人事部門の意識の差はどこにあるのか
昨年1月、私は企業の働き方改革の実態を把握すべく、都内の複数の企業へヒアリング取材に回っていた。話を聞くと、世の中で働き方改革の動きが加速しているのを受け、どの企業でも短期的なものから中長期なものまで様々な取り組みが実施されていた。しかし、それぞれの進捗には大きな開きがあった。進捗が芳しくない企業に共通していたことは、取り組みが“形式的”に行なわれていたことだ。「世の中の風潮だから」「他社がやっているから」「人材不足の時代だから」と、表面上は同じような取り組みを行なっている企業でも、人の活用における考え方やスタンスに大きな差があり、それが結果にも影響を与えていた。
その差を生み出す要因は一体、何なのか。私は、「企業価値を生み出す源泉」すなわち、無形資産の活用における意識の差ではないかと考えている。
企業価値は何から生み出されるのか
無形資産は、企業価値を創出する重要なドライバーとして、近年再び注目を浴びている。ここでいう無形資産は、特許などの知的財産だけでなく、組織力(組織資産)やネットワーク(関係資産)、そして人のノウハウや技術(人的資産)などを含む広義の意味で捉えている。その中でも人的資産はすべての無形資産の源泉となるものであり、無形資産を考えるにあたって欠かせない資産である。学術的な研究においても、人的資産は関係資産・組織資産の形成にとって重要な無形資産であると示されている(※1)。要するに、企業価値を生み出す源泉として無形資産が一層重要となるなか、その無形資産を生み出す重要な源泉である人的資産に注目すべきである(図表参照)。取り組みを”形式的に”行なっている企業は、企業価値が作られるプロセス、そしてその源泉となっている無形資産ないしは人的資産を蔑ろにしてしまっているのではないだろうか。
※1
細海(2016)「インタンジブルズの活用に向けた実証的研究」『會計』
人事部門の今後の在り方とは
人事部門として意識して頂きたいことは下記の3点である。①企業価値創造において無形資産が重要であること。
②その無形資産を形成する重要な源泉が人的資産であること。
③そして、その人的資産の最適化を図っているのが人事部門であること。
ミシガン州立大学のウルリッチ教授は、2000年代から従来の「人事の成功についての尺度」(例えば、年間40時間の研修を受けた管理職の割合など)が変わってきていると述べている。そして、現在の人事部門には、社内外の人事問題に対応していくことはもちろんだが、経営方針を踏まえ価値創造を実現できる人材の育成や確保こそが求められている。人事部門の「現在」の取り組みが、「将来」の企業価値に大きく影響を与えていくことになるという点を意識して頂きたい。
この視点を持っていれば、働き方改革の取り組みも形式的なものにならないはずである。ぜひ、一度立ち止まり、人事部門の在り方を見つめ直してみてほしい。
中島 夏耶
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