企業の将来を担う若手社員の育成は、組織全体の活性化にもつながる企業成長の大きな鍵であり、多くの企業にとって重要な取組み課題であるといえる。
一つの企業に定年まで勤めるというキャリアがかつてよりも描きづらくなった昨今において、会社と自身のキャリアとの距離感に対する若手社員の意識も大きく変化している。そのような中で、優秀な若手社員を育成し社内で活躍してもらうためには、仕事のスキル向上だけでなく、個々人の仕事に対するモチベーションの状態をこまめに把握することや、一人ひとりのキャリア観に沿ったキャリア支援を行うといったきめ細やかな取組みが重要性を増している。
HR総研は、研修やキャリア支援等、各企業の若手社員育成への取組み実態について最新動向を調査した。調査結果をフリーコメントも含めて以下に報告する。

若手社員の育成計画、大企業は8割、中小企業は5割が作成

まず、「若手社員に対する育成計画の作成有無」ついて企業規模別に見てみると、「作成している」は、従業員数1,001名以上の大企業では83%、301~1,000名の中堅企業では73%と、いずれも7割を上回っている。一方で300名以下の中小企業では、「作成している」は53%と半数程度にとどまっており、大企業・中堅企業に比べて、若手社員の育成計画を作成している企業は少なくなっている(図表1-1)。

【図表1-1】企業規模別 若手社員に対する育成計画の作成有無

HR総研:若手社員の育成に関するアンケート 調査報告

「育成計画を作成している」企業を対象に、育成計画の期間を聞いたところ、大企業では「2年以上3年未満」が最多で24%、「3年以上4年未満」~「5年以上」の割合を合計した「3年以上」(以下同じ)は23%となっている。中堅企業では「1年以上2年未満」、「2年以上3年未満」がともに22%で最多となっている。また、「3年以上」も22%で大企業と同等の割合となっているものの、そのうち「5年以上」は0%となっている。一方、中小企業では「1年未満」が最多で41%となっており、「1年以上2年未満」(23%)と合わせた「2年未満」の割合は64%と6割以上に上り、大企業・中堅企業に比べて育成期間が顕著に短いことが分かる(図表1-2)。

【図表1-2】企業規模別 若手社員の育成期間

HR総研:若手社員の育成に関するアンケート 調査報告

若手社員育成で重視するスキルは「業務の専門知識・技術」が最多で5割

近年の若手社員の傾向と、企業が育成にあたって重視しているスキルについて見てみる。
「近年の若手社員について優れていると感じるスキル」については、「デジタルリテラシー・スキル」が最多で39%、次いで「業務の専門知識・技術」が25%、「コミュニケーション力」「適応力」「プレゼンテーション能力」がいずれも21%などとなっている(図表2-1)。2022年に実施した前回調査と比較すると、「業務の専門知識・技術」が前回の16%から9ポイント増加しているが、上位に挙がる項目は概ね同様となっている。

【図表2-1】近年の若手社員について優れていると感じるスキル

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一方、「近年の若手社員について物足りないと感じるスキル」については、「リーダーシップ」と「課題解決力」がともに最多で37%、次いで「ストレスマネジメント」が33%、「コミュニケーション力」が30%などとなっている(図表2-2)。前回調査で最多だった「ストレスマネジメント」が45%から12ポイント減少している点など、やや傾向の変化が見られる。

【図表2-2】近年の若手社員について物足りないと感じるスキル

HR総研:若手社員の育成に関するアンケート 調査報告

「若手社員の育成において重視しているスキル」については、「業務の専門知識・技術」が最多で50%、次いで「コミュニケーション力」が47%、「課題解決力」が44%などとなっている(図表2-3)。「業務の専門知識・技術」は前回調査時の44%から6ポイント増加しており、ジョブ型雇用への移行を進める企業も増える中で、若手社員の育成にあたっても専門的なスキルを重視する傾向が強まっていることがうかがえる。

【図表2-3】若手社員の育成において重視しているスキル

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育成による業務パフォーマンス向上の成果は約7割が実感

若手社員育成に関する成果の状況について、いくつかの観点から見てみる。
「離職率の適正化」については、「成果が出ている」(18%)と「やや成果が出ている」(58%)を合計した「成果が出ている派」(以下同じ)は68%となっており、7割近くの企業において、若手社員の離職率について概ね適正な値となっていることが分かる。「成果が出ている派」の割合について「知識・スキルの習得」では65%、「業務パフォーマンスの向上」では66%となっており、これらも7割近くの企業が成果を実感していることが分かる。
一方で、若手社員に「自発的なスキルアップ・学習の習慣」が身についているかどうかについては、「成果が出ている派」は42%と約4割、「組織の中核人材(管理職候補等)の確保」ではさらに低く35%と、4割を下回っている。会社が提供する研修やOJT等もあるため、スキル習得や業務パフォーマンスの向上については成果を実感しているものの、社員の自発的な学びの習慣化にまでは至っていない企業が多いことがうかがえる。

【図表3】若手社員の育成に関する成果

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若手社員のスキル習得状況を可視化できている企業は4割

若手社員の育成に関する具体的な取組み状況について、まず人材育成の前提となる現状把握や計画段階における取組みを見てみる。
「育成スキルの明確化」については、「できている」(17%)と「ややできている」(53%)との合計が70%と7割に上っているが、「スキル習得状況の可視化」については、「できている」(10%)と「ややできている」(28%)との合計が38%と、約4割にとどまっている(図表4-1)。若手社員の育成においては、新入社員研修に代表されるように、ある程度全員に画一的な研修を提供し、社会人としての基礎的な能力を高めるような育成も重要であると考えられる。ただ、前述の図表2-3からも分かるように、業務の専門知識や専門的なスキルの育成を重視している企業も多いことを思えば、ある程度社員のスキルの習得状況を個別に可視化・把握することも必要ではないだろうか。

