「人事関連の重要課題」を聞くアンケート調査で、つねにトップになるのが「教育・能力開発」と「優秀人材の確保」だ。HR総研の調査では2012年アンケートの1位は「優秀人材の確保」だったが、2013年は順位が変わり、「教育・能力開発」が1位になった。
 HR総合調査研究所は「人材育成に関するアンケート調査」を2013年3月13日から25日まで行い、各企業が実行している人材育成状況を調べ、その施策を聞いた。その調査結果を2回にわたって報告する。

教育研修の専門部署には、規模によるきれいな相関

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

今回のアンケートで最初に確認したのは「教育研修を担当する部署」の有無だ。これは規模別にきれいな相関が得られた。規模が大きいと専門部署を持ち、規模が小さいと兼任や現場まかせになる。
 「1001名以上」では71%が専門部署を持ち、兼任は27%と少なく、現場での個別対応は皆無。ところが「301名~1000名」になると専門部署を持つ企業は半減して36%、兼任が57%と急増する。しかし現場での個別対応は3%であり、とても少ない。
 「300名以下」になると数字が急変する。専門部署は20%と少なく、兼任が最多の52%。そして現場での個別対応が22%もある。

図表1:教育研修を担当する部署

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

続いて「専門部署のスタッフ数」を見てみよう。「教育研修を担当する部署」で「専門部署」と回答した企業が母数になっている。
 一目瞭然だが、「1001名以上」では1~3人のスタッフは1割程度に過ぎず、残り9割は4人以上のスタッフいる。しかし「301名~1000名」になるとボリュームゾーンは2~4人で、合わせると77%に達する。ところが「300名以下」になると数字は激変し、1~2人の企業が65%を占めている。
 一般的に戦略とは専門部署で練られ実行されるものだから、大手ほど人材育成に戦略性(目的と手段)を持ち、規模が小さくなるほど、人材教育は組織ではなくスタッフ個人や現場に委ねられているように見える。

図表2:専門部署のスタッフ数

社員全体の能力養成を重視する企業が過半数

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

「人材育成の方針」についても聞いた。選択肢は「全体」か「選抜」かである。どの企業規模でも「社員全体の能力を高める教育研修」「どちらかというと社員全体の能力を高める教育研修」が過半数を占めており、「どちらかというと選抜した社員の能力を高める教育研修」は3割程度だ。「選抜した社員の能力を高める教育研修」は「1001名以上」では7%だが、「301名~1000名」と「300名以下」では皆無に等しい。
 フリーコメントの声を拾ってみよう。
「現実問題として、社員全体においてレベルギャップが大きいため」(51名~100名、精密機器)
「正社員比率が下がっている。すべての正社員が能力を高めないと会社全体のレベルが上がらない」(301名~500名、運輸・倉庫・輸送)
「次期経営者、管理者の研修は必要。けれども、組織自体が学習する組織にならなければ、変化対応は不可能になるから」(101名~300名、化学)
 日本では全体研修が主流なのである。

図表3:現在の能力開発の方針(全体、規模別)

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

しかし違う角度で調査すると、別の側面も見えてくる。まず昨年度の同一アンケートの数字と比較してみると、「社員全体」が低下し、「選抜した社員」が増加していることがわかる。

図表4:現在の能力開発の方針(全体、2012年と2013年比較)

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

次に今回の調査で「今後の能力開発の方向」を聞いたデータを「現在」と比較したグラフを見てもらいたい。「社員全体の能力」は横ばいだが、「どちらかというと社員全体」の「今後」は15ポイントも低下している。
 そして「どちらかというと選抜した社員」の「今後」は7ポイント、「選抜した社員」の「今後」は6ポイント上がっている。
 このデータだけで即断はできないが、選抜した人材育成の必要性が高まっているように見える。たぶん「次世代リーダー」の養成を意味しているのだろう。

 フリーコメントをいくつか紹介しよう。
「現在は、世界中で様々な市場が興隆、好不況が交錯しているという環境、新興国とのコスト競争という環境の下、投資対効果を重視せざるを得ない状況である。また、様々な市場に合わせた人材の育成、修羅場経験が豊富だった団塊世代に代わるリーダーシップを持った人材の育成が必要であり、教育研修の選択と集中を行う必要があると思われるため」(1001名~5000名、電機)
「グローバル化するビジネスに合わせて、人材開発を進める場合、そのリーダーとなる人材を育成することにフォーカスせざるを得ない。人数規模からしても、全体をカバーすることは難しい。ただし、E-Learning等の手段を使い、全体への啓蒙活動は不可欠で、そういう観点では、社員全体の教育、理念浸透というアプローチも別途必要」(5001名以上、情報処理・ソフトウェア)
※「全体重視」と「選抜重視」ではフリーコメントのボリュームに違いがあり、「全体重視」はあっさりした短文が多く、「選抜重視」は長文が目立つ。問題意識の違いを示しているのではないかと思われる。

