「新入社員の3人に1人が3年以内で辞める」ともいわれる時代の中、若手人材の早期離職を防止するため人事はどのような対策をして、どのような取組みに効果が出ているのだろうか。
HR総研では、若手人材の早期離職に関する状況や、離職率低下に向けた人事の取組みなどの実態を把握するアンケートを行った。フリーコメントを含めて調査結果を以下に報告する。

<概要>
●若手人材の離職の課題、「採用・育成コスト」「次世代リーダーの育成」
●離職率5%を越えると課題感を意識する傾向
●離職率が低い企業が推進する経営方針とは
●オンボーディング施策に離職リスクの分かれ道が?
●離職リスクはカジュアルな会話の内容をヒントに
●社内コミュニケーションの活性化が離職防止のカギか

若手人材の離職の課題、「採用・育成コスト」「次世代リーダーの育成」

企業の人事として若手人材の離職に対する課題感がどれほどあるのかを見てみると、「課題感がある」が27%、「やや課題感がある」が36%となり、これらを合計した「何らかの課題感がある」(以降同じ)は63%となり、6割の企業が若手人材の離職に対して何らかの課題感を感じていることがうかがえる(図表1-1)。

「何らかの課題感がある」の割合について企業規模別に見てみると、従業員数1,001名以上の大企業では71%、301~1,000名の中堅企業では78%、300名以下の中小企業では52%となっており、いずれの企業規模においても過半数が何らかの課題感を持っており、中小企業より大・中堅企業の方が課題感を持つ企業の割合が高いことがうかがえる(図表1-2)。
大企業より中小企業の方が1人の離職による影響を受けやすい印象であるが、課題感とまではなっていない企業の割合が、他の規模の企業よりも多くなっている。

【図表1-1】若手人材の離職に対する課題感

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

【図表1-2】企業規模別 若手人材の離職に対する課題感

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

若手人材の離職に対する課題感の内容について企業規模別に見ると、大企業では「採用・教育コストの損失」が最多で65%、次いで「既存社員の負担の増加」が63%、「次世代リーダー育成の停滞」が56%などとなっており、中堅企業および中小企業では「次世代リーダー育成の停滞」が最多でそれぞれ74%・66%、次いで「既存社員のモチベーションの低下」が51%・61%などとなっている(図表1-3)。
採用や育成に力を入れている大企業では、これまでに費やしたコストが無駄になってしまうことに対する課題感が強く、中堅・中小企業ではそれ以上に、期待していた若手のホープ社員に辞められることによる次世代リーダー候補のリセットや、活躍していた若手社員の離職がもたらす残された社員のモチベーションへの悪影響に関するリスクという、自社の未来に対する心配から来る課題感を持つ企業が多いことがうかがえる。

【図表1-3】企業規模別 若手人材の離職に対する課題感の内容

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

離職率5%を越えると課題感を意識する傾向

直近1年間における若手人材の離職率(直近離職率、以降同じ)については、大企業では「5%未満」が最多で39%、次いで「5~10%未満」が36%、「10~20%未満」が20%などとなっている。中堅企業では「5~10%未満」が最多で27%、次いで「10~20%未満」が25%、「5%未満」が24%などとなっている。中小企業では「0%」が最多で30%、次いで「5%未満」が23%、「5~10%未満」が17%などとなっている(図表2-1)。
中小企業では、離職率の低さが前項における「課題感のある企業の少なさ」につながっているとも言えそうである。一方、中堅企業では、「10%以上」(「10~20%未満」、「20~30%未満」、「30~40%未満」、「40%以上」の合計)の割合が47%と半数近くに上っており、他の企業規模に比べて若手人材の直近離職率の高さが深刻であると推測される。

企業の人事が持つ課題感の高さを直近離職率の高さ別に見てみると、「何らかの課題感がある」とする割合は、直近離職率「0%」の企業群では22%と2割にとどまる一方、「5%未満」の企業群では48%と半数近く、さらに「5~10%未満」~「20~30%未満」の企業群では8割程度以上、「30%以上」の企業群では92%と9割以上に上っている。この結果を見ると、直近離職率「5%以上」となるタイミングで課題感が強まる傾向にあるようだ(図表2-2)。

