個人情報の健全な利活用へ向けての、これは第一歩だ
タレントマネジメントの隆盛により、各種のアセスメントやサーベイが開発され、ピープルアナリティクスの手法も当たり前のものとなりつつある。だが自身の内面や行動データの分析結果が(リクナビ問題のように)自分の望まぬ形で利用されるのではないか、分析結果が自分の価値を損ねることになるのではないかと、疑念を抱いている者も少なくないだろう。折しも2019年秋、個人情報に対する考えの“軽さ”が招いた事件が相次いだ。神奈川では、県庁の行政文書(納税記録などの個人情報を含む)記録に使われていたハードディスクがネットオークションに流出。データの消去とハードディスクの廃棄を請け負っていた業者の社員が勝手に転売したものだ。金沢では、市立病院の患者と職員のデータが外部へ持ち出される事案が発生。データの保守管理を委託された業者の社員が、個人情報を印刷した紙をメモ用紙として使用していたのだ。
総務省の『情報通信白書』平成30年度版によると、インターネット利用者の3分の2以上が何らかの不安を感じていて、うち89.5%の人の不安の源は「個人情報やインターネット利用履歴の漏洩」だという。上記の事件やリクナビ問題を振り返れば、そうした不安を抱くのも無理のないことだろう。
こうしたことから同白書では「企業はこのようなユーザーの不安を解消するような取組を講じなければならない」としている。今回策定されたガイドラインも、まさしく、個人情報の取り扱いに対する不安を払拭し、リクナビ問題や情報の流出によって失われた“企業による個人情報管理への信頼”を回復するための取り組みだといえる。
ただし、このガイドライン、個人情報を鉄壁の守備で囲むことが主旨ではなく、人事データを正しく利活用するため、という目的の下で生まれたことは理解しておかなくてはならない。
ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、ガイドラインが「社会の信頼に応える高い倫理観」に基づいていることを強調しつつ、「不要な懸念からデータ利活用によって生み出される未来の可能性、ピープルアナリティクスやHRテクノロジーの推進が妨げられることのないよう」に努めるとしている。実は個人情報保護法も、単に情報の保護を目的としているわけではなく、その第一条には、個人情報の適正かつ効果的な活用は「新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものである」と明記されている。
人権に配慮したピープルアナリティクスとHRテクノロジー運用によって、日本の産業界にイノベーションを起こしましょう。そうした意識が、個人情報保護法や今回策定されたガイドラインの根底にはあるのだ。
協会では、今回の案に対する指摘・意見・疑問点などを会員から募り、それらを反映したうえで2020年3月にガイドライン公表および一般向け説明会の開催を実現、以後も技術の進化に合わせて見直し・変更に取り組んでいくとしている。各企業はガイドラインに基づく形で具体的なルールの作成・明文化、システムの整備、管理・運用を進めていくことになるだろう。
そうして健全な個人情報の利活用は軌道に乗り、ピープルアナリティクスの効用が広く理解され、イノベーション創出へとつながる。そんな未来への第一歩を踏み出すものとして、このガイドラインは機能することになるはずだ。