図表5:今後の能力開発の方針

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

図表6:現在と今後の能力開発の方針比較

人材育成の方法はOJTが圧倒的。しかし中身を検証する必要あり

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

人材育成の方法はOJTとOFF-JT、どちらを重視しているかを問うてみた。当たり前のことながら、どの企業階層でもOJTが圧倒的だ。とくに多いのは「1001名以上」で「OJT重視」32%、「どちらかというOJT重視」53%で、合わせて85%に達する。また「どちらかというOFF-JT重視」と「OFF-JT重視」は合わせて5%しかない。
 ところが「301名~1000名」と「300名以下」では数字か少し変わる。「OJT重視」と「どちらかというOJT重視」を合わせた数字は、「301名~1000名」では69%、「300名以下」では76%で、「1001名以上」よりかなり少ない。
 その一方で「どちらかというOFF-JT重視」と「OFF-JT重視」を合わせた数字は、「301名~1000名」で14%、「300名以下」で13%あり、「1001名以上」よりかなり高い。
 この数字を見ると、大企業は中小企業と比べ、OFF-JTよりもOJTを重視する傾向が高いという結論になるが、それは、OFF-JTの果たす役割のレベル感に対する認識の違いによるものであろう。なぜなら先に見たように大企業は人材育成の専門部署を持ち、多数のスタッフがいる。おそらく豊富な教育プログラムを持っているはずだ。それにもかかわらず、それ以上にOJTを重視しているということだ。

図表7:育成機会(全体、規模別)

役員や部門長、社員の要望に配慮しながら人事が研修メニューを立案

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

「教育研修メニュー」をだれが決めているかを問うた設問では、74%が「人材開発部門担当者の発案」と回答している。人事の裁量権がかなり強いことを物語っている。しかし独断で決めているわけではなさそうだ。
 「現場の部門長からの要望」56%、「役員からの指示」48%、「社員からの要望」33%だから、役員や部門長、そして社員の要望に配慮しながら人事が研修メニューを立案している。

図表8:教育研修メニューの発案ルート

人材開発の組織目標として少ない「即戦力の育成」

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

「人材開発の組織目標」のトップ3は「管理職の能力向上」66%、「若手社員の能力向上」63%、「中堅社員の能力向上」62%。他の項目より20ポイント近く高く、個々の社員の能力向上が目標とされている。
 続く40%台は、「長期的・計画的人材の育成」44%、「自律行動型人材の育成」41%。戦略性の高い人材開発目標なので能力向上より低くなっているものと考えられる。
 注目したいのは「即戦力の育成」が16%と、今回の選択肢の中ではかなり低くなっていることだ。人事が人材開発で想定する目標としては重視されていないようだ。

図表9:人材開発の組織目標

最も多いのは「一部の研修を外部委託」

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

研修の講師をだれが務めるかを聞いたアンケート結果を、規模別でまとめたのが次グラフだ。最も多いのはどの規模でも「一部の研修を外部」であり、4割台だ。ただ「1001名以上」に特徴がある。
 「1001名以上」は「ほとんどの研修を外部」が19%と少なく、「半分程度の研修を外部」が31%と多い。「301名~1000名」と「300名以下」は「ほとんどの研修を外部」が3割強と多く、「半分程度の研修を外部」が1割と少ない。正反対の数字になっている。
 冒頭に紹介したように教育研修の専門部署は大企業では充実しているが、中小では整っていないから、研修では外部に丸投げせざるを得ないので、中小では「ほとんどの研修を外部」が多くなっているのだと思われる。
 「半分程度の研修を外部」が大企業で多いのは、既存の外部研修期間との連携があり、メニュー化されているからであり、中小で少ないのは外部との連携が少なく、メニュー化されていないからだと思われる。

図表10:2012年度に実施した教育研修における外部機関の利用状況

規模が大きいほど多くなる1人当たり研修費

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

「2012年度の社員1人当たり年間教育研修費」を集計したのが左のグラフだ。全体と規模別を掲示した。全体平均で見ると、「1円~10,000円未満」と「10,000円~20,000円未満」が4分の1、「20,000円~30,000円未満」と「50,000円以上」が6分の1。そして78%が40,000円未満だ。
 規模別を見ると、企業規模が大きいほど研修費は多くなり、「1001名以上」では「50,000円以上」が23%とかなり多い。もっとも「301名~1000名」や「300名以下」でも10数%は「50,000円以上」の研修費を使っている。

図表11:2012年度の社員1人当たり年間教育研修費

コストと管理スタッフを要する研修メニューは小規模企業で少ない

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

012年度に実施した教育研修の手法を問うた結果を掲示したのが次グラフだ。数字が読み取りにくいと思うので、全体の数字を上げておく。業務時間内集合研修」80%、「OJT」77%、「外部機関への派遣研修」50%、「eラーニング」37%、「業務時間外集合研修」36%、「通信教育」35%、「合宿研修」31%、「海外研修」16%。 
 次に規模別の違いを見ていくと、「1001名以上」の突出ぶりが目立つ。「OJT」と「外部機関への派遣研修」は他の規模と大差ないが、その他の項目ではいずれもかなり多い。そしてその項目はコストがかかるものばかりだ。
 その一方で「300名以下」では、「eラーニング」「通信教育」「合宿研修」「海外研修」がとても低い。コストがかさむので実施できないという理由もあるだろうが、管理するスタッフがいないという理由もありそうだ。
 参考のために「今後より強化したい教育研修の手法」のデータも掲示する。「1001名以上」での「海外研修」の多さが目立っている。

図表12:2012年度に実施した教育研修の手法

「人材育成に関するアンケート調査」結果報告【1】

図表13:今後より強化したい教育研修の手法

【調査概要】

調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年3月13日~3月25日
有効回答:209社(1001名以上59社, 301~1000名58社, 300名以下92社)

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