォーマンスを発揮します。
「乾けない」世代──『モチベーション革命』より
こうした特徴は、世代ごとのモチベーションの源泉について記した書籍、『モチベーション革命』(著:尾原 和啓、幻冬舎出版)にも紹介されています。著者の尾原氏はいまどき若手世代を何かを満たしたい、飢えているという感情で行動しない世代──「乾けない世代」だと表しています。5つに大別される人間のモチベーションの源泉のうち、良好な人間関係、意味合い(仕事の意義を求める)、没頭できることを重視していると言えます。
いまどき新人に対して「もっと成果にコミットさせたい」とお考えのときには、この点が大きなカギとなります。彼らは、自身が取り組んでいる仕事の意味合いがわかると、一心にそこに打ち込めるのです。裏を返すと、OJTトレーナーや上司といった人物が彼らに「彼らが取り組んでいる仕事の意義」を語れなければならないと言えます。
近年の新人・若手たちがこの世の中をどのように生きてきて何を大切にしているのか、その特性を知ることは、いま目の前で起きているキャリア開発や育成上の問題を解決するうえでとても重要です。そして、今後起こりうる新人・若手世代の育成アプローチを、より彼らにフィットしたものへとブラッシュアップし、世代を超えた相乗的チームを作っていくためのヒントが見えるはずです。本稿の5つのメンタリティは、「いまどき新入社員の特徴」として新入社員の育成について考えることを前提としていますが、その特徴は20代の若手社員に広く当てはまる部分があるのではないでしょうか。
次回からは、「いまどき新入社員」が持っている5つのそれぞれのメンタリティについて詳しく見ていくとともに、仕事上で見える彼らの特徴について触れていきたいと思います。
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