働き方改革(多様な働き方)の実施状況として、「兼業・副業」「女性活躍推進」「外国人雇用」「高齢者雇用」「障がい者雇用」のテーマについて企業の動向を調査した結果を報告する。
「ダイバーシティ・マネジメント」の重要性は既に広く認知されているが、実際に多様な人材の活躍を目指し社員の多様な働き方を推進している企業は、どのような取組みを行っているのだろうか。
今回は、「兼業・副業」「女性活躍推進」のテーマに関する企業の動向を、フリーコメントを含めて以下に紹介する。

<概要>
●「多様な勤務時間の導入」が最多で7割、中小企業で対策の遅れ
●「兼業・副業の推奨・容認」は1割、業種によるハードルも
●「兼業・副業」を禁止している理由は「業務効率低下」が最多で6割
●「兼業・副業」を推奨・容認する目的は「社員の経験やスキルの向上」が最多
●「兼業・副業」の推奨・容認により実感した効果は「社員満足度の向上」が最多
●「兼業・副業の推奨・容認」を実施して生じた課題は「従業員の健康管理」が最多で4割
●管理職に占める女性の割合「10%未満」が7割以上
●女性管理職比率が3年前より「増えた」大企業は6割、女性活躍推進法の影響か
●「柔軟な働き方に向けた制度」、「産休・育休からの復帰支援」の実施が過半数、中小企業では「人事制度/評価の改定」も重視
●「産休・育休からの復帰支援」と「人事制度/評価の改定」に効果を実感が6割
●「女性活躍推進・女性登用」を進める上での課題、「意識面」が上位を占める

「多様な勤務時間の導入」が最多で7割、中小企業で対策の遅れ

まず、「多様な働き方」の実現に向けて、どのような施策に取り組んでいるのかを聞いてみた。ただし、新型コロナウイルス感染拡大防止の対応ではなく、平時の取組みとして実施している施策を対象としている。
すると、「多様な勤務時間の導入」が最多で67%となっており、次いで「テレワーク」が55%、「柔軟な勤務制度の導入」が54%などとなっており、6割前後の企業で時間と場所に関する多様な働き方の導入に取り組んでいることが分かる(図表1-1)。一方で、雇用形態や副業などの所属の多様化について導入する企業は2割未満にとどまり、導入へのハードルの高さがうかがえる。
企業規模別に見ると、従業員数1,001名以上の大企業では「多様な勤務時間の導入」が最多で83%と8割を超え、次いで「テレワーク」で69%と7割を占めており、これら施策の普及が進んでいることがうかがえる。一方、301~1,000名の中堅企業では「多様な勤務時間の導入」が最多で73%、300名以下の中小企業では「多様な勤務時間の導入」が最多でありながら53%など、5割以上には及んでいるものの、大企業と比較すると未だ導入が進んでいない企業が多い傾向にある(図表1-2)。導入に際するセキュリティー対策や社内規定の改正など必要となる対策が多岐に渡り、限られた資金と人員では対応しきれない現状がうかがえる。ただし、「兼業・副業の推奨・容認」については中小企業での割合が19%と最も多く、中小企業だからこそ優先して取り組みたい「多様な働き方」と言えるのかもしれない。

【図表1-1】「多様な働き方」に関して取り組んでいる施策

HR総研:働き方改革(多様な働き方)の実施状況に関するアンケート 結果報告【兼業・副業、女性活躍推進】

【図表1-2】企業規模別 「多様な働き方」に関して取り組んでいる施策

HR総研:働き方改革(多様な働き方)の実施状況に関するアンケート 結果報告【兼業・副業、女性活躍推進】

「兼業・副業の推奨・容認」は1割、業種によるハードルも

「兼業・副業」に関する企業の動向に注目してみる。
「兼業・副業」について「禁止している」とする企業の割合が51%で半数以上を占める一方、禁止していない企業の中では「申請・許可制」が36%、「容認」が10%、「推奨」は僅か1%となっており、社員の兼業・副業に対して慎重な企業が多いことが分かる(図表2-1)。
企業規模別に見ると、中小企業では「推奨・容認している」(「推奨している」と「容認している」の合計)が18%と2割近くに上っており、大企業や中堅企業(4%、5%)より顕著に高いことが分かる。
また、業種別に見てみると、大企業が多い「メーカー」や「商社」では「禁止している」企業の割合が6割以上を占める中、「マスコミ・コンサル」及び「サービス」では3割程度にとどまっている。自社で蓄積された保有技術や商取引ノウハウ・ネットワーク等、より多くの機密情報を持つメーカーや商社では、情報漏えいのリスクが懸念される兼業・副業に対してシビアになり、逆に、社員個人のスキルや能力を生かして起業しやすいコンサル業やサービス業では容認しやすい環境にあるのだろうか。

【図表2-1】兼業・副業に関する企業方針

HR総研:働き方改革(多様な働き方)の実施状況に関するアンケート 結果報告【兼業・副業、女性活躍推進】

【図表2-2】企業規模別 兼業・副業に関する企業方針

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【図表2-3】業種別 兼業・副業に関する企業方針

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「兼業・副業」を禁止している理由は「業務効率低下」が最多で6割

