企業では、システム開発においてだけでなく、さまざまな領域で多数のプロジェクトが推進されている。だが、すべてが成功に至っているわけではない。成果をあげるうえで重要となるのが「プロジェクトマネジメント」と呼ばれる計画の管理手法だ。本記事では、そんな「プロジェクトマネジメント」の定義や手法、成功に向けたポイントのほか、推進するうえで欠かせない基本的なスキルなどを解説する。
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そもそも「プロジェクトマネジメント」とは何か

「プロジェクトマネジメント」とは、プロジェクトを成功へと導いていくために、リソースを適切に配分・活用し、その推進を管理することを指す。重要となる要素は、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)やプロジェクトの成果だ。具体的には、計画作成や人員配置、意思命令系統の構築を行い、作業の進捗やリスクなどをコントロールしながら、プロジェクト成功までのプロセスを推進していくことになる。

●「プロジェクトマネジメント」が必要な背景

グローバルレベルで市場競争が激化しており、企業も生き残りを懸けさまざまなプロジェクトを立ち上げている。そうしたプロジェクトを成功へと導くためには、プロジェクトの体制をしっかりと構築し確実に運用する必要がある。そのための管理手法として注目されているのが、「プロジェクトマネジメント」だ。

●「プロジェクトマネジメント」のメリット

「プロジェクトマネジメント」のメリットとして、ここでは3点を取り上げたい。まず、1つ目が「問題の早期発見と迅速な対応が可能となる」こと。どこに問題があるかをいち早く発見することができる。2つ目が、「仕事の優先順位とスケジュールが明確になる」ことだ。結果的に、計画のズレが減り、期限内でプロジェクトを完結しやすくなる。3つ目が方向性を共有できることだ。「プロジェクトマネジメント」を行うことで成果や納期が明確になり、チーム全体が一貫して作業を進めていける。

「プロジェクトマネジメント」の実施者は?

「プロジェクトマネジメント」を行うのは、主にプロジェクトマネージャー(PM)とプログラムマネジメントオフィス(PMO)に分けられる。それぞれを詳しく説明しよう。

●プロジェクトマネージャー(PM)

プロジェクトマネージャー(Project Manager)とは、個々のプロジェクトを指揮する立場にある人間を指す。プロジェクトの目標設定やスケジュール管理、チーム編成などを行い、常にプロジェクトの最前線で判断を下しながらチームを導く役割を担う。

●プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)

プロジェクトマネジメントオフィス(Project Management Office)とは、複数のプロジェクトを横断的に支援する組織のことを言う。例えば、マネジメント方法の標準化やプロジェクト間のリソース調整、プロジェクト全体の統制、プロジェクトマネジメントスキルの向上支援などを行う。なお、プロジェクトマネジメントオフィスは専門部署を設置する場合もあれば、外部の専門業者に委託することもある。

研修を考えるうえで役に立つ「プロジェクトマネジメント」に必要なスキルを分解して解説

「プロジェクトマネジメント」を行うには、いくつか必要となるスキルがある。ここでは代表的なものを紹介したい。

●コミュニケーションスキル

プロジェクトでは、さまざまなステークホルダー(利害関係者)が絡んでくる。それだけに、いかに関係者間の齟齬をなくし、円滑に意思疎通を図ることができるかが、「プロジェクトマネジメント」の要諦になる。立場も考え方も異なるあらゆる相手とやりとりするケースもあるだけに、相手の主張を理解しながらも自分の意見を伝えられる優れたコミュニケーションスキルが不可欠となるだろう。

●問題解決力

課題やリスクが生じないプロジェクトはないと言っていい。それらをどう解決、対処していくかも「プロジェクトマネジメント」において重要な仕事となる。もちろん、課題が複雑・高度なものであれば、誰か一人で解決できるというものではなく、チーム全体で力を合わせて解決していかなければいけない。

●ロジカルシンキング

ロジカルシンキング、つまり論理的思考能力も見逃せない。これは、プロジェクトを推進する上で直面するさまざまな事象や課題に対して、客観的な視点を持って筋道立てて考えていける力を意味する。ロジカルシンキングができれば、課題の解決策をスムーズかつ的確に導き出せるので、「プロジェクトマネジメント」の精度も高まると言って良い。

●ディレクションスキル

ディレクションスキルとは、プロジェクトのメンバーを動かす力を意味する。質の高い成果物を納期までにアウトプットしていくためにも、メンバーの稼働状況や力量・スキルに配慮しつつ、的確にディレクションを行っていく能力が欠かせない。

●目標管理スキル

「プロジェクトマネジメント」では、品質やコスト、納期が重要な要素となる。それぞれに具体的な目標を設定し、を実現するための計画を立案し、確実に推進していく能力が求められる。

●マネジメントスキル

具体的には、メンバーのアサインや教育・育成、モチベーション管理、評価などを行うためのスキルだ。プロジェクトといっても、リソースが豊富というわけにはいかない。むしろ、限られたリソースを活用して高い成果を出すことが求められる。そのためにも、人材の力を最大限引き出せるような指導や教育がとても重要になってくる。

