To AI, or not to AI? それが問題だ
どのような人事分野にAIが向いていて、どのような分野には向いていないか。これを全ての企業に当てはまるフリーサイズな回答でまとめるのは難しいように思います。ただ、絶対的に言えるのは、盲点を少しでも解消できるよう、様々な専門家から多面的に意見を取り入れるべきだということです。私がGoogleの本社人事戦略室にいた頃のことです。新しい求人が開いた際、過去の応募者データベースをもとに、類似ポジションに合格したプロフィールと似ている候補者を自動的に汲み上げ、現場マネジャーへレコメンドするエンジンの開発が検討にあがりました。これは採用プロセスの“効率化”を主に見ているチームのマネジャーが考案したものでした。
一般的な採用プロセスは求人が開いた直後、採用担当が現場マネジャーへ求人についてヒアリングした上で、募集要件を整理するミーティングを行います。仮にアマゾンのオートサジェスト機能のように、以前の類似ポジションから汲み上げた候補者のプロフィールを、現場マネジャーへ即日送ることができたら、採用担当と現場マネジャーのすり合わせミーティングの必要がなくなり、採用担当のリソース削減のうえ採用時間の短縮にもなり、現場マネジャーや候補者の“体験”も総じて向上するのではないか、ということが論点でした。その際、その考案者が出した例え話がとても印象的で、今でもハッキリ覚えています。
「例えばアマゾンに“新しい靴下がほしい”と入力した時、買い物コンシェルジュがついてどんな靴下が欲しいか細かくヒアリング/コンサルティングされた上で候補が送られてくるのと、前回の購入履歴から最善のものが提案されるのと、後者の方がよい体験だと思わないか?」
たしかに、一理あるように思えます。しかし、私たちは諸々検討した結果、意識的にこのプロジェクトを見送る決断をしました。なぜか? 答えは明瞭です。従業員は靴下じゃないからです。
たとえ書面上全く同じ職種や職務等級の求人であっても、組織が人の集合体である以上、他者とのバランスを考慮して構成を考えなくてはいけません。そのチームが今おかれている状況、プロジェクトの特徴、他のメンバーの意識……といった要因も押さえながら、今そのチームに最も必要な人材の要件を明確化して、それから候補者の募集・選抜に取り掛かる方が懸命です。
同じ例え話の延長で言うと滑稽ですが、
「他の靴下と一緒の引き出しに入りたくない靴下はどうするべき?」(個人の働き方の嗜好や理念)
「今は靴下だけど、将来は手袋になりたい靴下はどう扱う?」(キャリアパス)
「引き出しの中が黄色の靴下でいっぱいだけど、将来フォーマルな場で困らないように他の色も揃えておいた方がいいんじゃない?」(チームのダイバーシティ)
というような、人間的な配慮がどうしても必要だという理由からの結論でした。
また、一見面倒なプロセスと捉えられてしまいがちな要件整理のミーティングですが、これは採用担当が“採用の専門家”として現場マネジャーに知識や別視点を与え、コンサルテーションを通してリレーションを構築するための場としても有用だとわかりました。なので、単純に効率化を追って撤廃してよいものではないという視点もありました。
このように、「効率」、「精度」、「体験」、「公平性」……それ以外にもさまざまな側面から、機械的に行うことが本当によいものかどうかを検討することが、今後ますますAIと関わっていくであろう私たち人事にとって必要なのだと考えます。