【図表2-1】企業規模別 直近1年間における若手人材の離職率

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

【図表2-2】課題感別 直近1年間における若手人材の離職率

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

若手人材が離職する要因としてはどのようなものが多いのだろうか。
企業規模別に見てみると、大企業では「業務内容のミスマッチ」が最多で46%、次いで「上司との人間関係」と「社内でのキャリアアップが見込めない」がともに32%などとなっている。中堅企業では「上司との人間関係」が最多で53%、次いで「業務内容のミスマッチ」と「同僚・先輩・後輩との人間関係」がともに38%などとなっており、中小企業では「上司との人間関係」が最多で31%、次いで「待遇(給与・福利厚生)」と「同僚・先輩・後輩との人間関係」がともに30%となっている。大企業と傾向が異なり、中堅・中小企業では「職場の人間関係」が離職要因の多くを占めていることがうかがえる。
中堅・中小企業では大企業より職場のコミュニティが狭くなりがちで、人間関係の状態が若手人材の心理状態に影響を与えやすいことがうかがえる(図表2-3)。

【図表2-3】企業規模別 若手人材の離職の要因

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

離職率が低い企業が推進する経営方針とは

次に、若手人材の直近離職率5%未満となっている企業の割合について、「ウェルビーイング経営」、「健康経営」、「従業員のキャリア自律」、「多様な働き方」、「年功序列の見直し」、「転勤を伴う異動の見直し」の6項目に関する自社での推進状況によって異なる傾向があるかを確認してみた。
すると、推進状況に寄って直近離職率に最も差異が出ているのが「ウェルビーイング経営」で、推進している企業群では「直近離職率5%未満」の割合が53%と過半数となる一方、推進していない企業群では34%にとどまり、その差異は19ポイントも生じている。次いで「健康経営」の推進状況によるもので、推進している企業群では「直近離職率5%未満」の割合が49%とほぼ半数であるのに対し、推進していない企業群では33%にとどまり、その差異は16ポイント生じている。「キャリア自律」推進している企業群では「直近離職率5%未満」の割合が49%とほぼ半数であるのに対し、推進していない企業群では38%となり、11ポイントの差異が生じている(図表3-1)。
これら3項目の推進状況による差異は統計的にも有意なものとなっており、特に「ウェルビーイング経営」は個人の幸福度にも繋がるものであることからも、社員一人ひとりがより良い状態で働ける環境を創出するために、非常に重要な概念となっている。

【図表3-1】経営方針の推進状況による、若手人材の離職率の違い

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

出社率による若手人材の直近離職率の違いも見てみると、「出社率70%以上」と「出社率70%未満」で直近離職率の違いが見えてくる。
「直近離職率0~5%未満」(「0%」と「5%未満」の合計、以降同じ)の割合が、「出社率70%以上」では36%であるのに対し、「30~70%未満」と「30%未満」では49%、50%となりほぼ半数に上っている(図表3-2)。
出社率が低いほど若手人材の離職率が低く抑えられるというわけではないものの、働き方の多様化が進む現代社会においては、ある程度のリモートワークも認めながら出社とリモートワークとのバランスが取れるハイブリッドな働き方を提供し、働き方の自由度を確保することが望ましいだろう。

また、キャリア支援に自社独自のキャリアパス(キャリアマップ)を作成し、それを活用しているかによる若手人材の離職率の違いも確認してみた。
若手人材の直近離職率の高さを3段階に分け、それぞれの段階において明確に「キャリアパス(マップ)を活用していない」とする企業の割合を見てみると、「直近離職率5%未満」では「キャリアパス(マップ)を活用していない」の割合は33%、同様に「直近離職率5~10%未満」では29%となり、3割前後で推移しているが、「直近離職率10%以上」では53%と顕著に多くなっている(図表3-3)。したがって、若手人材に対して自社で働くことでどのようなキャリアを築いていくことが可能なのかを明確に示すことによって、若手人材の将来に対する不安感を払拭し離職を防止することも有効な取組みの一つと言えるだろう。

【図表3-2】従業員の出社率別 直近1年間における若手人材の離職率

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

【図表3-3】直近離職率別 キャリア支援にキャリアパス(マップ)を活用していない企業の割合

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

オンボーディング施策に離職リスクの分かれ道が?

