私たちは、これからの優秀人材をうまく活かすことができるのか
才能を見極めるには、やらせてみるしか方法がありません。ですが、「やらせてみること」には危険もあるため、先輩社員や上司が責任をもって新人を管理することが求められます。失敗すれば責任を負うことになり、上司にとってはリスクを伴う選択です。日本企業で、どれだけこのような取り組みができるでしょうか。私たちは現在、たったひとつのテクノロジーが世の中を変えてしまうほどの力を持つ時代に生きています。昔SF映画で見たような、量子コンピューターやAI、ロボットが、世間ではいままさに次々と誕生しているのです。日本政府も「ムーンショット型研究開発制度」を立ち上げ、2050年までに「AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現する」など7つの目標を達成すべく、大胆で挑戦的なテクノロジーの研究開発を、国を挙げて支援しようとしています。
企業でも、テクノロジーに関する優れた知識や技術をもつ人材を、通常の採用枠とは別に確保する動きが出てきています。今年2020年には、新型コロナウィルスの影響で多くの企業が外出自粛を余儀なくされる中、NTTがたった2週間でテレワーク用のシステムを作り上げました。自宅から安全に職場のシステムにアクセスできるこの仕組みは、天才プログラマーが構築したものです。NTTは、業界で有名なこのプログラマーを迎え入れるために、新たな制度をつくって権限を与えたそうです。
ポテンシャルのある人材は、新たな仕組みを作り上げますが、社会をも変えてしまう可能性があります。例をあげると、企業の研究所で研究された青色ダイオードは、私たちの生活を便利にしました。一方で特許に関する権利をめぐって訴訟が起こり、企業での知財管理の在り方に大きく影響を与えました。新たなテクノロジーは、常に世の中を変える可能性および利権問題と隣合わせなのです。
仮に、優れた才能を持つ技術者に対して自由に研究させた結果、高性能な量子コンピューターが開発されたとしたらどうなるでしょうか。ひょっとすると、国同士の貿易摩擦にも発展するかもしれません。優れた人材には、自由を与えて才能を伸ばす必要性がありますが、同時に企業はそうした人材を受け入れるリスクも考えなければならないでしょう。
『進撃の巨人』でエレンは、最終的に「調査兵団」や「国」という組織の枠組みを越えて、自ら成し遂げたいことを実現する道を選びます。エレンの存在は、調査兵団や壁の中の住民たちに大きな戦果をもたらしましたが、次第にその能力と志は、組織では扱えないほどに膨らんでいきます。組織は優秀な人材に機会を与えますが、そのことがかえって組織を飛び出す原因をつくってしまう。人材育成や組織運営における、最大のジレンマをよく描いたストーリーです。
これからの日本企業は、人材流出を覚悟して優秀な人材を取り込むことに挑戦できるのでしょうか。優秀な人材の離職は、技術の流出をもたらします。これは企業にとっては大きな損失です。しかし、テクノロジーが世界を変えうる現代社会において、優秀な人材を組織の中に一時的にでも取り込むことは、それ以上に企業の生き残りにとって重要な戦略になりえます。『進撃の巨人』は、そうした時代における「優秀人材活用の難しさ」と「リスク管理の在り方」について考えさせられる作品です。
ぜひ皆さんも、今回ご紹介した視点から『進撃の巨人』に触れてみてはいかがでしょうか。