社会課題も気がつけば自分事に。答えのないものほど人は夢中になれる

寺澤実際のALIVEでのプログラムによる具体的な成功事例をお伺いしたいのですが、どのような課題に対して、どのような取り組みを行ったのでしょうか。

庄司直近の事例から一つご紹介します。答申先は、NPO法人体験型安全教育支援機構という主に子どもの安全教育に取り組む団体で、「日本初の安全を学べる体験施設を2025年までに設立する」というテーマが投げかけられました。資金も人手も機運もない、まさにないないづくしの中で、いかに解決まで導くか。非常に難しいテーマでしたが、参加者たちは3ヵ月間、安全教育について学びながら施設の設立に挑み続けました。そうした中、採用されたのが、「体験型の安全教室」という企画です。

寺澤企画だけでなく、安全教室自体の開催まで参加者が関わったのですか？

庄司はい。安全教室の開催からはALIVEの手を離れ、参加者の一部というか大部分が自主的にボランティアとして関わったのですが、クラウドファンディングで資金を集め、日本橋に会場を借りて、そこに手作りの街を再現したのです。今年（2021年）の3月に7回開催し、いずれも満席となりました。実際に危険を疑似体験した子どもたちはもちろん、一緒に参加した親御さんたちにも、街に潜む危険や危機意識の大切さが伝わったかと思います。さらにこうした催しを地元の人たちをはじめ、警察や学校などにも伝えることで、常設の施設設立へますます機運が高まることを期待しています。

寺澤ALIVEとしての活動は終わっているにもかかわらず、その後も参加者たちが自主的に続けているというところは驚きです。そこまで参加者が本気になって取り組んだということですね。

庄司そうなんですよ。いつの間にか、みんな自分事になっているんです。自分の満足のために、自分の大切な時間を使って、安全教室では自ら先生役も買って出ています。そうして子どもたちの喜ぶ姿や、親御さんたちの安心する顔を目の当たりにすることで、「社会の課題につながることで誰かのために貢献できるんだ」と、自信を持つ人は少なくありません。またそんな参加者の自信に満ちた表情を見ると、私自身も嬉しく感じますね。

寺澤昨今のSDGs（Sustainable Development Goals：持続可能な開発目標）に象徴されるように、企業は社会から遊離した存在ではない、社会の中で共生していかなければならないという考えが広がりつつあります。なかでも若い世代は価値観が大きく変わってきており、社会との関わりやその中での自分の存在意義を重視する傾向が強くなってきていますよね。

庄司おっしゃる通りで、ALIVEの参加者の中にもそういった新しい価値観を持った人が大勢います。ただ一方で、私はもともと社会課題を解決したくてALIVEを立ち上げたわけではないのです。重要なのは、答えのないものと向き合うこと。人間は答えのないものでないと本当に夢中にはなりません。つまり答えがないものを追求したらたまたま社会課題にぶつかって、それにたまたま参加者が夢中になったということだと思います。