前回、いまどきの新入社員の特徴を理解するために、大きく影響していると思われる3つの要素として、「親子関係」、「学校教育」、「社会経済」を取り上げました。
新入社員の「で、いいや」メンタリティと、「正解を検索」メンタリティの、強みを活かす育成方法とは?
これらを踏まえると、先読みできない世界を生きる新入社員たちに求められるのは、「変化の波に対応し、新たな波を創り出す力」であると言えます。正解のない世界を受け止めつつ、しっかりした自分の意思を発信できること。また、相手の立場に立ってギフトを与えられること。さらには、自分の意志で人生を選択できる自己決定力が必要となります。

しかし、現実の新入社員たちはどうでしょうか。企業の人事担当者の方々に、いまどきの新入社員の特徴をうかがうと、次のような声が挙がります。

「相手から自分が評価されるかどうかは気にしているけれど、その相手が自分をどう見ているかについては気が回らない。でも周りからどう思われているのかはいつも気にしている」

「情報整理はできるけれど、情報の編集は苦手」

「言われたことはキッチリやるし、まじめ。ものごとを効率化するのが好きで、早く終わらせる力がある」

「出る杭になるのを恐れて、無難な正解を求める」

前回でもご紹介しましたが、リ・カレントでは、こういったいまどきの新入社員の特徴を、次のような5つのメンタリティで説明しています。
新入社員の「で、いいや」メンタリティと、「正解を検索」メンタリティの、強みを活かす育成方法とは?
この中から今回は、(1)の「で、いいや」メンタリティと、(2)の「正解を検索」メンタリティについて、実際に人事の方や現場から聞こえてきた例を取り上げてご紹介します。

1. 新人の「ナゾな自分基準」=「で、いいや」は、言われた以上のことをやらない一方で、素直で従順な一所懸命さの表れ

新入社員の「で、いいや」メンタリティと、「正解を検索」メンタリティの、強みを活かす育成方法とは?
先日、ある人事の方が、いまどきの新入社員のことを指して、「ナゾな自分基準」とおっしゃっていました。その理由を聞いてみますと、次のようなことがあったそうです。

新入社員研修中のグループワークで10分間のディスカッションを指示したところ、10分間の時間があるのに、5分ぐらいで話を終えて、黙って座っているグループがあったそうです。「終わりました」と言うので、どんなディスカッションをしたのか聞いてみると、新入社員同士で議論を深めるということはなく、それぞれが思っていることを順番に確認し、つなげてまとめただけのアウトプットだったそうです。

10分という時間を制限まで使い切らないことにも驚いたそうですが、なぜそれを指示されたのかという目的を意識せず、「ただ話して共有して満足」という状態に唖然としてしまったそうです。

人事の方や研修講師が求めていたことは、単に「情報を集めなさい」ではなく、「意見を持ち寄って議論を深めなさい」ということでした。にも関わらず、この新入社員は、自分自身が受け取った通りの基準で押し通してしまったので、人事の方はこれを評して、いまどきの新人の「ナゾな自分基準」とおっしゃっていました。

リスクの多い時代に育ってきた彼らにとって、「より最上なものを求めて、歯を食いしばって頑張る」という概念はありません。そもそも、人から抜きんでるように頑張ったことで嬉しかったり、評価されたりしたことがあるという原体験が減っているためです。彼らはとにかく、「否定されないように、間違わないように無難に安全に、正しいことをやる」ことで、身を守ってきたのです。

このように、「いまの新人は指示された以上のことはやらない」と嘆く上司の話は珍しくありませんが、新人にとっては、「言われたことをしっかり正しくやることが良いこと」なのです。

つまり、裏を返せば、とても素直で従順な人が多いということです。彼らは実に、一所懸命なのです。言われたことは一所懸命に実行するのですから、新人時代の仕事の進め方として、これほど素晴らしいことはないでしょう。

さらには、目の前の指導者が自分に懸命に関わってくれていれば、彼らは「その人の役に立ちたい!」という想いから、より頑張ることが出来るという強みを持っていると言えるのです。

2. 「正解は検索すると見つかるもの」と思っている新入社員の、その情報処理能力の高さを活かす

新入社員の「で、いいや」メンタリティと、「正解を検索」メンタリティの、強みを活かす育成方法とは?
いまや「ググる」は一般用語となりました。もともと、英語圏でgoogleが「Just Google it!」「Try Googling」というように動詞として使われ始めたものが、日本でもそのまま使われているわけですから、まさに世界標準と言えるでしょう。分からないことがあれば、何でも検索窓に入力すれば、タッチひとつで「正解候補」を割り出し、「正しいものを選ぶ」ことができます。

