成長意欲が高いのに管理職になりたくない。その理由は?

では、なぜ女性は成長意欲が高いのに管理職になりたがらないのでしょうか。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2015年に公表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」によると、女性は「管理職は家庭(プライベート)との両立が困難」と考えて管理職になりたくないと考える割合が男性に比べて高く、「管理職の多忙なイメージ」が子育て等の家庭生活との両立を困難と認識させ、女性の昇進意欲を低下させていると指摘しています。

 子育てが両立困難の主な要因なのであれば、子どもがいない女性は子どもがいる女性よりも管理職意向が高くなると考えられます。しかし、今回の調査データで家庭の状況(未既婚・子ども有無)別に管理職意向を見たところ、男女ともに「未婚・子なし」で管理職意向が低く、子どもがいる女性は子どもがいない女性よりも管理職意向が高い傾向が見られました(図4)。日本においては未だなお、第1子出産を機に正社員として働く女性の約3割が辞めるなか*1、もともと管理職意向がある人が出産後も働き続けていることも考えられますし、既婚男性に関しては、家庭をもち、一家の大黒柱として出世することをよしとする規範意識が根強く残っているのかもしれません。
「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない
いずれにせよ、未婚や子どものいない女性でも管理職意向が低いことから、「家庭(プライベート)との両立困難」で管理職になりたくない、という女性の思いは、子育てとの両立に限られるものではなさそうです。少なくとも、しばしば言われる「両立困難」という理由は、深掘りする必要がありそうです。管理職になりたくない人たちにとって「子育て等の家庭との両立」は表面的な断り文句であり、実のところは長時間拘束されて過大な責任を負担する旧来型の管理職のあり方に疑問を呈しているのかもしれません。

「副業・兼業」や「クリエイティブ・オフィス」、「テレワーク」が推進されている職場で女性の管理職意向が高い

現在の働き方改革においては、長時間労働の是正がメイントピックに据えられています。職場の長時間労働是正は、女性が管理職として働きやすい環境を整える上でも有効であると考えられますが、女性管理職を増やすにあたって、果たしてそれだけで十分なのでしょうか。
今回の調査結果から、働き方に関するどのような取り組みが女性の管理職意向に影響するかを見てみたいと思います。
「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない
図5より、成長意欲がある20代・30代女性全体と比べて、「長時間労働の是正」やそのために必要である「業務の見直し」を推進している職場では女性の管理職意向が高くなっていることが見て取れます。しかし、それ以上に「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス」「在宅勤務・オフィス外勤務(以下、テレワーク)」を推進している職場で女性の管理職意向が高いことがわかります。「副業・兼業制度」を導入した職場では51.5%が管理職になりたいと答えており、20代・30代女性全体の平均20.0%と比べると2倍以上の水準となっています。

なお、男性においても図6に示すように、長時間労働の是正よりも「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス」「テレワーク」を推進している職場で管理職になりたい人の割合が高くなっていますが、各種施策を推進していると全般的に管理職意向が高く、施策間に大きな差は見られません。
「管理職になりたがらない女性」を「意欲が低い女性」と同一視してはいけない

時間・場所に縛られない働き方が未来の管理職のあり方を変える

「副業・兼業」や「クリエイティブ・オフィス」、「テレワーク」が推進されていると女性の管理職意向が高いということをどのように捉えたらいいでしょうか。

まず、「副業・兼業」および「クリエイティブ・オフィス」の推進に関しては、「時間による成果やコミットメント」を求める風土ではなく、「創造性」や「時間にかかわらないパフォーマンス」を求める風土への転換が促される可能性があります。
Kato,Kawaguchi,and Owan(2013)は企業内人事データの分析により、女性においては長時間労働の人が昇進しやすいという関係を示していますが*2、副業・兼業やクリエイティブ・オフィスが推進されることで、時間によるコミットメントを重視する風土が形骸化し、時間的制約が生じやすい女性も勤務時間をセーブしながらキャリアを伸ばしやすい環境が形成されると推察されます。
欧米では、「週4日勤務の管理職」や「管理職の役割を複数名でシェアリングする(ジョブシェアリング)」などのフレキシブルな管理職の形態も見られます。時間によるフルコミットメントを重視する風土が見直され、そうした柔軟な管理職のあり方が実現すれば、管理職は女性にとっても魅力的なポジションになりうるのではないでしょうか。

一方、「テレワーク」の促進は、場所の拘束からの解放を意味します。従来も、子育て中の女性にはテレワークが特権として認められることはありましたが、最近では制度を全員に適用する企業も徐々に増えてきています。他のメンバーもテレワークで働くようになれば、管理職になっても気兼ねなく制度を利用できる環境が整うと考えられます。

まとめにかえて

繰り返しになりますが、本稿で示したように、女性が「管理職になりたがらない」からといって「成長意欲が低い」わけではありません。「成長意欲」という仕事に対する前向きな姿勢があっても、旧来の管理職のあり方ではやっていけないと感じていることが問題なのです。

今回の調査結果からは、「副業・兼業制度」「クリエイティブ・オフィス(創造性を重視した執務スペース)」「テレワーク」の推進といった、より多様で柔軟な働き方へのシフトが、女性の管理職意向を高める可能性が示唆されました。勿論、厳密な効果を測定するには制度導入前後における意向の変化の分析などが必要ですが、今回の結果は取り組みを推進する上で1つの拠り所になるのではないでしょうか。

長時間労働の是正はファーストステップではありますが、その先に、従来の時間・場所を拘束される管理職のあり方が見直されるとき、女性にとっても管理職の仕事は実現可能で魅力的に思えるようになるのかもしれません。


【注】
*1 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2015)
対象は子どもが1人以上いる初婚どうし夫婦であり、第1子出産前後の正規職員(妻)における就業継続率は
2010~14年で69.1%。
*2 “Dynamics of the Gender Gap in the Workplace: An Econometric Case Study of a Large Japanese Firm,” with Takao Kato and Daiji Kawaguchi, Discussion Paper 13-E-038, May 2013.
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■パーソル総合研究所 「働く1万人の就業・成長定点調査2018」 調査概要
手法:個人に対するインターネット調査
調査対象者:全国男女 15歳~69歳 有職者(派遣・契約社員・自営業含む)
サンプル数・内訳:回収数10,000s 性別及び年代は国勢調査(就業人口構成比)に従う
調査時期:2018年2月

執筆者紹介
株式会社パーソル総合研究所 研究員 砂川和泉
東京大学文学部(社会心理学専修課程)卒業。大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。化粧品、および、ヘルスケア業界の定量・定性調査全般を担当した他、ID-POSデータの分析や各種予測モデル作成も経験。2018年より現職。
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