●予測スキル

予測スキルも「プロジェクトマネジメント」に必須のスキルといえる。トラブルや課題を事前に予測して、先回りし何らかの手を打つことによって、プロジェクトの詰まりを防ぐことができる。

●ビジネス視点

多くのプロジェクトは、企業における経営課題の解決を目指している。それだけに、ビジネスとして有益であるかを常に考えながら、プロジェクトを推進していく視点も欠かせない。

●システム、IT技術への知見

特に、システム関連のプロジェクトをマネジメントする場合には、実作業においてどのようなタスクを、どんなレベルで進めていけば良いかが分かっていなければ管理はできない。当然ながら、開発技法やIT技術の知見、スキルを磨く必要がある。

「プロジェクトマネジメント」のプロセス

実際に「プロジェクトマネジメント」はどういった流れで行うのか。一般的なプロセスを、順を追って説明していく。

(1)立ち上げ

プロジェクトを立ち上げるにあたっては、必要な情報を洗い出す必要がある。行わなければいけないことは、プロジェクトの目的設定や目標・予算・成果の定義、プロジェクト憲章の作成、ステークホルダーの特定だ。これらがしっかりと準備できているかどうかで、プロジェクトの難易度が大きく変わると言って良い。

(2)計画

ここでは、作業計画を立案する。当然ながら、計画の詰めが甘いと「実行プロセス」で苦労することになるので、ディテールまで十分に検討しておく必要がある。

(3)実行

今度は、計画にもとづいて実際にプロジェクトを進めていくことになる。時には想定外の結果が生じることもありえる。その場合は、プロジェクトのベースラインを再設定することを検討しなければいけない。

(4)監視とコントロール

プロジェクトを計画通りに実行したとしても、大概は何らかの差が生じてしまうはずだ。それらを確認し、状況を見つつ修正する必要がある。

(5)終結

最後は、所定のプロセスが終了したことを確認し、プロジェクトを正式に終了させる段階となる。プロジェクトを通じてもたらされた情報や修正策などを保管し、次のプロジェクトにぜひ活用したい。

「プロジェクトマネジメント」の手法

「プロジェクトマネジメント」にはさまざまなプロセスや手法がある。いくつか取り上げてみたい。

●WBS

>WBSとは、「Work Breakdown Structure」の略語だ。日本語では、「作業分解構成図」と呼ばれ、作業を分解して構造化する手法を意味する。具体的には、プロジェクト全体を構成する作業を大きな粒度のタスクとしてリストアップし、それらをより小さい粒度のものへと徐々に分解し、ツリー構造を作っていく。WBSを用いると、プロジェクトにおいてどんな作業が必要かを視覚的に洗い出すことができるとともに、プロジェクトの全体像を把握しやすくなる。

●ガントチャート

ガントチャートとは、プロジェクト管理や生産管理などで使用する進捗管理表だ。作業内容とスケジュール、進捗状況が視覚化されている。ガントチャートを用いると、優先的に取り組む作業やタスクごとの関係性を把握しやすくなる。

●アローダイアグラム

アローダイアグラムとは、「PERT図(Program Evaluation and Review Technique)」とも呼ばれ、作業の内容とスケジュールを図形と数字で現した図である。アローダイアグラムを用いると、必要な作業の順序をルートとして把握できる。そのため、納期を短縮するための工程を最適化しやすくなるほか、余裕日数などが視覚的に把握できるようになる。

●マインドマップ

マインドマップは英国の教育コンサルタントであるトニー・ブザンが提唱する「思考の表現方法」だ。具体的には、思考やアイデア、情報の流れを、中心となる概念から連想的に展開していき、それを図で表していく。マインドマップを用いると、プロジェクトを細分化できるため、課題を洗い出す時などに良く使われる。

●タイムライン

タイムラインは、プロジェクトのタスクを時系列で把握できるツールだ。時間の経過に合わせてタスクを管理するのに向いている。

●進捗管理

進捗管理はそれぞれの作業の進行状況をパーセンテージで表したものだ。作業ごとの進行状況が把握しやすく、メンバーの業績も見える化できる点にメリットがある。

●PERT

PERT(Program Evaluation and Review Technique)は、プロジェクト各工程の依存関係を矢印でつないで図示する手法だ。各工程の所要時間を記入してPERT図を作成することで、作業の依存関係を明確にし、最短のスケジュールを把握できる。また重要な工程を見極めるのにも向いている。

●CCPM

CCPM(Critical Chain Project Management)は、クリティカルチェーン法とも呼ばれる。この手法は、プロジェクト全体に影響を及ぼすタスクを可視化し、プロジェクトの遅延を把握することができる。ただし、短期的なプロジェクトには向かず、チーム内の協力意識が不可欠であるという点に注意が必要だ。

●PMBOK

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクトマネジメントの世界標準となる知識体系ガイドのことを指す。プロジェクトの計画、実行、監視、制御などのプロジェクトマネジメントに関するプロセスが体系的にまとめられていて世界中で活用されている。4年に1回程度のペースで改訂され、2021年発行の第7版では、スチュワードシップ(勤勉であること)、共同的なチーム構築、ステークホルダーとの効果的な関わりなど12項目の原理・原則を活用することでプロジェクトを効率的に管理していく。