若手人材の早期離職を防止し、できるだけ早期に活躍できるよう、企業で実施している新入社員のオンボーディング施策について見てみる。
大企業では、「入社直後での導入研修」と「入社後の定期的なフォロー研修」がともに最多で53%、次いで「上司との定期的な面談(対面)」と「メンター制度」がともに39%などとなっている。中堅企業では「入社直後での導入研修」が最多で60%、次いで「上司との定期的な面談(対面)」が46%、「入社後の定期的なフォロー研修」が42%などとなっており、中小企業では「入社直後での導入研修」が最多で44%、次いで「上司との定期的な面談(対面)」が40%などとなっている。いずれの企業規模でも「入社直後での導入研修」が最多となっておりオンボーディング施策として定番化していることがうかがえる。一方、「入社後の定期的なフォロー研修」は大企業と中小企業では27ポイントもの差異があり、中小企業ではオンボーディングのプログラムとして組み込まれていない企業が多数派であることが分かる。また、対面での「上司との定期的な面談」は企業規模に関わらずオンラインでの面談より顕著に多く、オンボーディングにおける本人と上司との信頼関係づくりにも対面での面談が重視されているのだろう(図表4-1)。

【図表4-1】企業規模別 実施している新入社員のオンボーディング施策

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

直近1年間の若手人材の離職率別に、実施している新入社員のオンボーディング施策を見てみると、いずれの層でも「入社直後での導入研修」が最多で半数程度以上となっており、直近離職率が「5%未満」の企業群ではそれに次いで「上司との定期的な面談(対面)」が43%、「入社後の定期的なフォロー研修」が34%などとなっている。これら上位3項目については、他の離職率の企業群と比較して大差は見られず、離職率に関わらず必要な施策であることがうかがえる。一方、直近離職率により実施率に顕著な差異が見られるのは「長期目標(キャリアデザインの支援)」で、「5%未満」の企業群では28%、「5~10%未満」の企業群では27%と3割近くであるのに対して「10%以上」の企業群では16%と2割未満にとどまっている。また、「人事との定期的な面談(対面)」については「5%未満」の企業群で18%と2割未満にとどまるものの、「5~10%未満」の企業群では27% 、「10%以上」の企業群では41%に上り、直近離職率が高いほど実施率が高い傾向となっている。この結果を見ると、離職防止のためには、業務に直結する「短期的な目標」だけではなく、若手社員本人のキャリアデザインに関わる「長期的な目標」の設定と達成に向けた支援や、人事より直属の上司との対面での面談が有効であることが推測される(図表4-2)。

【図表4-2】直近離職率別 実施している新入社員のオンボーディング施策

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

離職リスクはカジュアルな会話をヒントに

実施している離職リスクの早期把握のための取組みについては、「評価時の面談」が最多で51%、次いで「サーベイ」が37%、「評価面談以外の定期的な面談」が34%などとなっている(図表5-1)。

【図表5-1】実施している離職リスクの早期把握のための取組み

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

実施した取組みの中で離職リスクの早期把握に効果が感じられる取組みは、「評価面談以外の定期的な面談」が最多で74%、次いで「人事面談」「業務以外の雑談」がともに71%などとなっている。これらの取組みは、実施率自体は3割程度以下と高くはないものの、実施した企業の中では7割以上が効果を感じている。効果を感じている企業では、形式や目的に囚われない場での会話から、若手社員の本音等を上手く引き出すことができているのだろう(図表5-2)。

【図表5-2】効果が感じられる離職リスクの早期把握のための取組み(実施率との比較)

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

社内コミュニケーションの活性化が離職防止のカギか

若手人材の離職防止を意識した取組みとしては、「社内コミュニケーションの活性化」が最多で42%、次いで「教育・研修制度の強化」が31%、「職場環境の向上」が29%などとなっている(図表6-1)

【図表6-1】 実施している若手人材の離職防止を意識した取組み

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

実施した中で効果が感じられる取組みは、「待遇改善」と「社内コミュニケーションの活性化」がともに最多で60%となっている。「待遇改善」については取組むことがかなわない企業も少なくないだろうが、「社内コミュニケーションの活性化」は実際に取組んでいる企業の割合でも最多で挙がり4割以上となっており、取組みやすい施策であり、若手社員の心理的安全性の担保やイノベーションの創出にも繋がるなど、若手社員の離職防止のみならず様々な副次的効果も期待される(図表6-2)。

【図表6-2】 効果が感じられる若手人材の離職防止を意識した取組み(実施率との比較)

HR総研:「若手人材の離職防止」に関するアンケート 結果報告

若手人材の離職防止に関する自由意見

最後に、若手人材の離職防止に関するフリーコメントについて、主な意見を抜粋して以下に紹介する(図表7)

