新規事業を考えてみることが、数字を意識する訓練に有効

――今回の書籍は、危機的な状況下において、会社をつぶさない、強くしていく戦略のヒントがいくつも紹介されています。ずばり、どのような方に本書を読んでいただきたいでしょうか。

前田 経営者はもちろんですが、経理部や人事部といったバックヤード部門に属する方ですね。あと、部門を問わず会社全体の数字をあまり意識してこなかった方にもぜひ手に取っていただきたいです。

――HRプロでは、主に人事領域に携わる方々に向けて情報を発信しています。本書の中で、人事担当者に特に読んでほしい内容を教えてください。

前田 人事関連の業務を行っている方には、第8章『会社を潰さない「プロ社員」の採用、育て方』を読んでいただきたいですね。経営者の視座が備わった社員の育成方法について触れています。シンプルに利益率の逆算ができる、経営上の数字がわかる人を、私は計数感覚がある人と呼んでいます。人材育成に取り組むうえで、まず社員に利益率の計算式を教えるといった簡単なところから、計数感覚を意識する訓練が必要だと思います。

――訓練することで、計数感覚は育てられるものなのでしょうか。

前田 はい。計数感覚は訓練することで養えます。会社の数値を読めるようになったら、次に有効なのが、新規事業を考えてみることです。単に数字を積み上げるだけでなく、その根拠やリスクまで意識せざるを得ないので、かなり鍛えられますよ。経営者の視座がある人材を多く育成できると何がいいか。不況に強い、つぶれない会社にしていけるところです。

例えば、経営層だけでなく、若手社員や中堅社員などを含めた全社員が、新規事業のビジネスモデルを考えられる組織を想像してみてください。的外れではなく、利益を出せる堅実なアイデアが多く集まる分、危機を乗り越えられる確率はぐっと高まります。
不況で「つぶれない会社」にするには、社員の「計数感覚」を育てるべき――前田 康二郎氏インタビュー

社員のキャリア形成にもつながる経営者の視座

――新規事業を考えられる能力が身につけば、組織だけでなく自分のキャリアにもプラスになりそうですね。

前田 大いにプラスとなります。経営層から見て、数字を見られない社員は、危機的状況に陥った際、早い段階でリストラの対象になってくるでしょう。しかし、経営上の数字をきちんと見ることができる社員は、利益の出る新規事業を考えられるので、企業にとって必要な人材と言えます。経営者の視座を身につけることができれば、キャリアを形成していくうえでの自衛にもなるんです。若いうちから、儲かる新規事業をつくる能力があれば、これから一気にキャリアアップできますよ。社員のキャリア形成を考えるうえでも、新規事業の発想力は重要になってくるでしょう。

――では、新規事業を考えるうえで、どのような視点が必要になるのでしょうか。

前田 「損しないビジネスモデル」から考えることです。よくあるのが、やりたいことから新規事業を作ってしまうケースです。その発想であれば、利益よりやりたいことが優先されるので、ほとんどが初年度から赤字となり最終的には事業の撤退を迫られることもあります。そうならないためにも、私であれば、粗利50%以上、販管費20~30%という割合にしたビジネスモデルを構想します。

そうすれば、手元に最低20~30%は資金が残る計算になるので、簡単に会社はつぶれません。リスクを想定した予算の立て方は、まさに経理の視点です。計数感覚を養うためにも、例えば、利益率から逆算して最低でも粗利が50%以上のビジネスを社内で考えてみる。この条件で、社員向けの研修をやってみるのもいいかもしれません。

――最後になりますが、HRプロの読者にメッセージをお願いします。

前田 新規事業を考えるうえでもう一つ大事なことがあります。それは、既存事業の形態とずらす視点です。例えば、飲食店やスポーツジム、結婚式場といった多様なビジネスを展開している企業があったとします。しかし、よく見てみると、多様な事業に見えて全部が店舗経営です。その事業形態であれば、今回のコロナ禍のような事態が起こった場合には、一気に売上が傾きます。

つまり、リスク分散が重要ということです。先ほど、店舗経営を例に出しましたが、ある事業は店舗経営にしたら別の事業はオンラインにする、というように、BtoBとBtoC、直営と受託など事業形態をずらす視点を持てば、不測の事態が起きたとしても、会社をつぶすリスクは大きく減らせます。新規事業の発想力を鍛えることは、経営者の視座を持った人材輩出に有効です。本書の第7章『経理的視点による会社を潰さない新規事業や多角化の立て付け方』で、新規事業の考え方について詳しく取り上げているので、企業の人事担当者には組織強化のヒントとして活用していただきたいですね。

インタビューを終えて

「戦略人事」という言葉が人事領域で取りざたされているように、経営層だけでなく企業の人事も経営戦略を熟知しないといけない時代になっている。予測不能な社会のなかでは、本書で示されているようなつぶれない会社、不況に強い会社にしていくことで、企業は想定外の危機を回避することができる。『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』では、経理の視点から経営戦略を練ることの重要性、経営者の視座を持った人材の育成法などが紹介されている。自社の経営戦略に沿った採用や育成を実行するうえで、人事担当者に役立つ内容ではないだろうか。(HRプロ編集部)
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