超高齢化社会の課題を解決するために

AIを活用したサービスイノベーションで生み出せる価値とは
赤津氏 では、次に石山氏にAIを活用した超高齢化社会の課題におけるサービスイノベーションについてお話いただければと思います。

石山氏 サービスイノベーション及びテクノロジーの進化により、できることがどんどん広がり、チャンスが増えています。ここで、改めて自分自身が何をやりたいのかということを改めて考える、目的意識を持つ時代になってきているのではないでしょうか。明治維新から1970年代頃まで、日本は50歳以上が2割、50歳未満が8割という人口構造でした。しかし、2045年に50歳以上が6割、50歳未満が4割という人口構造になり、労働人口の減少が予測されています。21世紀型の超高齢化社会に対応するためには、AIを活用して社会課題をどう解決するかがポイントになるかと思います。世界が超高齢化社会へと変化していく中で、日本が世界で最初に超高齢化社会を迎えるといわれています。ノーベル賞受賞者など世界中の研究者たちから、日本は超高齢化社会の課題をどう解くのか注目されているのです。

介護の世界では、「見る」「触れる」「話す」など五感に働きかけることで認知症を改善する、「ユマニチュード」と呼ばれる新たな認知症ケアを取り入れています。ユマニチュードは、効果実感のある認知症ケアですが、医学的エビデンスを証明することが課題でした。そこで、AIの画像解析を使ってベテラン介護士や新人介護士による既存ケアとユマニチュードケアを時間で計測し、比較しました。その結果、従来のケアと比べてユマニチュードケアのほうが被介護者の満足度が高いことが判明したのです。今までエクセルにあったような介護記録は解析できても、実際にケアをしている行動履歴動画を解析する技術まではありませんでした。しかし、AI技術が上がったことで、初めて介護分野にも科学的イノベーションが起こるようになったのです。福岡市で自宅介護の方100人を対象に2時間のトレーニングをしていただき、1か月後の導入効果を調べた結果、認知症の方の症状が20%改善し、介護者の負担も28%低下しました。これが介護によるサービスイノベーションの一つ目の事例です。

2つ目が、介護現場でAIカメラ搭載型介護ネットワークを活用し、科学的介護を取り入れた事例です。AI搭載カメラで介護者がケアする様子を撮影してその動画をAIに送ると、人間が「この部分は改善したほうがよい」と目視でチェックできます。AIと人間がケアのダブルチェックを行うため、社会のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に結びつくのです。介護現場では、AI活用は医科学的効果だけでなく、経済学的にも効果があります。認知症ケアは長期的な介護が必要で、例えば要介護度4の高齢者を親身にケアしても、今まで改善することはほとんどありませんでした。しかし、AIによる介護効果の可視化とビッグデータを活用すれば、今後の要介護度が予測できます。将来的に要介護度5になりそうな要介護度4の高齢者を適切にケアすることで、要介護度5になることを未然に防ぐことができるのです。実際に自治体が持つ介護認定調査や介護給付実績情報を分析した結果、約80%の確率で3年後の要介護度悪化予測ができるようになり、介護現場で適切なPDCAサイクルが回せるようになりました。

AIを活用して企業・研究機関や病院・介護施設、国・自治体が共同で介護問題に取り組むことで、当初は2025年度の介護費は20兆円と予測されていたのですが、いまや16兆円まで削減できるといわれています。30%の成果運動を上げることもできるので、1.2兆円の収益が上がると予測されています。医学、経済両方のエビデンスをAIで連携させることで、介護費の大幅な削減が可能となり、今まで解決できなかった社会課題が解決できるようなったのです。当社の「ExaWizards=インクルーシブ・イノベーション」という言葉に置き換えると、テクノロジー分野のプロフェッショナルだけでなく、介護の達人も魔法使いのような存在です。介護の分野でいえば、介護士や介護者、自治体だけでなくさまざまな専門分野を持つ人たちが集まることで、社会課題を解決できるわけです。「みんなの認知症情報学会」ではAI研究者だけでなく、認知症患者も学会員としてAIの開発に参加することで、自分が自立するために「こんな機能を実装したい」と活発な意見を出しています。

藤川氏 介護専門家の方々も無意識のうちに実践していることがあり、それを科学やAIの力で可視化することで、他の方々にも知見を共有するトレーニングをしているのでしょう。それがインクルーシブ・イノベーションにつながっていくわけですが、その際の価値協創や価値獲得はどのように考えているのでしょうか。

石山氏 社会保障費は国や企業、家庭とさまざまな立場の人が負担しているわけですがが、再度コスト負担の考え方を価値向上とセットにし、それぞれの立場で配分比率を修正していくことを考えています。AIやテクノロジーの進化で、介護の世界に従来になかったさまざまな形のビジネススキームが誕生しているので、課金の仕方をもう一度見直す必要があるのではないでしょうか。

赤津氏 AIの発展が人間の仕事を奪うのではなく、人間もAIの知能として新たな価値を生むと考えていますが、そのあたりはいかがでしょうか。

石山氏 介護業界では介護ロボットの需要が叫ばれていますが、実際の介護現場ではロボット技術だけでは実現できないことがたくさんあります。現場のニーズを汲み取りながら、人間と介護ロボットの力を組み合わせていく必要があるでしょう。人間にも介護が得意な人と苦手な人がいます。その差分を埋めるためにAIやデータを活用する場が増えています。現場のニーズを汲み取りながら、技術を実行するためにサービスイノベーションがあると考えています。

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