兼業・副業を「禁止している」とする企業に対してその理由を聞くと、「業務効率低下の危惧」が62%で最も多く、次いで「情報漏えい/企業ブランドの毀損」が44%、「従業員の健康管理」が34%などとなっている(図表3)。兼業・副業の負担が大きくなり、社員が自社業務に集中できない状況や社員自身の健康さえ害してしまうリスクや、情報漏えいのリスクは容易に想像でき、それを払拭するための効果的な対策が兼業・副業の容認への高いハードルとなっているのだろう。
このようなリスクを懸念する企業が多い中、兼業・副業を推奨や容認する企業のその目的は、どのようなものなのだろうか。

【図表3】兼業・副業を「禁止している」理由

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「兼業・副業」を推奨・容認する目的は「社員の経験やスキルの向上」が最多

「兼業・副業」を推奨・容認する企業のその目的としては、「社員の経験やスキルの向上」が最多で62%、次いで「生産性の向上」、「社員満足度の向上」、「社員の自立を促進」がともに42%などとなっている(図表4)。社員が通常業務や研修などでは得られない経験やスキルを兼業・副業を通して得られるともに、働き方の自由度を高めることで社員の満足度が向上することで、優秀人材の流出の防止や生産性の向上に繋がるなど、兼業・副業のメリットは社員個人のみにあるのではなく、結果的に企業にも還元されることが期待されている。

【図表4】「兼業・副業」を推奨・容認する目的

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「兼業・副業」の正社員と専業の正社員に待遇区別は無し

「兼業・副業」を推奨・容認する企業における「専業社員との待遇区別の有無」については、「区別していない」が96%、「区別している」は4%と、ほとんどの企業が専業社員との待遇に区別をしていないことが分かる(図表5)。

【図表5】専業社員との待遇区別の有無

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「申請内容による」兼業・副業の容認が6割

「容認するための条件」は、「申請内容による」が62%で最も多く、「自社の競合でないこと」が27%などとなっており、前述したとおり、兼業・副業を禁止する理由として挙げられた、様々なリスクを回避するための条件であることが推測される(図表6)。

【図表6】兼業・副業を容認する条件

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「兼業・副業の推奨・容認」により実感した効果は「社員満足度の向上」が最多

「兼業・副業の推奨・容認」をすることで効果を実感している企業の割合としては、「社員満足度の向上」で64%(目的として挙げる割合は42%)と最も多く、次いで「生産性の向上」で45%(同42%)、「社員の経験やスキルの向上」では31%(同62%)などとなっている(図表7)。このような結果から、現状としては、兼業・副業をすることで社員の満足度は顕著に向上している一方で、「社員の経験やスキルの向上」は「兼業・副業の推奨・容認」目的のトップであるものの、効果を実感できている企業はその半分に過ぎず、「経験やスキルの向上」、「自立の促進」、「優秀人材の流出防止」など、企業の発展に繋がる利益還元の効果を感じる企業は3割以下にとどまっていることが分かる。また、35%の企業は「効果の実感はない」としており、兼業・副業の推奨・容認の効果的な活用の難しさがうかがえる。

【図表7】目的に対して実感している効果

HR総研:働き方改革(多様な働き方)の実施状況に関するアンケート 結果報告【兼業・副業、女性活躍推進】

「兼業・副業の推奨・容認」を実施して生じた課題は「従業員の健康管理」が最多で4割

効果とは逆に、「兼業・副業の推奨・容認」を実施することで新たに生じた課題については、どのようなものがあるのだろうか。
最も多く挙がっている課題は「従業員の健康管理」で39%となっており、次いで「労働災害発生時の原因特定」、「社内不和の危惧」がともに23%となっている(図表8)。前述のとおり「禁止している理由」として多く挙がるのは、「業務効率の低下」や「情報漏えい」等のリスクへの懸念であるが、実施してみて実際に生じた課題はこれらとは異なり、健康・安全など「社員の労務管理」に関わる課題が比較的多いことが分かる。
「業務効率の低下」や「情報漏えい」等のリスクは、兼業・副業の容認の条件としてある程度回避することもできるが、社員自身の健康・安全のリスクは排除しにくい課題なのだろう。

【図表8】「兼業・副業の推奨・容認」を実施して生じた課題

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「兼業・副業」に関する自由意見

「兼業・副業」に関するフリーコメントでの意見を一部抜粋して以下に紹介する(図表9)。
賛成・反対の双方の様々な意見がある中、賛成しつつも労務管理等に関わる制度整備の必要性を感じる意見が多く見られた。

