廣瀬沙織氏講演 『自律分散型の働き方を前提に「Workforce Mix」を考える』
「人を育てるためのトレーニングがどのように変化し、何が求められているのかを探るためにATDに参加している」と、参加の理由に触れたのは株式会社ビジネスコンサルタント 探索・事業開発グループ主席の廣瀬沙織氏だ。今回は、「Workforce Mix」という考え方を軸にしたトークセッションの内容を報告した。廣瀬氏 2019年の「ATD」では、テクノロジーの進化を前提にした自律分散型組織の在り方を探るセッションが多く見受けられました。アメリカでは現在、変化の激しいビジネス環境に適応する「ティール組織」といわれる自律分散型の組織作りを進める企業が増えています。ティール組織の特徴は、自立した個人同士が有機体のように結びつき、外部環境の変化に合わせて進化していくことにあります。自律分散型の組織がイノベーションを加速させていくという概念は、すでに1970年代からいわれていましたが、テクノロジーの進化によってそれが可能になりました。
実際にアメリカでは、43%の労働者が在宅勤務可能な環境にいるといわれており、個人が場所に縛られずつながりながら仕事をしています。さらに、そのうちの97%が「これまでのような働き方は嫌だ」と考えており、組織の在り方は次のステージへ向かっていると考えられます。
また、次世代の人材が持つ特徴も、自律分散型組織への転換を後押ししているように思えます。アメリカではすでに、1990年代後半から2000年代に生まれた「Z世代」が注目を集めています。Z世代は親世代がリーマンショックを経験したことで、1社だけでキャリアを築くことをリスクだと捉えています。また「ITを使えばどこにいても働ける」という考えを持っているため都市志向でもありません。現在の学生は「38歳までに8~10の職業を持つようになる」といわれていることから、企業は人材戦略を見直さなければ立ち行かない状況になると予想されています。
その前提で興味深かったのが、「Workforce Mix」(労働力を効果的に調整すること)についてのセッションです。それによれば、「どの業務をAIに置き換えていくのか」という人とロボットのミックス、「どの業務は自社で労働力を確保し、どの業務は外部の人たちと協力するのか」といった社内外の人材のミックスなど、企業が戦略的に労働力の使いどころを考えていく必要性があると訴えていました。
セッションでは、この「Workforce Mix」を考察するにあたり、「Buy」「Build」「Borrow」「Bot」の4つの観点が示されていました。「Buy」は、採用時にいかに優秀な人材に自社の魅力を感じてもらうか。ある企業では、入社前にVRで会社の様子を体感してもらうなどの取り組みを行っています。「Build」は既存社員のスキルアップを行うことです。「既存社員が技術的な進歩についていけなければ、企業の成長は望めない」とアメリカの企業は今いる人材の「Reskilling」(スキルアップ)に対して投資を進めています。
「Borrow」は外部人材をどのように確保するか、社内人材をどのように活用するか、という観点です。「VALUE」という企業では従来の役職制度を廃止し、社員はスキル、関心ベースで自分が参加するプロジェクトを決めることができ、「少数によるプロジェクトベースで業務を進めている」そうです。「Bot」は、どの仕事をAIやロボットに任せ、また連携することで効率化を図るか、ということ。この4つの観点でWorkforceを見直すという試みは、強く印象に残った話でした。