【図表4-1】若手社員育成の具体的な取組み状況(現状把握・計画)

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次に、スキルの向上支援に関する取組みを見てみる。
「OJTの体制整備」については「できている」(17%)と「ややできている」(56%)との合計が73%と約7割となっている。研修をはじめとした「OFF-JTの機会整備」については「できている」(16%)と「ややできている」(48%)との合計は66%、e-learningや自己啓発支援といった「自己学習を支援する制度の整備」については合計が62%となっている。これらに対して、社外の研修への派遣等「社外との交流の促進」については「できている」(8%)と「ややできている」(33%)との合計は41%と4割にとどまっている(図表4‐2)。

【図表4-2】若手社員育成の具体的な取組み状況(スキル向上支援の体制)

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さらに、キャリア支援やサポートの取組みについて見てみる。
「社内におけるキャリアパスの明示」については、「できている」(22%)と「ややできている」(54%)との合計が76%となっており、8割近くに上った。「キャリア支援制度の整備」については、「できている」(10%)と「ややできている」(59%)との合計が69%、「上長との対話・フィードバック」は合計が67%となっており、いずれも7割近くとなっている(図表4-3)。

【図表4-3】若手社員育成の具体的な取組み状況(キャリア支援・サポート)

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若手社員に自発的なスキルアップ・学習習慣が身についている企業の特徴は?

若手社員育成の成果と取組み状況との相関関係を見てみる。
相関関係とは、二つ以上の事象について一方の数値が増加すると、もう一方の数値が増加または減少するような関係のことである。一方の数値が増加したときに、もう一方の数値も増加する関係にある場合、「正の相関がある」といい、反対に減少する関係にある場合には「負の相関がある」という。相関関係を数値で表す「相関係数」(r)は-1.0~1.0の範囲で値をとり、この相関係数の値が大きいほど強い正の相関があり、0に近づくほど相関が弱い関係であることを表している。
図表5-1は、図表3で示した5つの成果項目と、図表4-1~4-3で示した取組み項目との相関関係を示した表である。例えば、成果項目の「スキル習得」と、取組み項目の「習得スキルの可視化」との相関係数は、0.48となっている。「習得スキルの可視化」は他の取組み項目と比べて、「スキル習得」の成果との相関関係が最も強いことが分かる(図表5-1)。

【図表5-1】若手社員育成に関する取組み状況と成果の相関関係

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ここからは、成果項目ごとに各取組み項目との相関について詳しく見ていく。まず、「業務パフォーマンスの向上」に関する成果と各取組み項目との相関について見てみると、「OJTの体制整備」との相関係数は0.45となっており、他の取組み項目と比べて最も高い値となっている。次いで「OFF-JTの機会整備」は0.44、「習得スキルの可視化」は0.43となっている。一方でe-learningの提供や自己啓発支援等の「自己学習支援」は0.33と、相対的に低い値となっている。業務パフォーマンスの向上に必要なスキルや能力、知識などの習得については、社員の主体性のみに任せるのではなく、OJTや研修等でしっかりとサポートし、習得できているスキルを可視化していくことが、若手社員の効果的な業務パフォーマンスの向上と密接に繋がっていることがうかがえる(図表5-2)。

【図表5-2】業務パフォーマンス向上に関する成果と各取組み項目との相関

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次に、「自発的なスキルアップ・学習の習慣」に関する成果と各取組み項目との相関について見てみる。「習得スキルの可視化」との相関係数は0.54と最も高い値となっており、次いで「フィードバックの機会」が0.51となっている(図表5-3)。図表3で示したとおり「自発的なスキルアップ・学習の習慣」の「成果が出ている派」は42%と4割程度にとどまっている現状だが、各社員が習得しているスキルを可視化できていれば、個人の状況に合わせた支援も可能となる。また、本人の特性についてよく把握している現場の上長やOJT担当の社員からのフィードバックがあることも、自発的なスキルアップを促すためには効果的であると考えられる。

【図表5-3】自発的なスキルアップ・学習の習慣に関する成果と各取組み項目との相関

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次に、管理職候補など「中核人材の確保」に関する成果と各取組み項目との相関について見てみる。「社外との交流促進」との相関係数は0.51と最も高い値となっており、次いで「OJTの体制整備」が0.48となっている(図表5-4)。ただし、図表4-2に示すとおり、「社外との交流促進」について「できている」と「ややできている」の合計割合は41%で、他の取組み項目より取組みが進んでいない現状がうかがえる。中核人材を育成する観点では、社員が若いうちから社外との交流を経験させる必要があると推測される。
「OJTの体制整備」は多くの成果項目と比較的高い相関を示しており、若手社員の育成においては最も近くで指導する上司や先輩からどれだけ支援が受けられるかが、育成の成否と密接に関係していることがうかがえる。

【図表5-4】中核人材の確保に関する成果と各取組み項目との相関

HR総研:若手社員の育成に関するアンケート 調査報告

「離職率の適正化」に関する成果と各取組み項目との相関については、「OJTの体制整備」との相関係数が0.44と最も高い値となっており、次いで「フィードバックの機会」が0.38となっている。その他の取組み項目については、相関係数がいずれも0.2~0.3前後となっており、「離職率の適正化」の成果との相関関係はそれほど高くないことが分かる(図表5-5)。若手社員の離職を防止するためには、上司や先輩からのサポートや、適切なタイミングでフィードバックの機会を設けることが重要であることがうかがえる。

【図表5-5】離職率の適正化に関する成果と各取組み項目との相関

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「若手社員の育成」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2023年8月21~28日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:219件

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1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
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  ・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp

※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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