今回ご紹介する2つ目の「正解を検索」メンタリティには、次の2つの側面があります。
・分からないことは、「検索すると見つかるもの」であること
・「正解」は「自分の外側にあるもの」であること

ではこれに関して、私の個人的な体験を例に挙げて説明しましょう。

以前、テレビである若い女優さんが、「私、趣味がないんです。なので、最近『趣味』ってググってみたんですよ」と真顔で話していて、思わずぎょっとしました。その話を受けた司会者は「で、趣味は見つかったの?」と半ば驚きながら聞くと、女優は「はい、見つかりました。陶芸が面白そうかなって……」と答えました。「おお、それはよかったね。で陶芸はどう?」と司会者が聞き返すと、女優は「でもまだやってないんです。どうやるのか分からなくて、いま陶芸のやり方を検索してます」と答えていました。

これが趣味の世界ならまだいいのですが、ビジネスにおいては、当然ながら「正解」というものは存在しません。いまや変化の激しい時代、過去の経験ややり方は通用しませんから、上司であっても答えを持っていないケースが増えています。自分で考え、仮説を立てて、実行して、検証していく。その過程で、先輩や上司に相談しながら、自分の意図を持って答えを出すことが求められています。

言わば、“妥当解”を出し続けることで、その精度を高めていくことがひとつの「正解」ですし、ビジネスにおいて唯一、正解があるならば、それは「正解がない」ということでしょう。

ですから、現場(職場)でも、新入社員には指示待ち、受け身ではなく「1を言ったら10をやってくれる新人」を求めるのですが、近年ではそこに大きなギャップが生じています。

正解を求めたい新人にとって、この感覚はおそらく大きなパラダイム転換を求められるでしょうし、頭では分かっていても、それを“体感知”に落とすにはどうしても時間がかかるように思います。「そもそも正解のないフィールドに来たのだ」ということを、最初に、できれば職場配属前に、理解できるかどうかで、その後の行動に大きく影響することは間違いありません。

一方で、その情報を見つけてくる力、「情報処理能力」には目を見張るものがあります。彼らは1つ興味を持つと、そこから関連する情報を芋づる式に見つけ出すことに非常に長けています。また、日々、膨大な情報の中で暮らしていますから、情報処理能力が高く、難しい状況をキーワード化して整理することも、とても上手です。

これもひとつ例を挙げると、社内のナレッジを形式知化するプロジェクトで、1人の新入社員に、目的と概要を伝えた上で、解決策を考えて欲しい、と仕事を依頼したところ、ある業務フローに関して、誰もがわかるようなフロー表とマニュアルを、とてもスピーディに形にしてくれたことがありました。まさに、いまどき新人の「情報処理能力」、「キーワード化力」という強みを見た瞬間でした。これは先輩世代ではなかなか真似できない力だと思います。

新入社員の良い部分を評価して、安心な場作りをしてあげることが大事

「言われたことしかできない」、「『分かりました!』が全然分かっていない」、「例年に比べると何となくだらっとして見える」……など、若手社員を育成する管理職からすると、理解できない現象かもしれません。

しかし、新入社員である彼ら自身は、決して手を抜いているわけではありません。彼らは彼らの100%で取り組んでいるのです。ただ、上の世代から見ると、それがどうにも80%ぐらいに見えるギャップが生まれている、というところがポイントです。

そのような新入社員を育成するポイントとしては、指示をされたことについてしっかりやるということを、良いものとして評価していく。また、その高い情報処理能力を評価し、活用するということです。

ただ注意したいのは、「で、いいや」というメンタリティであったり、「どこかに正解がある」と思っていると、「正解じゃないものだと怖くてできない」、「第一歩がなかなか踏み出せない」ということがどうしてもでてきます。

ですから、「上司はどのような意図でこう言っているのだろうか?」、「お客様はどう考えているんだろう?」といったことを自分なりに考えて探っていく、というような力を身につけさせていかなければなりません。

マイナス評価を恐れている彼らに対しては、たとえ内容が違っていて正解ではなかったとしても、発言そのものを承認し、本人の自発性を引き出してあげるということが必要なのではないでしょうか。


※次回はいまどきの新入社員が何を考えているのかわからない「クローズドマインド」メンタリティ、何かに貢献したいと思う「貢献憧れメンタリティ」について解説します。
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