【図表9】「兼業・副業」に関する自由意見

自由意見従業員規模業種
副業をする必要が無い社会、企業を目指すべき。それを求めない人はフリーランスになれば良いのではないかと思います1,001名以上商社・流通
完全成果主義であれば推奨可能だが、シフト制や遅刻早退をカウントし給与に反映するような勤務体系をとっていると勤怠が乱れないことを条件に容認という方法になってしまう1,001名以上サービス
公務員のような専念義務がある職種を除けば、広く認めていくことがスキルセットの多様化のうえでも有益だと思う。ただ、それによるパフォーマンスの低下が見られた場合は明確なペナルティを課すことが必要である1,001名以上サービス
時代の流れから容認もやむ無しと考えるが、従業員の安全、健康の管理に対する方針、制度などの整備が必要と考える301~1,000名メーカー
従業員の視野を広げるためにも多様な経験・交流が必要と思いますが、古い体質の企業体ですので上層部の考え方が変わるかどうか次第と捉えています301~1,000名情報・通信
本業に役立つものなら、むしろ有用301~1,000名サービス
経営層の理解が重要300名以下メーカー
製造業では難しいと思う300名以下メーカー
禁止する時代ではないと思う300名以下メーカー
終身雇用制度の崩壊、実力主義、VUCAの世の中にあって企業が一律の研修制度で与えられるものには限りがあり、スキルアップの場としての複業は容認して然るべきである。そのため時間切り売りに繋がる単純労働のアルバイトなどは、「エンドユーザーと触れ合いたいから小売りのレジ」のように明確な目的を示せないのであれば禁止してよい300名以下金融

正社員に占める女性の割合「30%未満」が過半数

ここからは「女性活躍推進」について見ていきたい。
現時点における正社員に占める女性の割合(女性正社員比率、以下同じ)は、「10~30%未満」が最多で38%となっており、次いで「30~50%未満」が25%、「10%未満」が15%などで、「30%未満」(※)で56%と半数以上を占めている(図表10-1)。
従業員規模別に見ると、大企業では「10~30%未満」が38%で最多、次いで「30~50%未満」が30%などであり、これら上位2項目については中堅・中小企業も同様の並びとなっており、いずれの企業規模においても「30%未満」とする企業の割合が半数以上を占め、日本の企業における女性正社員比率の低さが表れている(図表10-2)。
一方、「50~70%未満」の割合は企業規模が小さいほど高く、中小企業では「50%以上」(※)の割合は24%となっている。特に中小企業では、男女関係なく限られた人員で業務を遂行する必要があるとともに、女性へのサービス提供など女性特有の感性が有利に働くニッチな事業を展開する企業もあり、このような企業では自ずと女性正社員比率が高い企業も多くなるのだろう。

※30%未満:「0%」~「10~30%未満」の合計
※50%以上:「50~70%未満」~「100%」の合計

【図表10-1】正社員に占める女性の割合(女性正社員比率)

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【図表10-2】企業規模別 正社員に占める女性の割合(女性正社員比率)

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管理職に占める女性の割合「10%未満」が7割以上

続いて、現在の「管理職に占める女性の割合」(女性管理職比率、以下同じ)については、「5%未満」が最も多く41%で、次いで「0%」で20%、「5~10%未満」で15%などとなっている(図表11-1)。
これを企業規模別に見ると、大企業では「5%未満」が48%で、中堅・中小企業よりは女性登用が進んでいるようにも見える。この要因としては、「女性活躍推進法」により常時雇用労働者が301人以上の企業に対して、女性活躍推進に関する行動計画の策定と情報公表が義務付けられており、これらを実施しなければ自社のイメージダウンにも繋がるため、大企業ほど危機感を持って女性活躍推進や女性登用に取り組んでいることが挙げられる。しかし、今後は同101人以上の企業にも義務付けられるため、今は努力義務にとどまる中小企業も他人事ではいられないはずである。一方で、「20%以上」(※)の割合は、中小企業では20%で大企業及び中堅企業より高くなっており、限られた人員の中で優秀な人材を有効に活用するため、性別問わずに重要ポストに抜擢する必要性が高いのも中小企業の特徴でもあるのだろう(図表11-2)。
ただし、前述のとおり女性正社員比率は30%未満が半数以上を占めていたが、図表11-3を見ると、女性管理職比率はさらに低く「10%未満」(※)で76%と7割以上に及んでおり、この数字から日本企業における男女格差の大きい現状が垣間見える。必ずしも女性管理職比率を高めることが女性活躍推進とは言えないものの、一つの評価指標として他の先進国と同等の水準まで上がっていくことが期待される。ちなみに、国際労働機関(ILO)発表の管理職に占める女性管理職比率(2016年)の国際比較では、アメリカ(43.8%)、イギリス(36.0%)、フランス(32.9%)、ドイツ(29.3%)、イタリア(27.7%)に対して、日本は12.9%と大きく後れを取っている。韓国は9.7%とさらに低い。

※20%以上:「20~30%未満」~「70%以上」の合計
※10%未満:「5~10%未満」~「0%」の合計

【図表11-1】管理職に占める女性の割合(女性管理職比率)

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【図表11-2】企業規模別 管理職に占める女性の割合(女性管理職比率)

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【図表11-3】女性の正社員比率と管理職比率の比較

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:多様な働き方の実施状況に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2020年4月13日~4月20日
調査方法:WEBアンケート
調査対象: 企業の人事責任者、人事担当者
有効回答:246件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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Eメール:souken@hrpro.co.jp

※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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