前回に引き続き、HR総合調査研究所が、2013年6月28日から7月10日にかけて実施した「新入社員研修に関するアンケート調査」の結果を報告する。今回は、メンター制度の導入状況、フォローアップ研修の実施状況、近年の新入社員の特徴などについて見てみたい。

ビジネスマナーの講師として社内スタッフは適当か?

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

入社時導入研修にかける予算は横ばいという企業が多く、全体の約7割に達する。「もともと予算はない」という企業が15%あるが、たぶん人事や役職者が講師になり、社内の施設を使って研修を行っているということであろう。
 予算増加の回答が最も多かったのは非メーカーの中堅企業で20%、一方、予算減少の回答が最も多かったのは非メーカーの大企業で13%。非メーカーの大企業は増加の回答も13%となっており、増減の回答が拮抗しているが、その他のカテゴリーではすべて予算増加が減少を上回っている。
 「予算がない」との回答は中小企業に集中しており、メーカーでは22%に及ぶ。

図表1:入社時導入研修予算の対前年比

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

入社時導入研修の運営方法を見ると、講師は社内スタッフが多いことがわかり、完全社内派は3割程度、大半社内派は5割以上、外部委託派は10%台にとどまっている。
 企業文化や制度を教えるなら社内スタッフで良いはずだ。しかし、入社時導入研修でもっとも大きな目的になっている「ビジネスマナー」の講師として社内スタッフが務まるかというと疑問がある。社員として通用しているビジネスマナーが正しくない可能性もある。実際におかしな言葉遣いをするビジネスマンは多い。研修ではプロ講師を使った方がいいのではないだろうか。

図表2:入社時導入研修の運営方法

効果測定を見ると、形骸化している気配が濃厚

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

社内スタッフだけで実施する導入研修では万事が安易に流れがちだ。講師を依頼する、会場を確保する、新入社員を集める、予定の研修スケジュールをこなす、新入社員に感想を書かせて集める。これで一丁上がり、ようやく終わった、さあご苦労さん会で冷たい生ビールを飲もう。
 こんな研修になっている企業は多いはず。今回の効果測定を訊いたアンケートでも、多いのは「受講者アンケート」(56%)であり、2位は「受講者ヒアリング」だ。しかし研修に効果を求めるなら「事前・事後テスト」や「業務評価」による測定が必須のはずだ。ところが「測定していない」という企業すら15%もある。どうも「毎年のことなので単に実施」と形骸化している気配が濃厚だ。

図表3:入社時導入研修の効果測定

過半数がメンター制度を導入し、OJT指導員を配置

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

日本経済が強かった1980年代までの企業戦士は、仕事を通じて鍛えられた。当時も研修はあったが、職場で若手社員を養成することを研修とは意識することはまれだった。職場内の人間関係は濃密であり、毎晩のように飲みに出かけ、後輩がミスをすると説教したり励ましたりした。そして毎年4月になると新入社員が配属された。何事も人間臭かった。
 ところが、新入社員の配属がまばらになり、後輩を育てた経験のない社員が増えている現在は、もう少し丁寧にOJTを行う企業が増え、メンター制度やOJT指導員を配置している。
 メンター制度の導入状況を見ると、どの企業規模でもメンター制度かそれに近いことを実施している企業が過半数に達している。また企業規模が大きいほどメンター制度を導入している比率は高くなっている。

図表4:OJTでのメンター制度の導入

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

OJT指導員の数字はメンター制度と近しい。新入社員配属職場へのOJT指導員の配置状況では、過半数がOJT指導員を配置しているか、職場単位の判断に委ねられている。そして企業規模が大きいほどOJT指導員を配置していることがわかる。

図表5:新入社員配属職場へのOJT指導員の配置

メンターやOJT指導員のための研修・勉強会が足りない

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

メンターやOJT指導員は、仕事の指導というより、新入社員に寄り添い励ます母親的な色彩が強い。したがってメンターやOJT指導員を務めるためには、若者への接し方、話し方を身につけないと逆効果になる可能性もある。しかし、現状はそのための研修・勉強会が足りない。
 大企業では6割近くが研修・勉強会を実施しているが、中堅・中小企業では3割台にとどまっている。人を励まし指導するのは心理や言葉の技だから、習得する必要があるのではないだろうか。

図表6:メンター・OJT指導員向け研修・勉強会の実施状況

入社時研修より20ポイントも低いフォローアップ研修の実施率

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

新卒採用の研修を時期別に見ると、入社前研修、入社時研修、入社後に期間を経て行われるフォローアップ研修の3つがある。今回の調査から実施率を見ると、入社前研修の実施企業は67%、入社時導入研修は91%、フォローアップ研修は73%。入社時導入研修はほとんどの企業が行っているが、他の研修は20ポイント前後も低い。また中小企業ではフォローアップ研修の実施率は低い。ただ、今年から実施する企業も1割り近くあり、今後さらに実施率が高くなることが期待できそうである。
 確かにフォローアップ研修を実施するには手間がかかるし、配属先からは「現場に任せろ」という声もあるだろう。しかし、厚生労働省職業安定業務統計によれば、大学卒の新入社員の3割が3年以内に離職する。この3割を少なくし、できればゼロにするためにはリテンション施策が必要だ。この観点からもフォローアップ研修は必要だ。

図表7:新入社員フォローアップ研修の実施状況

歳時日程に従うフォローアップ研修の実施時期

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

フォローアップ研修の実施時期は、入社時研修が終わって一段落した6月の梅雨時に始まるが、企業でも夏休みを取る人が多い8月になると下火になる。
 秋の清風が吹く10月は新入社員が入社後ちょうど半年。もっとも多い。年末を意識する11月に入ると低調になり、1月はもっとも少ない。春の足音が聞こえ始める2月から増え始める。この流れは日本の歳時と同じである。
 入社1年経過後の2年目研修を実施する企業は4社に1社の割合。こちらも今後はさらに増えるものと思われる。

図表8:新入社員フォローアップ研修の実施時期

キャリア教育が予想以上の効果?

「新入社員研修に関するアンケート調査」結果報告【2】

最後に、近年の新卒新入社員の特徴を紹介しよう。近年、若者の質が下がったというバッシングが常識になっており、その原因として、ゆとり教育、入試なしに入学してトコロテン式に卒業、大学の数が増えすぎ、進学率が5割を突破などが挙げられる。
 特に、ゆとり第一世代が卒業した2010年に若者バッシングは頂点に達した感があった。人事部アンケートでも新入社員に対し「コミュニケーション能力の欠如」「積極性に欠ける」などの評価が下されることが多かった。
 今回の調査でも「受け身的である」が47%もあり、積極性に関してはマイナス評価。ただトップは「まじめである」の61%だ。「まじめである」は「まじめだが融通が利かない」「まじめだが積極性に欠ける」とマイナス評価に通じることもあるが、まじめそれ自体はプラス因子だと思う。
 そして「他者との争いを好まない」(28%)、「失敗を恐れる」(27%)などのマイナス評価の項目は、いずれも3割以下とそれほど多くはない。毎年不足が指摘されていた「コミュニケーションが下手」にいたっては18%しかない。
 明らかに昨年、一昨年の評価より高くなっている。なぜそうなったのかははっきりしないが、大学のキャリア教育が予想以上に効果を上げている可能性もある。

図表9:近年の新卒新入社員の特徴

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年6月28日~7月10日
有効回答:389社(1001名以上99社、301~1000名127社、300名以下163社)

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