最初の部下、Firmanの突然の退職
4年前、私がインドネシアで働きだして、まだ間もない頃の話だ。Firmanというインドネシア大学卒の優秀な部下がいた。インドネシアでの、私の最初の部下だ。彼は日本語が堪能で、性格も穏やか。頭もよく、いつも真面目に働いてくれた。私はインドネシアに来たばかりで、英語もインドネシア語もまだろくに話せなかったが、彼とはいいコミュニケーションが取れており、心強い戦力になってくれていた。「なんだ。インドネシアも日本も同じ。今までの経験は十分通用するぞ」と自信を持ちはじめたある日、突然Firmanが「辞めます」と言い出した。日本でも辞めてほしくない部下に辞められた苦い経験は何度かあったが、その前に現出する “辞めそうサイン”は察知できる。社内の人間関係、仕事内容、夢と現実の乖離などで本人のモチベーションが低下してきていることは、少なからず相手から感じ取れるものだ。そんな時私は、深い会話をしたり、環境を変化させたり、本人自身の変化を促すことにより、退職を回避するようにしてきた。
しかしこのFirmanの一件は、寝耳に水だった。当時、彼しか部下がおらず、辞められると困るので熱心に説得したが、時すでに遅し。意志は固く、笑顔で退職を告げる彼の前に私は折れ、最後はお互いの今後を応援しようと爽やかに別れた。
前々回のコラムで取り上げた、ミルトン・ベネットの「異文化感受性発達モデル」の発展過程に、「Minimization:違いの矮小化」という段階がある。ここは、「インドネシア人も日本人も皆おなじ!」と分かった風なことを言うというレベルだが、まさに当時の私はそうだったと思う。確実にある違いに目を向けず、なんとなくうまくいっていた現状に自分を過信していたのだろう。このような状況を防ぐためには、まずは歴史的背景やその国の常識を勉強し、違いを把握しておくことが重要である。
ということで今回は、JACリクルートメントインドネシア(以下JAC)の小林社長と労務の専門家の長濱さんにお話を伺った。JACは、2002年に設立されたインドネシアにおける人材業界のスペシャリスト集団。人材紹介事業だけでなく、労務問題の課題解決にも専門家を揃え取り組んでいる。小林社長には公私ともどもお世話になっているが、今回は改めて、就労観念や賃金事情など、インドネシア人の特色や考え方についてご説明をいただいた。