「プロジェクトマネジメント」のポイントとは

ここでは、ぜひ押さえておきたい「プロジェクトマネジメント」のポイントを紹介しよう。

●やるべきことの明確化

プロジェクトをスタートするにあたっては、目的を達成するために何をしなくてはならないかを考え、一つひとつを明確にしていく必要がある。

やるべきことを明確にしていくと、実際にそれを行う上でどんなことが起きるかがイメージされ、実現を妨げる課題も洗い出すことができる。課題が明確でなければ、何から解決していけば良いか分からずに、ただただ無駄に時間ばかりが過ぎてしまう。やるべきことを明確化することで、プロジェクト途中であらゆるトラブルを未然に防ぐことができると言って良い。

●スケジュールの立案

やるべきことと課題が明確になったところで、次はスケジュールを立案しよう。やるべきことを実行するためには何か必要か、またその実行に向けて障害となる課題を解決するためにはどうすれば良いかを洗い出し、時間配分や優先順位付けを行いたい。ここが十分でないと、最終的に納期に間に合わないという事態に陥ってしまう。そうならないためにも、スケジュールをしっかりと管理するようにしたい。

●目標設定

明確に目標を設定し、それを意識しながら行動することも重要だ。これが、ブレてしまうと、最初に求めていたゴールにたどり着けなくなってしまい、仕事の成果を出せなくなってしまう。

●積極的なコミュニケーション

プロジェクトの目標を達成するには、メンバー同士の積極的なコミュニケーションが重要だ。コミュニケーションが深まれば信頼関係がより構築され、お互いに協力しながらミッションを遂行していける。

●組織管理への注力

プロジェクトを率いるマネージャーは、個人的な業務にこだわってはいけない。組織全体が円滑に機能していけるよう、組織管理に注力する必要がある。

●プロジェクト内外の調整

プロジェクトには、経営者や関連部署、協力会社、クライアントなど、さまざまなステークホルダーが絡む。それだけに、プロジェクト内だけに目を向けるのではなく、外部に対しても視線を向け、利害関係者全体の調整を図る必要がある。

●リーダーシップの発揮

リーダーシップを発揮することも強調したい。プロジェクトでは想定しないようなことが何度も起こり得る。中には不安を抱くメンバーもいるはずだ。そうしたケースであっても、沈着冷静にメンバーを正しい方向に導いていくにはリーダーシップが不可欠となる。

「プロジェクトマネジメント」に関する資格

最後に「プロジェクトマネジメント」に関する資格を紹介しよう。

●プロジェクトマネージャ試験(PM)

プロジェクトマネージャ試験(PM)は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する国家資格の一つで、高度IT人材として認定される情報処理技術者試験の中でも高難易度の資格として知られている。内容としては、プロジェクトマネジメントに関する高度な知識と実践力を評価するものであり、特にITプロジェクトの計画、実行、管理に必要なスキルを証明することができる。なお、年2回(春・秋)実施されており、合格率は例年10~20%程度となっている。

●PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)

PMP(Project Management Professional)は、米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI)が認定する国際資格であり、世界中で高い認知度を誇る。上述したPMBOKガイド(プロジェクトマネジメントに関する知識体系ガイド)に基づき、業界や分野を問わず幅広いプロジェクトマネジメントスキルを評価する。日本語での受験が可能だが、一定のプロジェクトマネジメント経験が必要で、取得後もCCR(Continuing Certification Requirements Program)というプログラムに参加し、3年おきに更新しなければならない。その分、プロジェクトマネジメントに関する高度で幅広い知識と経験の証明となる。

まとめ

プロジェクトには、必ず最終目標がある。それを達成するために必要となるのが、適切な「プロジェクトマネジメント」だ。「プロジェクトマネジメント」を進めるにはさまざまなスキルが求められる。また、管理手法もいくつか存在する。まずは、それらをしっかりとインプットし、成功に向けたポイントとして、プロジェクトの目的に合った手法を選択していただきたい。

よくある質問

●「プロジェクトマネジメント」に求められるスキルは?

「プロジェクトマネジメント」には、一般的に以下のようなスキルや能力が必要だと言われている。
・コミュニケーションスキル
・問題解決力
・ロジカルシンキング
・ディレクションスキル
・目標管理スキル
・マネジメントスキル
・予測スキル
・ビジネス視点
・システム、IT技術への知見

●PMとPMOはどちらが偉い?

プロジェクトマネージャー(PM)とプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)では、そもそも役割が異なる。プロジェクトマネージャーは、個々のプロジェクトを指揮する立場にある人間を指し、プロジェクトの目標設定やスケジュール管理、チーム編成などを行う。一方で、プロジェクトマネジメントオフィスは、複数のプロジェクトを横断的に支援する組織のことで、マネジメント方法の標準化やプロジェクト間のリソース調整、プロジェクト全体の統制、プロジェクトマネジメントスキルの向上支援などを行う。
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