【図表7】若手人材の離職防止に関する自由意見(一部抜粋)

若手人材の離職に関する自由意見従業員規模業種
社内の昭和な社風から令和の時代に合う社風への変革が必要と思っています1,001名以上メーカー
魅力ある職場を作る以外に根本的な対策はないが、ある程度の離職は仕方ない(当然)という認識も必要1,001名以上金融
そもそも企業として新卒社員のキャリアを描けていないのが問題1,001名以上情報・通信
次にしたいことがたとえ回り道などになっても気持ちよく働ける業務内容、環境が何か、それは一時的なものか、渇望するものなのか社員一人一人が考えて判断できるようにしたい。その上で当社で働き続けることを選択してもらえるよう会社づくり、組織づくりを心がけたい1,001名以上情報・通信
他社の事例等も参考にしているが、100社あったら100通りあると思います。 当社にはこのやり方が良いというものを指し示してくれるコンサルタントがあれば話を聞いてみたいです301~1,000名メーカー
中堅企業であるため、一定の実力がついた段階で大手に流れるケースが多い。それは仕方ない部分はあるが、ミスマッチで離職するケースは減らしていきたい301~1,000名メーカー
弊社は殆ど離職の無い会社ですが、一番大切なのは職場環境(社風)だと思います301~1,000名メーカー
日本の社会環境を考えると社内の努力ではどうにもできない問題が根深くあると思う300名以下メーカー
世代間ギャップを含めたこれまでの働き方が若手人材の離職に繋がっている面もあるが、職種或いは職場による職場環境による原因が増えていると考える300名以下メーカー
従業員数が少ない企業の場合、中堅層の負荷が高くなりがちであり、それを目の当たりにした1-3年目社員が将来を不安に感じる可能性がある(離職まで至っていないが、リスクがある)と感じています300名以下メーカー
専門的かつ同職場内の業務量の多さにおいて、自身のキャリアが想像できないように感じる。それに対するフォローアップの仕組みができていない。各階層での研修で意識するよう指導するも浸透しない300名以下メーカー
やはり将来のキャリアプランを一緒に考える取り組みが必要だと思います300名以下サービス
外資系企業に近い成長を促している反面、評価制度などは純日本企業に近いままのため、ミスマッチが生じ、早期に転職を考える傾向は高い300名以下マスコミ・コンサル

【HR総研 客員研究員からの分析コメント】

  • 曽和 利光氏

    株式会社人材研究所 代表取締役社長/HR総研 客員研究員 曽和 利光氏

    若手の離職を防ぐには、多様な働き方と求心力をいかに両立させるかが要点
    企業規模を問わず、若手の離職は「次世代リーダー育成の停滞」が課題として高い結果となっており、単なる人手不足への影響だけでなく、会社の未来への不安感を募らせることが伺える。若手は今も昔も「希望の星」ということは変わらない。
    離職の原因は上司や同僚との人間関係が多く、そこで彼らをつなぎとめるために会社の求心力を高めようと4割以上の企業が社内コミュニケーションを活性化させようとしており、3分の1以上が1on1ミーティングを実施している。面白いのは業務外の雑談の促進している企業の7割が効果を感じていることだ。
    乗り越えるべき壁となっているのはリモートワークなどの多様な働き方のようだ。意外にも出社率が30%未満と低い企業の方が離職率は低い。コミュニケーション密度を高めようと出社率を上げて、対面接触を高めようとするのは逆効果の可能性があるということか。
    つまり、コミュニケーション量が減りがちなリモートワークは継続しつつ、若手への求心力を高める施策が重要ということである。
    まず、個々の施策の前に、ウェルビーイングや健康経営、キャリアパスの明示なども離職率を左右していることから、このような企業の個人に対するそもそもの基本的な姿勢自体も若手の離職を防ぐためには重要なことと考えられる。
    そして、組織サーベイ(現在3分の1以上の企業が実施)などで社員の状況を把握したり、効果があると導入企業(現在5%ほど)の半数以上が述べているロールモデルとなる社員の紹介をしたり、導入企業の6割が効果ありとしている待遇の改善をしたりするなど、リモートワークなどでも実施しやすい施策の導入の検討が必要かもしれない。

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「若手人材の離職防止」に関するアンケート        
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年10月17~24日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:248件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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