リクルートグループの社内報「カモメ」は今も紙で配り続ける

稲垣:企業文化の構築について考えたいのですが、AnyMindさんはすごい成長スピードで、これからも世界中でどんどん展開されていくわけですが、当然スピードが速く広がっていくと、大事なこと、徹底したいことっていうのが十分できないことも出てくると思うんですよね。守りたい文化と展開するスピードの速さって、どう調整していくんだろうかと。

水谷:まずAnyMindの話からすると、創業してからずっとスピード速く成長しているので、大事にしてきたものがそれによって失われるというフェーズにはまだなってないんですよね。それを大事にしていたら、成長してきたっていう感じだと思います。各国及び日本も含めてビジネスユニットみたいな感覚、事業部みたいな感覚で、30人から50人ぐらいの組織が多いんですよ。この単位でみるとマネジメントがすごく難しくなっているわけではないじゃないですか。その人数を見られる事業部長がいればしっかり回るわけなので、デメリットはそんなに今出てきてないんですよね、まだ。

これがまだこのあとどうなるかっていうのは分からないんですけど、スピードをもって伸びてきた、それを支えてきた文化みたいなもので、弊害が出てきているという感じにはなってないですね。強いていうと、スピードが速い分当然ながら粗さが残る面がありますので、このあと上場とかそういったものを迎えていく中でいうと、もう少しベースをレベルアップしなきゃいけないっていうことは当然発生しますと思います。

稲垣:なるほど。森本さんどうですか。

森本:私がリクルートを卒業してもう3年くらい経つんですけど、私が20代の頃と変わらないこと、グローバルカンパニーになっても変わらないことの1つでいうと、未だに社内報っていうのが紙なんですよ。

稲垣:『かもめ』ですね。まだやっているんですか。

森本:はい。しかもまだ紙でやり続けているんですよ。

稲垣:あえて紙なんですね。OBにも届くんですか!!

森本:届くんですよ。最近、グローバルカンパニーになって変わったのは、半分が日本語で半分が英語になったこと。内容は、よく本になったりもしている「リクルート語録」、そういったものをこの言葉はこういう意味を指すとか、そういう文化になるような、企業文化のようなものをしっかり社内報の中に載せたりとか。あと自分達が今評価している人とか、すごい象徴的にフォーカスしているケーススタディとか、成功事例とか、そういうのが必ず掲載されているんですよね。それって恐らくメッセージだと思っていて、リクルートが今大事にしている価値観、仕事の価値観ですね。アウトプットっていうのはこういうことなんだよという具体的な事例を必ずそこの中に載せていて、そのケーススタディをやった人がどういう思いでこの仕事に取り組んだかとか、結果としてお客様にどういう価値提供をしたかとか。こういう結果でしたっていうことだけじゃなくてその背景までちゃんとインタビューされたものが、その社内報に載っているんですよ、紙で。

稲垣:例えば海外でバンバン派遣会社とかも買収されているじゃないですか。ああいうところにも送っているんですか。

森本:送っていますね。だから英語になっているんですよ。なおかつそういったところでのケーススタディ、成功事例も載っているんです。取り上げていらっしゃるんですよ。ドラッカーが企業文化は戦略に勝るといっていましたが、企業文化をとても大事にしている1つの象徴だなと思ってみています。

稲垣:いま思い出しましたが、僕がインドネシアにいた時、RGFインドネシアというリクルートグループがありましたが、会社に行ったときに『かもめ』が届きましたって見せてもらいました。その時の表情が印象的だったんですよね。うれしいというか誇らしいというか。

森本:ネットでも全然やろうと思えばできると思うんですよ。なんですけど、やっぱり紙っていうのは見るんですよね。見るし感じるものがある。これは多分これからも変わらないんじゃないかと思いますね。

対談を終えて

お二人とも経験豊富で様々な事例を持って話していただき大変勉強になった。企業文化は、変えるべきことと変えてはいけないことがある。特にこのダイバーシティ、グローバル化する現在では、その見極めをしていくことが重要だということだ。しかし、リクルート社の社内報をOB/OG、買収した会社、海外の企業、全てに送り続ける、という執念のような企業文化には凄みを感じた。
【登壇者】
森本 千賀子氏
株式会社morich代表取締役

1993年、現株式会社リクルートキャリアに入社。企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援などのミッションに携わり、1年目からトップセールスとなる。その後、株式会社リクルートエグゼクティブエージェントに転籍、CxOなどのエグゼクティブ層の採用支援を行う。2017年3月には株式会社morichを創業、同年10月にリクルート卒業、独立。オールラウンダーエージェントとして活躍。2012年にはNHKプロフェッショナル仕事の流儀に出演、オンラインメディアへの連載や『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』『No.1営業ウーマンの「朝3時起き」でトリプルハッピーに生きる本』など著書多数。

水谷 健彦氏
AnyMind Japan株式会社CHRO(人事最高責任者)

株式会社リクルート人材センター(現リクルート)を経て、株式会社リンクアンドモチベーションに入社、2008年取締役に就任。2013年に株式会社JAMを設立。2017年株式会社PKSHA Technology社外取締役就任。2021年2月よりAnyMind Japan株式会社のCHROに就任。リンクアンドモチベーション社が20名程度の時代に入社し、1200名へと急成長する過程を経験。その経験を礎にしたベンチャー/成長企業の幹部育成、人事制度設計、MVVの浸透が得意。AnyMindでは、既に13カ国・地域に展開する同社の組織戦略の立案から実行までを司っている。

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